第二話 目的
「ほれ、終わったぞ」
人気のない工場に、老人の声が響く。
「ああ、博士。いつもありがとな」
シンはしゃがれ声の老人に言う。O型アーティーとの戦闘後、シンは都内某所の研究施設兼、部品工場に来ていた。戦闘で得たレアなパーツを見てもらうためだ。
それから、この白いひげがよく似合う老人は、菊間博士。シンの最も信頼する人間であり、幼いころからシンを知る人物でもある。
「で、どうだった? 例のパーツは?」
「ああ、sariの言う通り、今は製造しとらん。製造中止になったのは最近じゃが、これから価値は上がるじゃろうな」
どうやら、かなりの戦利品だったようだ。
「やった。また強くなれそうだな。sari」
「ほっほっほ。成長したなあ。シン。昔のお前がすでに懐かしいわい」
幼いころに父を亡くしたシンにとって、菊間博士は父親のようなものだった。
「ああ。感謝してるよ」
菊間博士がいなければ、生きてこれなかったのだから。
「ところで、シン。お前、アーティカルグランプリには出るのか?」
「あー?まだ今は検討中って感じの所だけど……」
「お前、そもそもアーティカルグランプリとは何か分かっておるのか?」
「まあ……多分……」
「おい!バカもん! なんでそんな肝心なことをごまかすんじゃ……ほれ、sari説明してみい」
『了解 アーティカルグランプリ とは 応募された アーティーの中 から トーナメントを 行い 優勝者には センテレントエリア への 入場パス と 賞金 そして 超希少パーツが 贈られる ドラゴン〇ール で言う 天下一武〇会の ような ものです』
「その通り。ちなみにセンテレントエリアとは、この世界で限られた人物だけが入場できる、特別なエリアじゃ。そして、3年に一度しか行われないアーティカルグランプリ、通称アーグラに、お前は挑戦するのかと聞いてるんじゃ」
「あ。なんか言ってたなあ。確か2か月後だっけか?」
「そうじゃ。いくらお前でも、正直優勝は厳しいぞ」
「え?マジかよ? じゃあどうすりゃいいんだよ?」
自分が全くの無知であったことに今更気づく。
「アーグラの優勝者は毎回別格じゃからな。到底及ばんじゃろ」
「そ、そんなあ……」
シンはがっくりとうなだれた。
「まあ話を最後まで聞けい。無理とは言うとらん。わしの技術があればな。しかし、技術があっても素材がなければ不可能じゃ。何が言いたいかわかるじゃろ?」
「つまり……パーツを集めろってことだろ?博士」
「ああ。その通りじゃ。優秀なパーツがなければ優勝など100%不可能じゃ。それこそ、宝くじの一等当選より」
「そんなに厳しいのか。まあとりあえず、2か月で死ぬ気で集めるよ」
「おう。その意気じゃ。頑張ってくれ。そして、優勝賞金でわしの老後を楽にさせてくれ」
「やっぱりそれが目的か……」
だが、博士のこういう正直なところも、シンは大好きだった。
「おお、そうじゃ。忘れとったわ、ほれ。さっきのパーツを改造して作ったブースターじゃ」
「ブースター?」
シンは、その名前を初めて聞いた。
「ああ。ブースターってのはな、簡単に言えば、手のひらからでるレーザーの威力とか、範囲をレベルアップするんじゃ。少し体が重くなるが、まあ変わらんじゃろ。ほれ。装備してみい」
そう言うと、博士は、その「ブースター」というメタリックな赤色のものを差し出してきた。手のひらの部分に穴が開いていて、腕パーツの上からさらに重ねて装着するようだ。
ガチャン!
パーツがハマった音がして、sariから音がした。
『ピロピロリン! ブースター 装着 完了』
「おお!すげえ! 早く打ってみてえ!」
「ほっほっほ。そうじゃろそうじゃろ。だが、燃料と充電は忘れずにな。アーティーにとって燃料&充電は命そのものじゃぞ」
「ああ!ありがとな博士。これでパーツ集めはかどりそうだ」
「それはそうと、これからどこに向かうんじゃ?」
嬉々とするシンを前に、博士は言う。
「え?そうだな。そういえば、箱根に行こうとしてたんだよ。俺」
すると、博士の目の色が変わった。
「お前、あいつに会いに行くのか?」
「あいつ? 博士、知り合いか?」
「知り合いも何も、昔、あいつはわしと一緒に研究しとったんじゃ。それがいつのまにか、H型とO型などという派閥ができて、今じゃ関りはなくなってしもうた」
「へー。そうなのか」
シンがそういうと博士は少し怒った顔で言った。
「シン、お前、どれだけ危険なことかわかっとるんか? ハチの巣に突っ込んでいくようなもんじゃぞ」
「大丈夫だって。こっちには作戦があるんだ」
「作戦じゃと? お前がそんなものを考えるなんて珍しい。まあいい。とにかく死ぬんじゃあないぞ」
博士の目は少し穏やかな色になった。
「分かってるって。そもそも俺が戦う目的だって、H型だとかO型だとか、そんなくだらない境界をなくして平和な世界を作るためだからな」
「それは知っとる。気を付けるんじゃぞ」
「もちろん。よし、行くか、相棒」
シンは少し青空を見てから言った。
「Hey,sari 飛行モードに変形してくれ」
『了解 脚 パーツを 飛行モード に 変形 します』
ウィーンガチャ、とお決まりの音がしてから、青白い炎が出る。目指すは箱根、そこに新しい強さがあるのだ。
「箱根までどれくらいだ?」
『目的地まで 約 23分 です。適当な音楽 を 流しますか?』
「いいねえ。せっかくだからこの青空に似合うやつ頼むよ」
『はい RADWIMPS の 君と 羊と 青を 再生します』
「最高だなお前」
冒険はまだ始まったばかりだ。