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AI棒  作者: 君名 言葉
第三章 アーティカルグランプリ編
33/50

第三十三話 奇遇だね……

 勢いよくチーム"シン"の3人が前線に飛び出す。黒ずくめのアーティー達、チーム"メダロン"が決勝初戦で見せた、黒い霧を放つ【ベリアルジャッジメント】という特技。できれば、あの特技発動前に決着をつけたかったからだ。


「特技、【キャノン砲】発動!」

 コルンが先陣を切った。続けて、サキも攻撃特技を加える。

「早く終わらせてやるわ!はぁぁー……【幻影】発動よ!」

 おっと?初めて見る特技だな。まだまだストックは持ち合わせてるってことか。

 サキの周りに、ピンク色の靄のようなものが現れた。それを纏ったまま、敵陣へと近づいていく。

「ふん。小賢しい。【魔結界】じゃ」

 敵のチャンはサキの攻撃を警戒して、防御系特技を発動する。前方に、紫色の魔法陣が展開される。

 ボワーン……

 ピンク色の靄は広がっていく。突如として、サキがその靄から姿を現し、チャンの目の前に切り込んだ。

 バチバチバチッ!

 チャンの張った結界は、サキの攻撃を留めた。【幻惑】は、姿を隠して敵に近づき、不意打ちを狙う特技だったようだ。

「サキ!そのまま!」

 サキは防御型。前線にいても問題ない。コルンの撃った砲撃もそろそろ着弾するので、ここは連携でチャンを追いつめる。それに、あの特技は既に見せているし問題ない。

「目標。チャン。【音速斬り】発動……!」

『了解 目標確認 加速強化モード 変形 遂行 します』

 ウィーン……

 敵の位置は、万能型のマナがチャンの右後ろ、メダロンは後衛から相変わらず動かないか。サキは【魔結界】を攻撃し続けているから、これで壊せるはず。

 シュンッ!

 シンの体は一瞬でチャンの目の前に移動する。チャンがシンを視認する前に、魔結界を裂く。

 バチィッ!!!

「くっ……!もう少し!」

「なにぃ!?貴様、どこから……!」

「シン!押し切るわよ!」

 ジジジジ……!


 しかし、チャンの結界は破られなかった。あの黒幕が、やっと重い腰を上げたのだ。

 グァン!

 シンの横に、ハンマーが飛んでくる。その攻撃主は言うまでもない。とっさに気づいたサキがシンを守ったが、盾で防いでも相当のダメージを負いそうだ。ということは……次は……

「はぁぁぁぁ!」

「上からだよなぁ!当然!マナ!」

 ガキン!

 シンの双剣とマナの片手剣がぶつかり合い、火花が飛ぶ。

 打ち返してカウンターを狙ったが、彼女は万能型、スピード、防御がほかの型よりバランスよく振られているので、上手く回避されてしまった。チャンの援護のため、リーダーであるメダロンがシンを横から突き、マナが上から斬りかかる算段だったようだ。

「シンとかいうガキ……せいぜい楽しませてくれよ……今までの奴らは1人も張り合いがなかった……」

 これが、黒ずくめのアーティーのボス、メダロンの正体。声には何とも言えぬ恐怖の感覚が混じっていた。

「もちろん楽しませてやるよ。そんなこと言う余裕がない程な。もちろん、忘れてないよな?こっちのメンバーには……」

 シンの背後から、ウィーンとモーター音がした。完了したようだ。シンの背中から、緑色に輝いたボディのアーティーが飛び出してくる。

「僕がいるからね!!」

 そう、変身の完了したコルンだ。一気に距離を縮め、近距離での射撃で敵チーム全員一瞬を怯ませた。

「変身は厄介ね……メダロン、指示を頂戴」

 コルンの次の攻撃に備えたマナがリーダーであるメダロンに促す。

「まあそう焦るなマナ……変身アーティーが一匹二匹いようが関係ない……」

「ほっほっほ。そろそろじゃのメダロン。我らの真骨頂を見せつけてやらねばの。やっとぶつけられる程度の相手が出てきたんじゃから」

「ああ……タイミングは完璧だ……」


 シン達には、ぼそぼそ会話するメダロンのチームの内容は聞こえない。ただ、何らかの違和感を感じ取り、コルンとサキには出ないように指示する。

「おかしいな。コルンの変身だけでも大分脅威なはず。なぜあんなに余裕がある……?」

「シン、私の変身とシンの特技で勝てると思うわ」

 サキは、すぐに追い打ちをかけたいようだ。

「そうだよシン。変身特技もあるよ」

 コルンもサキに同意する。決断の暇などないのは分かっているが、本能が体を制御していた。

「うーん……」

 もちろん、シンからしてもこの場面ではすぐに詰めた方がいいに決まっているのだ。

 この違和感は何だ……?まさかもう奴らの思惑に……?

