5 魔族の国16
三階に着いた
もうゾンビ歩いてるんですけど
あ、こっちに気づいた
ん? 速くない?
え、ちょ、ちょっと待って、走ってない?
ゾンビって走るの!?
「うわぁあああああ!!」
走るゾンビに悲鳴をあげながら逃げ回る僕たち
テュネやアスラムは悲鳴を上げてるけど楽しい悲鳴だ
僕とエンシュはガチである
しばらく逃げ回っていると、彼らはあきらめたように戻って行った
「はぁ、はぁ。 息が、できない」
「落ち着いてくださいリディエラ様。 私たちは息をしなくても大丈夫ですよ」
そうだった
僕らは精霊だから呼吸しなくても大丈夫なんだった
それは人間形態の時でもだ
まわりから怪しまれないように同じようなことはしているけど、この行為に空気を循環させるような役割はない
吸った空気をそのまま排出しているだけだ
とりあえず、端にあった部屋に入って気分を落ち着かせることにした
この部屋にはどうやら何もいないらしい
安地と言ったところだろうか?
アイテムもない
「落ち着きましたか?」
テュネが僕を抱きかかえてくれる
「うん、ありがとう。 エンシュは大丈夫?」
「は、はい、何とか…。 それにしてもゾンビが走るとは驚きです」
やっぱり普通ゾンビは走らないらしい
どうやらレイスプリンセスが彼らの能力を底上げしているみたいだ
彼女の能力は自分の配下となった者への単純な能力強化と意思疎通
さらには死した者をゾンビやゴースト、グール、レイス、リッチへと変えることができる
もちろんその意思のない者に強要はできない
休憩もできたので恐る恐る部屋から外を見てみた
まだゾンビは徘徊してるけどさっきよりは少ない
よし、隠れながら進もう
幸い廊下には隠れれそうな洋服ダンス、壊れたベッド等々がたくさんある
これならゆっくりとだけど勧めそうだ
なるほど、三階はスニーキングしながら探すのか
うー、これは確かに二階よりも怖い
なんせ隠れているところを見つかる可能性もあるのだ
心臓が止まったらどうしよう
心臓なんてないけど
「五人で進むとすぐ見つかってしまいそうですね。 ここは分かれて行きましょう」
アスラムがにこやかにそう言った
「え? ちょ、何言ってるの?」
「では私とリディエラ様で組んで、あとは自由に決めましょう」
「いや、ここは私がリディエラ様と」
「何言ってるんですか~。 私とリディエラ様は共にベッドを共にした仲ですよ? 私が適任です」
「わ、私とリディエラ様はここが怖いという共通点があります! ですから私が!」
もめ始めた
「ちょっと! 声大きいよ! 来ちゃうよ!」
あ、まずい
一番大きな声を出してしまった
そっと振り向くと
団体さんのお出ましです
「ほらぁ! 見つかっちゃったじゃない!」
ホラーだけにほらぁ!
いやそんな馬鹿なこと考えてる余裕ない
僕らはまた走って先ほどの安地に逃げ込んだ
「これじゃぁ進めないから、アスラム、フーレンで一組、テュネ、エンシュ僕で一組ね!」
僕のその一言で決まった
よし、まずはアスラムたちに行ってもらっておとりになってもらおう
この二人は楽しんでるから大丈夫
よし、二人が行ったみたいだ
キャッキャッと仲良くね
あ、騒ぎが起きた
どうやらゾンビたちを引き付けてくれてるみたいだ
「よし、僕らも行こう!」
怖がるエンシュをなだめながら部屋から出た
おお! ゾンビがいない!
「今なら探索も楽そうだよ」
周囲の部屋を探索していると、廊下でキャーという楽しげな悲鳴が聞こえる
二人とも楽しそうだ
この辺りの部屋ではお札と聖水が見つかった
聖水は読んで字のごとく霊を払ってくれるアイテムだ
とりあえず三階の左側の探索は終わったので通信魔法でアスラムに連絡を取る
「次は右側を探索するからおとりお願い」
「はい、リディエラ様、これ結構楽しいですよ」
ほんとに嬉しそう
先ほどいたところと反対方向に隠れながら進んでいくと、たくさんの走るゾンビを引き連れた二人とすれ違った
うまく誘導できたみたいだ
そのまま右の探索をしていると、小さな部屋を見つけた
中には難しそうな本が並ぶ本棚があり、その中央におばさんがこちらに背を向けて椅子に腰かけていた
これは絶対レイスやゾンビの類だろう
なるべく音をたてないように本棚を見回すと、そこに光る本を見つけた
これを取るにはおばさんの前を通るしかない
「よ、よし、いくよ」
忍び足で本棚に近づき、光る本を取った
そのとたん
「返せぇえええええ!!」
と、おばさんが顔をあげた
何かで溶けたドロドロの顔
恐ろしさで悲鳴すら上げることを忘れてパニックになる
「わわわわわわ! にににに逃げあああぁああ!」
ドアノブをガチャガチャと回して押して出ようとするけど開かない
くっ、こんなギミックまであるのか
もしかして鍵が必要なのかも
とにかく今は目の前のレイスおばさんをどうにかしないと
ポケットをまさぐるとなかまんじゅうが出てきたのでそれを投げた
おばさんはうまくキャッチしてそれを食べている
すると、先ほどまでの表情がウソのように柔らかになった
「これより三階の案内を務めさせていただくモニカと申します。 姫様の乳母を務めておりました」
どうやらこの人もキーパーソンだったみたいだ
ちなみに光っていた本はただのフェイクでした
「姫様は幼いころから平民も分け隔てなく接せられる本当に優しい方でした。 わたくしのことも本当の母のように思っているとおっしゃってくださって…。」
道すがら話をしてくれるモニカさん
彼女は顔がドロドロに溶けている
これも拷問によるものだったらしい
姫を守るためにアシッドという魔法をかけられた結果、顔を溶かされ、それが元で感染症になって獄中で亡くなってしまったそうだ
モニカさんも姫のことを娘のように思っていたので、姫が殺された時は本当の意味で生きた心地がしなかったと言う
「少しおしゃべりしすぎましたね。 こちらに王女の指輪があります」
そこは遊び部屋のようだった
おもちゃや積み木が転がっている
「ここは姫様が幼いころに遊ばれていた部屋です。 ここでわたくしとよくボール遊びをしていました」
懐かしそうに宙を見上げるモニカさん
おもちゃ箱からおもちゃの宝石箱を取り出した
光が漏れている
宝石箱を渡され、早速開けてみると、可愛い指輪が入っていた
これでキーアイテムも三つ目だ
階段までモニカさんと歩き、アスラムたちと合流するとモニカさんにお礼を言った
「次はお客様としていらしてください。 姫様も喜びます」
うん、そうしよう
聞いている限りだと同じくらいの歳格好だし、それに良い人? レイス? みたいだしね
モニカさんに手を振って階段を上り、四階へとやって来た
だんだんと難易度が上がっていく仕様です
ホラーゲームとかを参考にしました
ちなみに私はゾンビは歩く派です
走ってるゾンビに違和感があるからです
まぁ怖いからいいんですけどね
この館に登場する走るゾンビは強化されたからという理由付けをしているので
走ってもいいのです
バイオハザードみたいに強化されてる走るゾンビは受け入れてますよ




