5 魔族の国15
いくつか部屋を調べていくと、戸棚が光っているのを見つけた
早速戸棚を開いてみると、ろうそくが数本出てきた
霊避けのろうそく、霊が出てきたときに使うと一度だけ退けてくれるらしい
全部で3本ある
これはいいものを拾った
それから一階の部屋の半分を探索し終え、なかまんじゅうというのを見つけた
これはゾンビ、もしくは霊にあげるとそのフロア内は仲間になって他のゾンビや霊を撃退してくれるようになるみたいだ
ただ、階を登るときにそのフロアで仲間になった人は元の配置に戻って行くみたい
これもなかなかいいアイテムだ
それにしてもキーアイテムの方は見つからない
霊もゾンビも幸いまだ遭遇してないけど、エンシュの震えがすごい
僕はそっとエンシュの手を握ると、少し納まったみたいだ
「あ、ありがとうございますリディエラ様、お恥ずかしい限りですが、こういったことが苦手なもので…。 あ、いえ、決して彼らが怖いというわけではないのです。 この不気味な雰囲気が苦手なだけでして」
「大丈夫、僕もそうだから」
お互い笑いあう
エンシュって隙のなさそうに見えてたけど、こういう可愛い一面もあるんだ
知れてよかったと思う
彼女は僕のお姉さんと言っても過言じゃない
家族のことは知っておくに越したことはないからね
「リディエラ様、これじゃないですか?」
廊下を歩いているとアスラムが何かを持ってきた
これは、腕輪だね
廊下にある棚の中にあったらしい
「これが王女の腕輪のようですね。 やりました。 これで一つ目ですね」
「うん。 でも、これで部屋にあるだけじゃないってわかったね。 これからは廊下や階段も注意して探そう」
ここからさらに目を皿のようにして探し回ったけど、一階ではもう何もなかった
もしかして各フロアごとにあるのかな? それならわかりやすくていいんだけど
それにしても、このフロアは不気味なだけで何もいなかったなぁ
このまま何も出ずに終わり…。 なんてことはないよね? やっぱり
二階
途中の階段ではお札トラップというものを見つけた
地面に張ると追われてる時に発動して霊を足止めしてくれるみたい
まぁ追われてても一定時間たったら彼らも持ち場に戻るらしいから逃げ回るって手もあるけど、それじゃぁ体力ばかり奪われちゃうもんね
二階は一階と様相は似ているんだけど、明らかに気配がそこかしこにしてる
怖い、だって息遣いや笑い声がしてるんだよ?
もう無理、リタイアしていい? あ、ダメですかそうですか
廊下を歩いていると、女の子が泣いてうずくまっているのが見えた
きっと他のお客さんだろう
僕は近づいて話しかけてみた
「あなた、私が見えるの?」
「え?」
な、なに言ってるんですかヤダナー。 ほ、他のお客さんなんだよね? そうだと言って!
固まっていると、女の子がスッと立ちあがった
顔が! ずたずた!
あわわわわわわ、逃げ! 逃げる! ああああああ!!
「ヒィいいいい!!」
悲鳴をあげながら逃げ、目についた部屋に飛び込んだ
「どどどどうしようテュネ! お化けが! 幽霊が!」
振り返ってテュネに抱き着いた
「ヒェ! つ、冷たい」
「リディエラ様? 私はこちらですよ?」
「え? じゃ、じゃあこちらの方は?」
ゆっくりと見上げて顔を見た
女性、の、顔
目が無い!
「あぴゃぁあああああ!!」
勢いで持っていたなかまんじゅうをその幽霊に投げつけた
それは見事に霊の口に飛び込んだ
というより霊が自らくわえに行った気がする
それをもそもそと食べて、霊のお姉さんはにこやかに微笑んだ
本来目があるはずの場所にぽっかりとあいた穴からムカデが這い出る
「ひぃいい!」
そのお姉さんは僕の頭を撫でると、憑いてきてくれた
まさしく憑いて、だと思う
でも、にこやかに笑ってくれる彼女のおかげで少しは怖さが和らいだ
ちなみに廊下に出るとさっきの少女がまだいたので、目のないお姉さんに追い払ってもらった
たのもしい!