「始めようじゃないか……ここからが本当の勝負さ……」

 突然、メダロンが喋りだす。チーム"メダロン"の3人には、異様な雰囲気が感じられた。メダロンは続けた。

「分かっているさ……貴様らが強いことは……なに、同じトレース型同士仲よくしようじゃないか……」

「やはり気づいていたか。だが、この状況を自分有利で考えているのか?それなら考え直したほうがいい。まだ俺は1つしか特技を見せていないが、すでにお前は複数個の特技を開示しているんだぞ」

「フン……問題ない……薄々気づいているだろうが……私とお前の特技の傾向は全く違うということ……それに、貴様はまだチャンの本性もマナの本性も知らないのだから……」

「まあゴタゴタ言うなよ。さっさと決着をつけようぜ。発動するのは……【竜巻斬撃】だ」

『了解 発動します』


 これは、シンがコルンやサキにも初めて見せる特技。片手剣の特技は数多く持っているシンだが、特別訓練で戦った相手からトレースした強力な特技、【空気コントロール】と斬撃技を組み合わせることによって誕生した。高く飛び上がって下方に竜巻を起こし、落ちるときに真上から一刀両断できる。


「ほう……初めて見る特技だ……お手並み拝見と行こうじゃないか……」

「おらぁぁ!!」

 シンの視界が一瞬で高くなる。地上にいる者は目で追えないほどの速さで上空20メートルに達した。

 20メートルというのもカギで、これ以上範囲が広くなると仲間のコルンとサキにも当たってしまう。そのギリギリのラインまで調節できるのが強みだ。

 ブォォォォォ!!!

 シンの作り出した巨大な竜巻は、周囲の窒素や酸素を根こそぎ巻き込み、塵と同化して異形な化け物にも見えた。

「フ……やはりお前は面白い……」

 この状況でも見せる余裕ぶり……恐ろしささえ感じるな……だが、この特技をどう対処するんだ?

「フォッフォッフォ。ワシの出番か。マナ、しっかりやるんじゃぞ」

「分かってるわよ。早く行ったら」

「すまんな若造。その程度ではワシは落とせんよ。【吸収】発動……」

 また初めて見る特技だと……?一体何をするというんだ……

 チャンの発動した【吸収】によって、シンの作り出した竜巻はみるみるチャンの方向に引き寄せられていく。

 やがて、中心部のAIに吸い込まれ、特技が消滅してしまった。

「な……?!何が起こってるというの?!」

 サキの頓狂な声がシンの鼓膜に届いたのを最後には、シンの耳には何も入らなくなった。

 ただ、チャンの動向を凝視するだけだった。それからシンが我に返ったのは、何かの気配を感じてからだった。

 視界の左端に、黒い物体が動いたような気がした。


 ガツン……!


「ぐ……はっ……俺と……したことが……」

 片時のチャンスも見逃さないメダロンは、衝撃のあまり油断してしまっていたシンに、冷酷に奇襲を仕掛けた。何とか回避して致命傷は防いだが、腹部に多大なダメージが残った。

『ボディに 深刻なダメージを 負いました 一部機能を制限 し 自己修復 に入ります』

 まずい。こんなところで回避のスピードが遅れたりなんかしたら……

 メダロンの追撃はすぐそこまで迫っていた。しかし、心配はすぐに消え去った。

「【5秒間無敵】、発動!」

 毎度おなじみサキだ。詰めの甘さを日々実感するシンには、最も必要な防御要因。無敵時間の間に身を挺してシンを守り抜き、さらに攻撃を加えて後退させた。

「まったく。やめてよね、シン」

「すまないサキ……いつも……」

「早く復帰することね。コルン、しばらく2人で行くわよ!」

「了解!」


 なんとか一命を取り留めたシン。だが、ふとチャンの方に目をやると、そこには奇怪な光景が広がっていた。

「ふぅ……これで全部じゃマナ」

「はーい。さーあ破裂まで3、2、1……」


 ボォォォォォン!!!


