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AI棒  作者: 君名 言葉
第三章 アーティカルグランプリ編
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第二十六話 アーティカルグランプリ

 楽しい時は早く過ぎるというのは疑いようのない真理なのだ。その証拠に、シンにとってのアーグラまでの約2週間は一瞬で終わった。

 東郷博士の死を知らされた後、シンは独自に探りを入れていた。その結果、確実と言える証拠を押さえることはできなかったが、政府の企みであることは間違いなさそうだった。

 そして、いよいよアーティカルグランプリ当日。

 アーグラは東京の国立競技場を貸し切って行われる。スタンドの一般人に被害が出ないよう、試合が始まると、特殊な素材でできた透明の壁が出現し、その中でアーティー達は試合を行う。なので、シン、コルン、サキの3人は、朝8時に東京駅の近くで待ち合わせをすることにした。


「よし、行こう博士。荷物まとまったか?」

「ううむ……何か忘れておる気がするが……まあいいじゃろ」

 博士を乗せて、東京まで空の旅。と言いたいところだが、シンは特別訓練優勝者で決勝リーグ参戦が確定しているので、主催側の専用車での送り迎え付きだ。もちろん、メンテナンスは欠かせないので、菊間博士にもついて来てもらう。それに、東京内なので、飛ぶほどの距離でもない。


「シン様。ご用意ができましたらご自由にお乗りください。シン様の席が前、お連れ様は後ろの席に座っていただきます」

 スーツ姿の男が、玄関で博士を待っているシンに声をかける。専用車はあからさまに高級車だった。なんていうか、ダックスフンドみたいだ。伝わるかな。伝わらないよな。

「分かりました。博士、早くしてくれ」

「ま、待っとくれ、えーと暇潰しグッズ……あとお菓子も……」

「急がなくて大丈夫ですよ。時間はまだ余裕がありますので」

「すみません……ったく、小学生の遠足じゃないんだからな」

 そしてその5分後、かなりの大荷物でやっと出てきた博士を乗せ、車は出発した。

 うーん。やっぱり普段自分で飛んでる身からすると遅いよな。マッハで飛んでるからか。

 しかし、予想に反して車内は快適で、会場までリラックスすることができた。


 同じ東京と言っても、博士の研究所はかなり千葉寄りなので、そこそこの距離がある。30分ほどで到着した。

「えーっと、この辺なんだが。駅周辺と言っても広いからな。とりあえずメッセージを送っておくか」

『2人ともどこにいる?』

 5分ほど待っても、なかなか返信が来ない。

 遅いな……どうしたんだ?

 すると、後ろに立っていたカップルらしき輩の会話が耳に入ってきた。

「遅いわね~どこ行ってるのかしら」

「本当だね。まさか遅刻とか」


 あれ?この声どこかで……っておい、そんな王道のパターンってマジで起きんのか……


「2人ともこんな近くにいたのかよ」

 見慣れた2人が後ろで喋っていた。

「気づくの遅いよシン。10分くらいサキと2人で後ろにいたのに」

「全く。何やってんだ。あれ?ふたりともなんか変わった……か?」

「ええ。ただこの2週間を浪費してたわけじゃないわ」

「僕ら2人とも、ものすごい成長したからね。まあ期待しておいてよ。パーツも新しくなったし」

「前より強くなってるのか……俺も負けてられないな。あ、ちなみにこの人が菊間博士だ」

「初めまして。お話は伺っております。よろしくお願いします」

「ほっほっほ。よろしくの」

 東京駅からは国立競技場まで歩いて行った。現地集合でも良かったが、混雑を避けるためにとのサキの提案を飲んだ。それに、博士を乗せて飛ぶのはなんか怖い。国立競技場の入り口前に着くと、予想通り人で溢れかえっていた。

 それにしても、すごい数のアーティーだな。

「一般人で観戦のお客さんは左列、参加者のアーティーの方とその関係者の方は右列にお並びください!」

 スタッフらしき男がメガホンで叫んでいる。


 すると、突然、先ほどの黒服の男に呼び止められた。

「シン様。コルン様。サキ様。どうぞあちらの通路からお入りください」

 どうやら右端には関係者専用の通路があるらしい。見失わないように男についていく。

「こちらの通路をまっすぐ進んで階段を登っていただければ、特別室です。今日は決勝リーグは行われませんので、ゆっくり明日までお使いいただけます」

「僕たちの部屋なんて用意されてるんですか?!」

 コルンの声が一瞬裏返った。

「ええ。当然です。特別訓練優勝者には毎年用意させていただいております。食事、お飲み物、マッサージなど、必要なものは本部にメッセージを送っていただければなんでもご用意します」

