第十話 能ある鷹
心臓が高鳴っていた。久しぶりに味わう、この高揚感。戦略を立て、敵の意表を突き、最後に勝利をもぎ取る喜び。そんな展開が味わえるかもしれないことに、俺は興奮している。
コルンは確かに頭がキレる。俺との比較はどうであれ、砲撃型なら相性も悪くないし、なにより作戦を理解できる脳がないと困るときもある。そういう意味ではいい仲間かもしれない。
「シン、始まるよ」
コルンの声で、シンは我に返った。
「ああ。やってやるさ」
無人島の一番高い山にあるスピーカーから、音声放送が出される。
『ただいまより、特別訓練を開始します。尚、開始5分間は、戦闘が行えません。5分後に、戦闘可能の合図として、メロディーを流します。それ以降は、ルールの範囲内で、何を行っても自由です。では、始めてください』
遂に、一か月間の特別訓練が始まった。
「シン。開始5分は戦闘不能だ。その間はお互いが撃破される危険性はない。残り1分になったら再びここで合流しよう。それまでは拠点探しで、二手に分かれたほうがいい」
「そうするか。残り1分で集合だ……なっ……!?」
その時シンは、島全体を、巨大な膜のような物が覆っていることに気づいた。
そのことに、コルンも気づいたようだ。
「これは……高濃度のエネルギー分子で壁を作っているね。出られないようにだけれど、そんなことする必要あるのかな?」
コルンは不思議そうに頭を傾ける。
「いや、違うな。恐らく目的はあれだ」
シンが指さす方向は、少し離れた場所にある別の島だった。
「え?!あの島が入ってる?! 壁が、あの島の奥にまで貼られているということは……」
「ああ。俺たちは、ステージを見誤った。想像以上に大きいステージのようだ。この島も、あの島も、全てが戦場なんだろうな。完全に出鼻をくじかれた」
この展開を予測できた者はいたのだろうか。いや、いるわけがない。とにかく、戸惑っている時間ももったいない。早くければ手遅れになる。
「待って、ン。あれは……」
飛行しようとしたシンに、コルンが再度話しかける。またしたのだろうか。
「なんだと?! がある?!」
先程まで、海だった場所。そこは、高層ビルや公園、施設が集まる街だった。
「多分、プロジェクションマッピングかなんかでカモフラージュしていたんだろうね。まさかこんなにもエリアが広いなんて……」
コルンが冷静に説明する。
結局、当初は外周30キロほどだった島のエリアが、島、街、海を含めた一つの市ほどの大きさになっている。
「シン、作戦変更。急いで街の様子を見てきてくれ。僕は予定通り拠点を探す。町の施設、地理の情報が必要だ!」
「了解。Hey,sari 飛行モ^ド。高速で街へ飛んでくれ」
『脚 パーツ を変形 中 です。 変形 完了 時速を 最高速度に します』
ほんの一瞬で、シンの姿はコルンから見えなくなった。
「すごい速さ……」
初めてシンの速さを体感したコルンは、思わず苦笑いするしかなかった。
◆
『目的地 北街 に 到着 しました』
「ここが北側の街……見たところ施設はあっても、人はいないか。つまりここでも戦闘OKってことだ」
コンビニや映画館など、見た目は普通の街だが、人の気配は全くない。ただの作り物という事だろうか。
「まだ時間はあるし、一番遠い島でも見に行くか。Hey,sari、目的地を最北の島に変更だ」
『了解 目的地を 最北の 島 に 変更し ます』
さらに北上し、エリア内最北端の島を見に行く。
「最初の島より一回り小さいって感じだな」
一通り確認することができた。残り3分とちょっと。戻ってコルンと合流するまでの時間を考慮して、残り2分。
この最北端の島の地理をスキャンしておくか。
「Hey,sari、パネルのカメラで、この島をスキャンしてくれ」
『スキャン を 開始します。高度80メートル まで 上昇してください』
脚パーツから再び炎が出て、体が上昇する。
より高い位置からだと、より広範囲のスキャンができるが、いまいち精密さに欠ける。それでも、今の状況では地理を知っておいて損はない。
『スキャン完了 しました』
そして、シンはここで、コルンに連絡を入れた。
「こっちは北端の島と北側の街をスキャンしておいた。位置情報で居場所を教えてくれ」
「今ちょうどいい場所が見つかった。周りに他のアーティーもいないよ。なるべく人目につかないように来て」
どうやら、コルンも上手くやったようだ。拠点があるのとないのでは大違いだ。
「人目につかずねぇ……まあ自然につかないだろうけど」
シンの速さで飛べば、視認できる者はほとんどいないだろう。
コルンの元へ戻ろうとした、その時だった。
島の中に、なにか動いたのを、シンは見逃さなかった。
なんだ今のは……? ズームしてみるか。あれは……アーティー?
