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AI棒  作者: 君名 言葉
第三章 アーティカルグランプリ編
32/50

第三十二話 零

 ゲームの観戦に来ている会場の観客は、ほぼ全員が自分の予想というものを作りたがる。それは野球であったりサッカーであったり色々だが、もちろんアーティカルグランプリも例に漏れず、そういった現象がスタンドで広がっていた。


「なあ、お前どこのチームが優勝だと思う?」

「そりゃもちろん、チーム"シン"だろ。2人も変身できるアーティーがいるんだぞ?それにリーダーもまだ本気じゃないっぽかったし」

「だよな、でも、SNS見てるとチーム"メダロン"半端ない。って投稿も結構見るぜ。やっぱりあの【ベリアルジャッジメント】って技はヤバすぎたよな」

「まあチーム"シン"は決勝進出確定してるしな。あとは次に行われる準決勝2巡目の第2回戦だな」


 準備が整い、司会者カムイの進行が再び始まった。

『皆さんお待たせしました!それでは、決勝トーナメント準決勝第2回戦を開始いたします!戦うのは……チーム"メダロン"VSチーム"ゼロ"です!』


「問題の試合だな。これで決勝の相手が決まる」

 シン、コルン、サキの3人は待機部屋に戻っていた。博士にパーツの検査をしてもらってから、今度は見逃さないようにテレビを凝視する。

「このゼロって有名なアーティーなの?」

 サキはチーム"ゼロ"のリーダーを知らないようだ。アーグラの決勝トーナメントに出てくるようなアーティーは、大体がそこそこ有名なアーティーが多い中、このゼロという男は初登場でここまで勝ち上がってきた。知らないのも無理はない。

「俺は1度戦ったことがあるな。何年前か忘れたが……その時は野良で戦って、結局勝敗はつかずに終わった。確か、H型の仲間と一緒に何かしてたんだ」

 すかさずコルンが反応してくる。

「何年か前なのによく覚えてるね?もしかしてシンって記憶力いいの?」

「いや、そうでもないけどな。こいつの特技を見れば、なぜおれが覚えてるのかもわかるはずだ。とんでもないやつだよ。本当に」


 O型アーティーで特殊型のゼロ率いるチーム"ゼロ"。以前一度戦って、その強さを知っているシンにとっては、非常に興味深い試合だった。あの特技にどうやってメダロンがどう対応するのか。

 それにしても、チーム"メダロン"はまだまだ謎だらけだ。決勝トーナメント1巡目の試合で、全員の戦闘タイプは特定できた。


 リーダーのメダロンはシンと同じトレース型。ただ、さっきの【ベリアルジャッジメント】なんて特技は今まで見たことがなかった。とにかく注意すべきアーティー。

 そして、中国の仙人のように、長い髭とよれよれの修行着が特徴的な、チャン。こいつは復活型。さっきの試合では一貫してニヒルな笑みをしており、復活能力で永遠にパーツが元通りになる様は不気味以外の何物でもなかった。

 最後に、このチームにはなんとも不釣り合いな女子大生の、マナ。彼女は明らかに万能型の動きだった。万能型はすべてのステータスがバランスよく揃えられており、空中戦でも接近戦でも、撃ち合いでも対応できる厄介なタイプだ。身軽な体を活かして機動力に長けた試合をしていた。


『両チームの準備が完了しました!決勝進出を決める戦い!それでは参ります!レディ……ファイッ!』

 司会者カムイの声も興奮して聞こえた。

 先に切り込んできたのはチーム"ゼロ"だった。


「メダロン……俺がおまえを倒す!シンと戦うのは俺だ!【リベリオンサンクション】!」

 ゼロが最初に繰り出した特技には見覚えがなかった。無数の槍が彼の周囲に出現し、一斉に飛んで行った。それに反応したのはチーム"メダロン"のチャンだった。

「フッフッフ……若造。舐めておるのか?そんな小手先の技ではうちのリーダー堕とせんぞ。お返しじゃ。【漆黒剣】発動」

 紫色のエネルギーを纏った大剣を取り出し迎え撃った。しかし、ゼロにとっては想定内らしく、まだ冷静だ。

「舐めてる?まさか。おい、キラー、パラ、攻撃を続けてくれ」

「了解よ、ゼロ」

「任せとけって」


 今の陣営では、メダロンは相変わらず前に出てこようとしない。マナはメダロンのすぐそばに侍っている。ゼロは何かを企んでいるのか、一旦後ろに下がった。代わりに仲間の2人のキラーとパラが前衛を受け持つようだ。

「フン。腰巾着には興味がない。さっさと大将に出てもらおうか。ほれ、マナ。こっちに来るんじゃ。出番じゃぞ」

「やっと出番?待ちくたびれたわ。この2人ね。分かったわ。【双剣乱舞】発動っ!」

 万能型らしい戦法だ。キラーとパラはどう対応するのだろうか。


「ねえ、シン。チーム"ゼロ"の2人、どちらも防御型よ?」

 同じ防御型のサキだからこそ分かるのだろうか。

「マジかよ?! どうやって勝つ気だ? 1人でやるつもりか……ゼロ……」

 いくらあいつといっても、そんなことが可能だろうか。ジリ貧で負けるような気がするが。


「「【大防御】発動!」」

 防御型の2人が同じ特技を発動した。【双剣乱舞】を防ぐには十分な特技だ。


 バチバチッ!