「何っ!?」

【竜巻斬撃】を全て吸収し終えたチャンの体は、突然爆発し、粉々になった。部品があちこちに飛び散り、次第にその全てが細かく震えだした。

「これが復活型か……サキ、修復する前にチャンを!」

 変身状態のコルンは、通常のアーティーの何倍ものスピードで距離を詰める。ただ、そこで、さっきのチャンの発言の意味を知ることとなった。

「悪いわね。ここは通せないの」

 続々と集まりだすパーツの前に、マナが立ちはだかった。あの時、マナに何か頼んでいたのはそういうことだったのだ。

「変身状態の僕を舐めないでよ……!変身特技……【不死鳥】!!」

  特別訓練で大量のアーティーを一網打尽にしたコルンの最後の切り札。

 シンの特技もまだ残っており、サキの変身もあるという余裕が、ここで変身特技を使うという決断をコルンにさせたのだ。


 ゴォォォ…………


 あっという間に、バトルフィールドは黒い鳥のような形をした小型ロボットで埋め尽くされていく。

「な……」

 マナは変身特技を初めて見るのか、唖然としている。メダロンは、少し離れた所から、黙って傍観するだけだ。

「はぁぁ…………!」

 出現した黒鳥は、次々にマナに飛びついていった。恐らく、再び彼女の姿が見えるころにはAIは破壊されているだろう。なんとも恐ろしい特技だ。

 耳をつんざく鳥の音も次第に止み、再び姿があらわになった。が、しかしだ。


 マナのAIは破壊されていなかった。しかも、まだそれなりに余裕があるように見える。

 それに、背後にいたチャンのパーツも、ほぼ元通りになっていた。

「なんで……僕の変身特技が……」

 コルンは信じられない、といった顔をしていた。それもそのはず、変身特技は基本的に対処できない。

「私、知ってるわ……」

 サキが小さくつぶやいた。

「今、なんて……?」

「ちらっと聞こえたのよ……黒い鳥たちに包まれていく時、小さく、【強制執行】って」

 シンも粗方修復が完了したので、2人に近づいて行った。

「マナが特技を発動したって言うのか?サキ」

「多分ね。それで、その特技の内容なんだけど……一度だけ見たことがあるわ。【強制執行】。自分の全てのパーツの耐久値を半分の値にする代わりに、一回だけ何でも相手の特技発動をキャンセルできる……例え、変身特技でも……」

「そんな特技が……」

 アーティカルグランプリとはなんとすごい大会だろうか。これほどまでに初見の特技が見つかるなんて。だが予想に反して、ショックを受けていると思われたコルンは、前向きな言葉を述べた。

「耐久値を半分にしてキャンセル……ふふ……」

 なぜ笑っている?変身特技は最後の切り札、それをキャンセルされたのはかなりの痛手のはずだ。

「やせ我慢ねぇ。あなたの一番の脅威はもう去ったわよ。後は全員で1人ずつ潰していって……」

 マナの顔にも笑みがあった。にやつきながら話をするその様から察するに、この成功がよっぽどうれしいのかもしれない。


 そしてそれはまた、唐突な出来事だった。もしかすると、気のせいだったのかもしれない。コルンの口から、理解不能な言葉が漏れた。


「奇遇だね……実は僕も、同じような特技を持ってる……」


 え…………?


 コルン以外の全員の口から、そう聞こえた気がした。


「特技、【強制執行】発動!敵の特技をキャンセルする!」


 バリバリバリ!!!


 突然の轟音に、マナ自身はもちろん、両チームのアーティー、観客までもが騒然となった。いきなり、マナのパーツが剥がれ、AIの破壊音が響いた。

「僕の変身特技をキャンセルした君の特技をキャンセルした。もう分かるよね?落とし前は払ってもらうさ」

「まさ……か……あなたも……同じ特技を……」

 マナはその場に跪き、力なく倒れ、回収されていった。

『チーム"メダロン"、マナさん、脱落です!チーム"シン"が一気に優勢になりました!』


 うぉぉぉぉ!!


 何人も想像のつかない展開に、会場はヒートアップする。チャンは動揺していたが、メダロンは変わらず冷血な眼差しをこちらに向けていた。

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