第十八話 宣戦布告
気づけばもう3週間とちょっとか。早いな時が経つのは。
俺が作戦を作り始めたのは、コルンに俺の秘密を打ち明けた時だった。自分がスピード型ではないと白状した時、同時に2人に、作戦を立てさせてくれと頼んだ。自由に動きたいと。結果として良かったのかどうかはわからない。
シンは大きく深呼吸した。せっかく得られた貴重な情報だ。一度冷静になって考えなければいけない。一旦整理しよう。 まず、バーブは、ある1体のアーティーを最初の島に隠しておいて、必要最低限以外のマイルを預けておいた。それにより、チャンスタイムで当てられる心配や、裏切りで奪われる心配もなくなる。
そして、日々バーブの所に入ってくるマイルを、テンドというあのアーティーに渡し、テンドは最初の島のアーティーに渡しに行く。恐らく3日周期で。
始めにこの島に着いた時、シンの番号が170番だったのにも関わらず、168体しか視認できなかったのは、あの段階でもうバーブの作戦が実行されていたんだろう。既に1体のアーティーが隠れていた。特別訓練のルールを、どこからか事前入手していたのかもしれない。
それで最後まで耐えれば勝ちが確定ってわけだ。この作戦は、バーブというより手下のグレンが中心に考えたんだろう。あの筋肉野郎にこんな壮大な作戦考える脳があるとは思えない。
あれ?この場合は1人か……? アーティーの数え方が1体か1人のどちらか迷っているうちに頭が痛くなってきた。
でも、その情報をを踏まえた上でどうするか。それに、いつ盗聴器の存在がバレるかも重要だな。
「シン? 聞いてる?」
コルンの声で我に返る。
「ん? ああ、すまない。少し考え事をしてた」
「今サキに連絡して報告しておいたよ。もうちょっと時間がかかるから先に話進めておいてってさ」
「そうだな。コルン、今回の件、俺が作戦を立てるべきだと思うか?」
「大規模イベントの件で、シンの頭脳の明晰さは十分に分かったし、問題ないと思うよ」
「不満はないのか? 偉そうですまないが、コルンも相当に頭はきれるだろ」
「大丈夫だよ。危なかったら軌道修正するさ」
「分かった」
コルンはこう言ってくれるが、つまりそれは俺に全責任があるってことだ。ここまで信用してきてくれた2人を道連れに堕ちる訳にはいかない。慎重にいこう。
そう考えていると、すぐに盗聴器に変化があった。
『ザ……ザッ…………ん? 何だこれ? ブチッ……』
「今の音はまさか……」
コルンの顔は困惑していた。
「多分気付かれたな。盗聴器の存在に。でも、こっちの身元は特定できないからダメージはない」
「バーブに報告されてからどれだけの動きを見せるかだね。あ、サキお帰り」
ここで、サキがやっと帰ってきた。
「あぁ、寒い。今、Cグループの今後について話合っていたんだけれど、メンバー11人全員が、Bグループには加入したくないみたい。バーブに対抗したくてCグループに入った人がほとんどだから。今日見たら、新たに2人脱落してて、残り参加者は67人。シンとコルンを除いて、その内53人がBグループだから……それ以外は、私達3人とCグループのアーティーだけのようね。Aグループ崩壊は思った以上に影響してるわ」
シンはその話を聞いて、あることを思いついた。
「それ、使えるな。もしかしたら、それが最後の希望かもしれない」
「作戦に使えるってこと? でもシン、13 VS 53は流石に無理でしょ」
「いや、もはやそれしか道はないさ。サキ、直ちにCグループ全員に伝えてくれ。俺たち2人を新たに加えて謀反を起こそう。と」
「分かったわ。今メールを一斉送信する」
「コルン、確かまだ今日のBグループの会合終わってなかったよな? 今すぐ戻って欲しい」
「了解。飛んでる時に内容は送ってくれ」
これが最後の作戦だ。決着をつけよう、バーブ。
シンは、拠点のある最初の島のより少し南の島から、Bグループの会合が行われている北西の島に向かっている。飛行中のコルンに、メッセージを送信した。
『誰か目立たなさそうな奴、出来れば防御型のアーティーを1人こちらのスパイにして欲しい。もしやってくれれば、前金として10000マイルを渡し、生き残っていれば2位でこの訓練を終わらせてやると言ってくれ』
『了解』
ここで、サキからの連絡が来た。
『Cグループ、無条件で協力を承諾してくれたわ。私達3人の存在も明かしたし、あとはそっちで頼むわよ』
『ありがたい。あとは任せてくれ』
そして続けざまに、コルンからのメールの音。
『運良く防御型のアーティーにスパイとしての役割を頼めた。しかし驚いたことに、もともとAグループのスパイとしてBグループに潜入していたらしい。僕が元Aグループのメンバーで、Bグループを倒そうとしている旨を伝えたら、マイル無しで協力してくれるらしい。Aのリーダーに相当の忠誠心を持ってたみたいだ。しかも、この人、かなりBのメンバーと仲がいいから、これは大きな収穫だと思う』
まさに最高の展開を描けた。ここからは俺の番だ。
「Hey,sari 南の大きな島……そうだな、緯度32度 経度25度あたりの島の発信情報を掴めるか?」
『分析 開始します しばらく お待ちください 54体の AI反応を 受信 しました』
「よし、その中から、最も出力が強いアーティーの電波をキャッチしてくれ」
『受信中 です パワー型 の アーティーから 電波を受信 しました』
「よくやった。そいつにボイスメッセージを送る準備をしてくれ」
『了解 マイク 起動』
シンのAIのsariは、菊間博士の自信作で、かなりの高性能だ。普通なら不可能なアーティーの居場所調査も、多少時間はかかるが行うことができる。戦闘の時はそんな余裕はないので、サキの特技、【レーダー察知】に頼っていた。
ピッ
お、起動したか。シンは喉を鳴らしてから、端末に話し始める。
「Bグループリーダーのバーブ。俺は、お前の対抗勢力だとでも思って貰えばいい。明日、我々は最後の戦争を仕掛ける予定だ。お前達の意志は関係ない。これが最後の決戦だ。首を洗って待っておけ」
明日は最後の日になるはずだ。赤色で巨体のパワー型、バーブと、俺との戦い。勝った方はすなわち今回の特別訓練の勝者と考えていいだろう。
後は、サキとコルンの帰還を待って、その後、Cグループの連中に作戦を伝えれば今日の任務は完了。明日に備えよう。
そう思っていたシンだったが、ここで思わぬ進展があった。なんと、ボイスメッセージが返ってきたのだ。
「誰だか知らんが、度胸は認めてやろう。明日、9時から始めようじゃないか。もしそれ以前に攻撃してきた場合、容赦なくこちらも総攻撃する。数の優位にあるのはどちらか考えることだな。最後の戦争、楽しみにしているぞ」
これで、宣戦布告は完了。伝わったということだ。何よりこちらのアドバンテージなのが、敵側はまだこちらが誰か知らない。
後は、最初の島にいるアーティーを仕留めて数の優位をひっくり返せば勝ちだ。
だが、本当にこれでいいのか? もしこの状況がすでに掌の上だとすれば……? そんなこと考えても仕方ないか。今は戦闘準備をしよう。
その夜、サキとコルンが帰ってくると、進捗を説明した。二人も、いよいよ迫った決戦に緊張していた様子だ。
その後、Cグループのメンバー全員を拠点に招き、作戦を説明した。かなり狭かった中での説明で、分かりにくいかと思ったが、皆賛成してくれた。明日で、終結するであろうこの特別訓練。シンは余計なことは何も考えず、深い眠りについた。