 マナの攻撃は弾かれる。だがそんなことは関係ないというように、すぐさま技を繋げてきた。

「小賢しいわね。【マシンガン】!」

 懲りずに銃を連射するが、防御型にとっては痒くもない程度の攻撃だ。でも、このままではお互いに勝てないことは理解しているはず。ゼロもメダロンもなぜ後ろに下がっているのか理解に苦しむ。

 このままじゃ、ただのいたちごっこだぞ……

 しかし、その後、変化は突然に訪れた。


「キラー、パラ、もういいぞ、用意はできた」

「遅いわよ! 早くして!」

 まさかこのタイミングで出るのか……?ゼロの大本命……!

 ゼロが前衛に出ると、メダロンのチームの全員が、ん?と顔を上げた。


「待たせたな。真髄発揮だ!【クロックストップ】!!!」


 カチッ……カチッ……カッチッ…………チッ……


 メダロン、チャン、マナの3人の時間が止まった。


「あれは!?シンが特別訓練で使ってた特技だ!」

 コルンが納得といったような表情でこちらに話しかけてきた。

「その通り。俺もさりげなく使ったが、とんでもない特技だ。指定したアーティーの時間を3秒間停止させる」

「奴の戦闘タイプは何なんじゃ?」

「"バインド型"さ。動きをロックしたり、敵を弱体化させて攻撃する。ほとんどのタイプに有効な、恐ろしく強いタイプだ」

 実際、シンも1人で当時戦っていたら負けていたかもしれない。


「行くぞ、2人とも! 【一閃突き】!」

 今度は両腕を巨大な槍に変化させ、敵を一突きした……ように見えた。


 その場にいる誰もがチーム"ゼロ"が、優勢になることを確信した。はずだった。


 なんと、突き出した槍は空気を刺しただけだった。そして、ゼロの目の前には禍々しい闇のオーラを纏ったメダロンが立っている。

「な、な、なんだよお前……!?」

 焦りに焦っているゼロ。この時から、破滅を覚悟していたのかもしれない。

「茶番は終わったか?小僧……」

 メダロンの声をちゃんと聞いたのは初めてだった。言い表せぬ不快感が耳に反響する。


「まだ時間停止は終わってないはず!なぜお前は動いて……うがっ……!」


 グサ……!!バリンッ……!!


 腕を鋭利に変化させて、ゼロを一突きしたメダロン。その圧倒的な強さに、その場にいる全員が生きた心地がしなかった。

「ゼロ……!?なんで……」

 パラの弱々しい声が小さく聞こえる。

「降参します……」

 キラーがリタイアを宣言した。流石に、防御型2人でこの状況を覆すのは不可能に近い。

『し、試合終了でーす……チーム"メダロン"決勝戦進出!……』

 司会者も明らかに戸惑っている。何が起こったのか把握できていない人がほとんどだ。


「なんなんだ今のは……【クロックストップ】が破られるなんて意味が分からない……」

 あの特技に歯向かう方法があるなんて。メダロンは同じトレース型。それは間違いない。でも、シンがストックしている特技とは、全く系統が違う。ここまで差があるなんて、今までどんな生き方をしてきたらそうなるのだろう。

「1時間後には決勝戦が始まるわ。もう時間もそんなにないわよ」

「まずいね。今まで見てきた特技全てが初見だったから、対策の立てようがないよ」

 2人の士気が下がっている、このままではまずい。詭弁でもいいから、ここは俺が出るべきだろう。

「焦るなって。ごめん、実は分かってるんだ。メダロンの倒し方も、なぜ今みたいな現象が起こったのか。なんとなく分からない振りをしてた」

 菊間博士と目が合う。博士は当然分かっているだろう。シンの意図を。

「本当に?何か手があるの?」

 終始心配そうなコルン。このままではパフォーマンスに影響が……

「コルンもサキも変身を使える。それに、俺はまだ1つしか特技を見せてない。大丈夫だ、問題ない」

「そりゃあシンが変身できれば勝利確定みたいなもんだけど……」

「心配するな」

 心臓の鼓動の早まりと同じく、時間も早く進んでいるような気がした。


 ◇


 1時間とはこんなにも短かっただろうか。アーグラが始まってから、いつもそう感じていた、

 階段を登り、再び競技場内に舞い戻ったチーム"シン"。憧れ続けた舞台に不穏な空気が流れていることを、すぐに察知した。観客のどよめきは絶えない。反対側からはチーム"メダロン"の3人が壇上に上がってきたのが見える。


『さあ、いよいよ第8回アーティカルグランプリ決勝戦です!決勝戦でもルールは変わらず、3 VS 3での熱い戦いが繰り広げられます!両チーム、準備をお願いします!』


 初めて近くでメダロンを見た。黒いボディには、怪訝な雰囲気が纏わりついている。

 これが最後の戦いか……勝てば優勝……


 司会者カムイのうるさい掛け声を聞くのもこれで最後だ。

『準備ができたようです!それでは始めましょう、第8回アーティカルグランプリ決勝戦、レディ……ファイッ……!!!』


 うぉぉぉぉぉぉ!!!


 今大会一番の盛り上がりを見せるスタンド。どちらを応援しているかは不明だが、そんなことはどうでもいいと思った。


「いくぞ!コルン、サキ!」

「「おう!」」

 勝利に向かって一直線、運命を決める最終戦の火蓋が切られた。

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