怖がってごめんなさい
「案内します。 このフロアのことはよく知ってますので。 ここには王女の髪飾りがあるのですよ」
どうやらこの人、キーパーソンだったみたいだ
キーパーソンというのは、この館を攻略するにあたって有利になる人のことで、なかまんじゅうを使うと、他の幽霊やゾンビを追い払ってくれるだけでなく、いろいろと力になってくれるのだ
たまたまだったけどラッキーだったね
「私は王女様のお付きの侍女でした」
唐突に自分語りを始める彼女
「名前はエリナです。 王女様はそれはそれはお優しい方で…。 あのようなことにならなければ、この土地はもっともっと栄えていたことでしょう」
妙に実感がこもっていると思ったら、この話、本当にあった出来事みたいだ
エリナさんももちろん本当に王女様の侍女だったらしい
昔々、この土地には人間の王家の別荘があった
その別荘というのがこの王女の館なんだけど、ちょうど王女様がここに休養に来ていた時に臣下の一人がクーデターを起こした
そいつは根も葉もない王族の悪い噂を立てて有志を募ったみたいで、一気に王都は落とされ、ここも取り囲まれたらしい
エリナさんたちは必死に王女様を隠したんだけど、悪い臣下率いる兵士に捕まって拷問を受けて居場所を聞かれた
でも、誰一人として教える人はいなかった
だって、みんな王女様が大好きだったから
抵抗むなしく、エリナさんは目をえぐりだされて死んでしまったらしい
その後、王女様も見つかって殺されてしまったそうだ
守れなかったことが悔しくて、皆レイスやゾンビになって蘇り、この土地が悪夢の戦場跡と呼ばれるようになったらしい
王女様の方はそうなってしまったみんなを心配してレイスプリンセスとなって蘇って彼らをすぐにまとめ上げたらしい
それからは復讐のため国を乗っ取った臣下や裏切った者達を全て呪い殺し、この土地で覚めることのない恨みによって化け物と化していた
「でも、そんな私たちを今の魔王様は変えてくださいました。 私達を人として扱っていただき、この土地での自治権も認めてもらえました。 私たちは生涯あの方に使えると決めました。 もう死んでいるので生涯といういい方もおかしいですが」
そんな話を聞いて僕は彼女が怖くなくなった
そっか、ここの人達も苦労してたんだ
「今はすごく幸せです。 再び王女様に使えれていますし、たくさんの観光客の皆さんのお相手もできてますし。 私、人を驚かすのが好きでしたので、今のこの仕事は天職だと自負しております」
うん、確かに怖かった
天職だね
彼女はにこやかに微笑んだ
生前はさぞかし美人だったんだろうな
あ、そうそう、エリナさんは目はないけど、魔力感知で周りのことはわかるらしい
だから見えてるのと変わらないんだとか
人間のころはできなかったけど、レイスになってから魔力に敏感になってできるようになったんだとか
レイスってすごい
話し込んでいると、目的の場所に着いた
食堂のようだ
その机の上にある錆びた燭台に飾られるようにして髪飾りがあった
それを手に取って階段へ向かう
「私はここまでです。 ここから上はさらに怖いですよ。 頑張ってくださいね!」
う、さっきのエリナさんより怖いのか
でも、ここまで来たらクリアしたい
気を引き締めて行こう
エリナさんにありがとうと別れを告げて上に上がった
この階段では再びなかまんじゅうをゲット
ちなみにエンシュはすっかり無口になってしまった
「無理しなくていいよ」
と言うと
「リディエラ様を置いて私だけ逃げるなんてできません!」
エンシュ、なんていいお姉さんなんだ




