5 魔族の国6
母さんが言うには、遥か古代の魔法で、まだ母さんが神様だったころの魔法なんだとか
その名も“魂の憑依”
名前の通り、死ぬ間際に魂を体から分離して別の器に移すものらしい
母さんの予想では、その器こそ現魔王、キーラだ
「そんな…。 私は、そんなことのために生まれ…。」
キーラは気が遠くなったのか、倒れてしまった
「「キーラ!!」」
リドリリとアイシスが慌ててキーラを抱えた
「すいません、これはその子に聞かせるべきではなかったですね」
母さんが謝る
「いや、いずれ知ることになったはずだ。 今知っていた方が後々のショックは少ないだろう。 大丈夫、俺たちでキーラをサポートするさ」
勇者アイシスは本当に良い人だ
僕もキーラを支えよう
友達になったんだからね
「それにしても、器って、自分の娘なのに許せないよ」
「あぁ、絶対見つけ出してあいつの息の根を完全に止めてやる」
「それにしても、死ぬ間際に魂を出せるってことは、今の体を倒してもまた次の体を狙ってくるんじゃない?」
「確かにその通りだな」
「それに関してはリディちゃんがいれば問題ないわ。 リディちゃん、あなたの精霊魔法セントルミエーラなら悪しき魂を浄化できるはずです」
「え? 僕の精霊魔法?」
聞いたことない魔法だった
テュネも教えてくれてないし
「リディエラ様、後で練習しましょう」
どうやらテュネは知ってるみたいだ
今までの魔法は練習しなくても教えてもらうだけで出来た
きっとこの魔法はそれくらい難しいんだと思う
ちゃんと練習して使えるようにしよう
「なんで教えてくれていなかったの?」
「平和になったこの世界では必要ないと思ったのですよ。 それにこの魔法は精霊である私たちに大きな負担を掛けます。 まだ生まれたばかりのリディちゃんには危険な魔法。 できれば使ってほしくないのです」
そっか、母さんは僕を心配してくれてたんだ
でも、僕はこの世界を危険にさらす方が嫌だ
「大丈夫だよ母さん。 練習してちゃんと使いこなせるようになるから心配しないで」
「…。 リディちゃん、精霊として立派に育って…。 四大精霊たち、リディちゃんがしっかり役目をこなせるようしっかりサポートしてあげてくださいね」
四体はうなずいた
前魔王との戦いでは唯一魂ごと消滅させられる僕を狙ってくる可能性が高い
正直少し怖いけど、皆が守ってくれる
だから僕は全力を出そう
この世界を守るために
「さて、倒す手立ては分かったが、問題はその肝心の前魔王がどこにいるかだな。 精霊女王、何か心当たりはないか?」
「そうですね。 闇の谷ならあるいは…。 闇の谷は邪悪な魂が集まる場所です。 あそこはかつての戦争で異世界の邪神が倒された場所。 いまだに怨念が溜まっています。 危険ですが恐らく前魔王はそこに」
「なるほど、あそこか。 確かジューオンの国領にあったな。 そこから何者かの目を通してこちら情報を知り、操っている者、もしくは崇拝している者に指示を出しているのかもしれん」
アイシスは思考を巡らせてるみたいだ
何かを考えるアイシスはとても絵になる
思わず頬が赤らんだ
「よし、俺とリディ含む精霊たちは闇の谷に向かう。 他はキーラとこの城にいてくれ。 いざというときは守ってやって欲しい。 それとリディエラ、精霊召喚はできるよな? 何体か上位精霊を呼んでこの城の守りと各地の守りに就かせてくれ、他の街を襲ってここの守りを崩されても敵わないからな」
「うん分かった」
作戦決行は明日だ
今はゆっくりと休んで英気を養うんだ
この作戦を知るのは僕たち精霊と勇者アイシス、目を覚まして落ち込んでいるかと思いきや、開き直ってすっかり元気になった魔王キーラ、その部下リドリリ、シュロン、カミネだ
もしこの作戦が前魔王に知られたとしたら、それは、この中に内通者がいるということ
考えたくないけど、その可能性も考慮しておかないと
そして次の日、僕は数十体に及ぶ上位精霊を召喚してそれぞれの街や村に飛んでもらった
彼らならちょっとやそっとじゃやられないはず
緊張するし怖い
でも、四大精霊がそれぞれ僕を抱きしめてくれた
それだけで僕は安心できた
いよいよか
「さぁ行くぞみんな! 俺たちの手で前魔王を必ず討ち果たすんだ!」
勇者アイシス、彼女の掛け声には不思議な魔力がある
僕たちは奮い立たせられ、勇気がどんどん沸いた
僕たちは勇者と共に闇の谷へ向かう
少し前のシノノの報告によってここに魔王がいるのはほぼ確実となった
シノノ、できるお姉さん
僕はアイシスを見てもう一度勇気を奮い立たせた