「ものすごい手厚さね……」

 サキが感嘆の声を漏らす。

 金あるんだなぁ。アーグラ。博士はめちゃくちゃ楽しみそうだけど。

「では、私はこれで失礼します。また用があればお申し付けください」

 そうして、黒服の男は人混みに消えた。


 その後、通路を少し進むと、階段があり、そこを登ると、部屋が3つ用意されていた。

 その部屋は試合会場の2階席の高さで、前方は全面ガラス張り、お風呂にシャワー、ツインベッドに巨大なテレビと、まさに至れり尽くせりだった。

「ここなら試合がよく見えるな。分析もしやすい。な、博士」

「それはそうじゃが……わしもあの2人みたいに1人が良かったなぁ……シンの寝相が嫌じゃ」

「おいおい。何心配してんだ。そんなにひどくないって」

「知らんうちはまだいいよのぉ……」


 そうこうしていると、サキとコルンが部屋に入ってきた。

「シン、試合を見るときは全員で集まった方が良くないかしら?みんなで話し合った方がいい作戦も生まれると思うの」

「まあそうだな。2人が良ければ」

「僕は全然いいよ。むしろそうしたい」

 このようにして、夜の就寝時以外は基本、シンの部屋に集まることとなった。

「へえ。こんなでかいモニターで見れんのか。金かかってんな」

 大きなテレビで、様々な角度から競技場の様子が見れる。


 そして数十分後には、司会者が競技場の中央に上がった。

「紳士淑女の皆様ごきげんよう。ただいまより、第八回アーティカルグランプリを開催致します!」


 おぉぉぉぉぉ!!


 怪獣の怒号のような歓声と、マーチングバンドのファンファーレのせいで鼓膜が痛くなった。

「今大会で最後となるアーティカルグランプリ、簡単にルール説明です!世界中から、我こそはというアーティー達が集結しその強さを競い合う、まさに力の祭典!3人グループで賞金は計9000万円。1人3000万円を獲得できます!戦闘は、自爆と一般人への攻撃以外はなんでもあり! 予選を勝ち上がった6チームは決勝トーナメント出場決定、その6組に特別訓練優勝者の1組と、推薦枠1組を加えた計8組で決勝トーナメントを行います。そして……今回はなんと……」

 司会者の思わせぶりな言動に、会場がざわつく。

「予選新ステージを用意しています!」


 うおぉぉぉぉ!!


 毎回観客の声がどでかい。でも、納得だ。チーム戦に対応するためか。今考えてみれば、特別訓練自体も3人生き残った時店で打ち切ってチームにする気だったんだろうな。それにしても、ただ見てるだけって気が楽でいい。戦闘は戦闘で楽しいが、観戦も悪くない。


「フッフッフ」

 コルンが急に笑い出す。

「ん?何かあったのか?」

「まあまあ。見ようよ」

「それでですね……実は今回、予選ステージを考案したのは……なんと!あの方です!」

 デデン!という安っぽい効果音と共に、モニターに映った顔に見覚えがあった。

 そう、まさに隣にいるこの男。コルンだったのだ。


「えええええええ!?」


 サキとシンが同時に驚嘆の声を上げる。

「びっくりしたでしょ?実は帰った後にステージ考案をしてみないかって言われて」

「はい!そうなんです! メンバー全員が特別訓練第1位通過者のシードグループのメンバー、コルンさんに提案していただいたステージが、こちら!」

 再びデデンという効果音がなる。

 モニターには、【スイッチ鬼ごっこ】と表示されていた。


「ルールは簡単!今から競技場内をいつもの戦闘用ステージに切り替え、透明な壁で外部とシャットアウトします。その中にはプロジェクションマッピングと特殊粒子複製装置を使って、ある程度の複雑な街の地形を作り出します。予選参加者は半分この中に入ってください。コピーAIが赤く点滅していれば鬼、青なら逃げる役です。鬼は逃げるアーティーのAIを破壊して、敵チームの数を減らしてください。ただし……ランダムな時間に、そのAIの色が突然変わります。鬼だったのに逃げる役になったりするわけです。制限時間は15分。ではみなさん、準備をお願いします!」

 シンは、こういう頭脳戦と戦闘が混じったゲームが大好物だ。さっきから謎の震えが止まらない。

「ぁぁ……参加してぇなあ……」

 その様子を、他の3人は引いた様子で見ていた。

 いよいよ、予選が始まる。しかも今回は合計30分で決着がつく。さっきは観戦も良いと思ったけど、やっぱり見ているだけじゃ退屈だな……

 シンは、相変わらず武者震いが止まらない手を抑えるのに必死だった。

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