第一話 相棒
『AI』とは。
artificial intelligenceの略称で、人工知能のこと。「言語の理解や推論、問題解決などの知的行動を人間に代わってコンピューターに行わせる技術」または「計算機による知的な情報処理システムの設計や実現に関する研究分野」を指す。
wikipediaより。
時は23世紀。時代は怒涛のAI時代に突入していた。
工場生産や教育を効率化する事はもちろん、経営方針を委ねる企業も現れるほど生活必需品となったAIは、多くの技術者が開発、研究に日々勤しみ、著しい発達を見せていた。しかし、ある2人の研究者の些細な対立から、世界が二分されることとなった。
その2人の研究者の名は、ハンプ・ドランクとオリヴィエ・センス。どちらも業界きっての実力者で、共同で研究に取り組んでいた。だが、完成したAIの特許権を巡って争いが勃発。収束がつかぬまま時が流れ、その後、2人は別々にAIを改造することとなった。そして、この世界を大きく変えてしまった。
日本も例外ではなく、東日本ではハンプのAIが広く流通、西日本ではオリヴィエのAIといった具合に、ぱっくり2つに分かれ、この両者間では常に闘争が行われている。
では、その二つのAIを紹介しよう。
一つはハンプの製作した「H」型。
このタイプは、Hey,〇〇と声をかけて起動するので、H型と呼ばれる。AIの元祖であり、未だ最強のAIでもある。
もう一つは、オリヴィエ製作の「O」型。
このタイプは、OK,〇〇と声をかけて起動するので、O型。近年爆発的な広がりを見せており、一部、H型にはない機能も搭載している。強さはどちらも同程度だが、最新のO型の方がこれから有利と言われている。
そんなAI時代の、一人の青年のお話。
海のように砂が燃える砂漠。そこを、1人の青年が歩いていた。
「Hey,sari。今日の気温は?」
『今日の気温は 32℃ です』
「マジかよ……暑すぎんだろ……もう10月だぞ?」
この青年の名前はシン。旅をしながら修行する、「アーティー」と呼ばれる人種だ。
アーティーは、ここ数年で異常な増加の一途をたどり、いまや世界の人口の9割はアーティーと言われている。
アーティーたちは皆、体にAIを埋めこむ改造手術によって超人的な力を手に入れた人間なのだ。自由なタイミングでロボットになることができ、飛行や、腕を武器に変形させたりできる。そう、まるでアイ○ンマンのような。
もちろん、アーティーの中にも、H型とO型の派閥が存在する。埋め込んでいるAIに派閥が存在するので、当然、アーティーも派閥化されるのだ。
2人の研究者の意志を受け継いでいるH型、O型は互いに犬猿の仲で、会うとすぐに戦いが始まってしまう。だから、アーティーは常に自分をレベルアップし続けて、自分のAIを守らなければならない。アーティーを倒し、強くなる。これこそが、アーティーの戦う理由だ。もしくは、自己防衛のためにアーティーになる者もいる。
「充電スポットまでの距離どれくらいある?」
『次の 充電スポット まで 約 28 キロ です』
「うわ……めちゃくちゃ遠いな。もういい、飛ぶ」
『体の一部パーツを 変形 して 飛行モードに 切り替え ます か?』
「ああ。そうしてくれ」
『脚 パーツ を 変形します』
ウィーーーンと機械的な音を立てて、シンの足が変形していく。青色のメタリックなボディに日光が反射する。見た目は普通の足だが、中身は機械だらけだ。
アーティーはAIに頼むと、自分の体を変形して飛んだり、体の一部を武器に変形したりできる。これぞまさに科学の進歩だろう。
『変形 完了 28 キロ先の 充電スポットまで 飛行 します』
相変わらずの棒読みで、相棒のsariは言う。なんだかんだ、もう10年以上の付き合いなのだ。 自分の変形した脚から、青白い炎が出る。3秒もしないうちに、遥か上空に到達した。
「うっひょー!やっぱ気持ちいいなあ」
空の旅は、いつでも快適なのだ。
『残り 20 秒で 目的 地 に 到達します』
「はいはい」
空の旅はいつだって短いのだ。充電スポットに着くなり、料金を投入して、シンはコードを自分の背中に差す。
「どうよ、sari。電気はうまいか?」
『すみません。 よく わかりません』
「なんだよそれ!」
充電を終えたシンは、次の目的地である、箱根に行こうとしていた。どうやら、凄腕の改造師がいるという噂を聞いたからだ。
アーティーにとって、改造はものすごく大切だ。相手にどんな装備かを悟られないためにも、常にバージョンアップしなければならない。沖縄や北海道など、極端にどちらかの方角に寄っていればあり得ないが、日本の中心近く、東京から大阪までの区間は常にH型とO型がせめぎ合っていて日常的に戦闘が行われている。
さすが東京とでもいうべきだろうか。充電スポットを出るとすぐに、シンとは敵同士であるO型のアーティーと遭遇してしまった。戦闘開始だ。
「おっとぉ? いいところに獲物のH型アーティーがいるじゃねぇか。悪いが仕留めさせてもらうぜぇ……」
ニタニタしながら少しずつ距離を詰めてくる。汚らしい髪と髭が上空の強い風になびかれていた。
「Hey,sari。相手の装備は?」
『相手の 装備 は O型スタンダード です』
「スタンダードか。なら楽勝だな。一応聞いておこう。この状況を突破できる確率は?」
『はい 相手の 充電の残り と 装備 から 計算して この 状況を 突破できる 確率 は 99% です』
「だろうな。よし、さっさとやるぞ」
「いつまで余裕でいられるかなぁ。場数の違いを見せつけようじゃないか坊ちゃん。お前、スピード型だろ?」
シンはギクッとした。アーティー同士の戦闘では、敵の特徴を察することが重要となるからだ。
「ああ。だがそれがどうした? 少なくともスタンダード装備でバランス型のあんたには関係ないね」
シンはさらに高く飛び上がった。敵のアーティーも、空に向かって銃弾を撃ち込んできたが、その程度、百戦錬磨のシンにとっては痛くも痒くもない。
「させるかよ! 食らいやがれ! 【残像蹴り】!」
下を見下ろすと、敵が振り上げた脚から衝撃波が飛んできていた。だが、シンは全く動揺せず、一定の高さに達すると飛行をやめ、下空に掌を向けた。
「【殲滅レーザー】発動!」
『充填 完了 対象 確認 ロックオン しました 敵を 排除します。』
シンの手の平から青白いレーザーが放出される。
ビィィィン!
「うわぁぁぁ!……ぁ…ぁ……」
3秒ほどで、敵のアーティーは、跡形もなくなっていた。
「一件落着だな」
シンは地上に降りてくる。倒されたアーティーは、元の人間へと戻っていた。そのまま逃げだすようにその場を去っていく。
飛び散った破片の中から、珍しいパーツを見つけた。スタンダードばかりだと思っていた装備に、希少なパーツが混じっていた。
「お、これは……」
『NO.201 今では 製造されて いない 珍しい タイプ です ね』
「やったな。今日の戦利品だ」
そのパーツを拾い上げ、シンはまた歩き出した。ここから、最強のアーティーになるための、冒険が始まるのであった。