そこには、H型のアーティーがいた。シンは慎重に近づいていく。
近くまで寄ると、そのアーティーが防御型で、女のアーティーであることももわかった。なぜここにいるのか……
接触するのも悪くないな。防御型は貴重な戦力だ。しかし、コルンが 納得するかどうか。それにもし敵意を向けてきたら……とりあえず一旦行ってみるか。
シンは慎重に地上に降りて行った。
その女アーティーは岩に座っていて、まだこちらには気づいていないようだ。
危険性はなさそうか。話しかけてみよう。
「よ。俺の名前はシン。もし1人なら、手を組まないか?」
その女、いや、高校生くらいでシンと同じなので、女子というべきだろうか。顔立ちも綺麗で、スタイルもいい。髪はショートカットで、いかにも女子高生って感じだ。明らかに不意を突かれて驚いていて、威圧するような目でこちらを見てきた。
「誰あなた。手を組むって、同盟に入れって言うの?流石にバカすぎるでしょ」
「いや、俺たちは同盟じゃない。現に、まだ二人しかいないからな。これから仲間のところに戻るが、一緒に来ないか?手を組むかどうかはそこで考えればいい。」
少女は少し間を置いて、こう言った。
「あなた、スピード型よね?それで、名前がシン」
「それがどうかしたのか?」
スピードが自分に必要だとでも思っているのだろうか。
「なら、手を組んであげてもいいわ。仕方なく。ちなみにもう一人のアーティーは?」
「それはあっちで教えるよ」
意外とうまくいったな。さすが俺。
「でも、やはり信頼を築くのは難しいんじゃない?今、あなたが私をずっと捕まえたまま、後二分くらい待てば攻撃可能だし」
確かにそうだが、ちゃんと反論はある。
「それはお互い様だ。俺はあんたに絶対勝てるという自信はないが、負けることも想像できない。つまりそういうことだ」
「はあ、説得力ないわ。でもまあいい。行きましょう」
「ついてきてくれ」
シンはコルンの位置情報を受け取り、すぐさま向かう。ただし、ついてこれるように普段の半分のスピードで。
ほどなくして、先程の島に戻ってきた。
「コルン。お土産だ」
「おかえり。あれ?その人は?」
「北端の島で見つけてな。1人だったみたいだから、連れてきた。仲間にしてくれないか?」
「私は別にどっちでも」
コルンはしばらく考えた末に、こう言った。
「もちろん歓迎だよ。防御型はありがたいしね。ただ、シン。作戦上、これ以上増やすのは厳しい」
「分かってる。3人が限度だろうな」
人数が多くなると、指示が出しにくいのはよくわかっている。
「じゃあよろしく。僕の名前はコルン。砲撃型。主に作戦担当だよ」
「私は……サキ。防御型よ」
「へえ。サキか。いい名前だな」
「冗談よしてよ。それで、作戦をまだ聞いていないんだけれど。もちろんあなたたちはこの訓練で一位を目指すのよね?それと、仲間になって勝った時の報酬もまだ聞いてない」
「報酬としては、全員が同率1位でこの訓練を終えられる。誰か一人の勝ち抜けはなし」
コルンがサキに説明するが、サキは依然疑うことをやめない。
「どこまで信用できる話かね。それは」
「必要なら書面契約でもするかい?データだと消えやすいからね」
「紙なんかどこに置いておくのよ。まあいいわ。要は勝てばいいのね。それで、作戦は?」
「それは後々話すよ。とりあえず、拠点に向かおう。すぐそこにある。最初の島の少し南の島さ」
そう言ってシンたち3人は近くの拠点に向かった。
拠点に着いた瞬間、コルンからメールが送られてきたことに気づいた。
なぜメール?この場にいるのに。
コルンのほうを見たが、目で合図をされただけだった。これで理解しろというみたいだ。
シンは、パネルに表示された文面を読んだ。
『彼女は、確かに戦力になりそうだけれど、まだ信用するに足らない。どこかのスパイの可能性もある。しばらくは、作戦の全貌を明かさずにいこう』
なるほど。サキにできない話だったのか。それならメールの意味も分かる。
まあ仕方ないのか。
「へえ。岩の裏にこんな広い空間があるとはな」
コルンが見つけた拠点というのは、大きな岩の裏にあった、隠し洞窟のような場所だった。
「けどこれ、例の洞窟とは無関係なの?ほら、マイルで買えるっていう」
サキは洞窟の質が高いことに疑問を抱いているようだ。
「さすがに違うはずだよ。ここまで用意周到な運営側が、洞窟を見つけられるミスなんてするはずない。きっと、さっきの隠されてた島みたいに洞窟も隠してあるんだよ」
コルンがそう言った直後、エリア内にけたたましいサイレンが鳴り響いた。
「うるっさ!メロディーとか言ってなかったか?」
「いよいよ始まりか。僕たちも動かなきゃな。少しばかり倒してマイルを稼いでおきたい」
「いきなり戦闘に行く気?どんな作戦か知らないけど、随分勇敢ね」
「まあそう言うなよ。この三人の相性は多分最高だからな」
戦いの火蓋は切られた。生き残りたければ、這い上がるのみ。




