4 エルフの国8
虹の泉から帰ったその日の夜、シノノからまた連絡があった
追っていたあの女性の情報だ
鬼ヶ島よりさらに西の大陸、植物人族の国プランティアに入っていくのをシノノの部下が目撃したらしい
シノノの部下は世界中にいて、彼女たちのおかげで精霊は世界の最新情報を共有できている
植物人族はおとなしい種族で、先の魔族との戦争でも争いごとの嫌いな彼らは中立を保っていた
そんな彼らをどちらの陣営も引き入れようとしなかったのは、単純に彼らを怒らせると僕たちのような精霊や聖獣、神獣、妖精全てを怒らせるからだ
植物人は自然に根付いた種族、当然それにかかわる僕たちとのかかわりも深く、いわば眷属だ
当然精霊の怒りをかえばその種族の土地に恵みはなくなるし、妖精や聖獣神獣が暴れだす可能性もあるので誰もそんな危険を冒すことはない
「引き続き彼女の調査をするっすよ。 また報告するっす」
シノノはそう言って通信を切った
調査は彼女に任せておけば大丈夫そうだ
それにしても植物人族の国に入ったなんて、怒らせなければいいんだけど
気を取り直して観光だ
今日は神獣ファガロトに会いに行く予定で、エンシュが張り切ってる
なんか戦おうとしてない?
なんで武装し始めてるの?
とりあえずファガロトのいる場所へと案内してもらった
果樹園を抜け、ファガロトを祀った祭壇があるところまで来た
ここは聖なる力が働いているみたいで心地いい風が吹いている
「この辺りにいるはずなのですが」
案内してくれたエルフの巫女さんが当たりをきょろきょろ見渡している
僕らも周囲を見たけど気配すらしない
「おかしいですね。 いつもならすぐに出てきてくださるのに」
何かがおかしい
ここに今何の気配もない
どうしたんだろう?
「ちょっと私探してきます。 精霊様はこちらの社でお待ちください」
巫女さんに社に案内されて中に入り、待つことにした
その間僕らは社の中を掃除しておく
掃除を初めて数分後、悲鳴が聞こえた
巫女さんのものだ
急いで社から飛び出して悲鳴の上がった方向へ走った
森を探すと、巫女さんが倒れているのが見えた
その周りには巫女さんの物と思われる血だまりができている
すぐに助け起こすと、おなかから血が吹き出た
「これはまずいですね。 かなり深く腹部をえぐられています。 リディエラ様、治療をお願いします。 私たちはこの子を襲ったものを探してまいります」
「うん分かった。 気を付けて!」
僕はすぐに彼女の治療を始めた
上位の回復魔法で傷口を塞ぎ、止血して、増血魔法で失った血液を補う
一応危機を脱したみたいで、意識は失っているけど顔の血色は元に戻った
「一体何に襲われたんだろう?」
そう思っていると、ドーンと爆発音があたりに響いた
エンシュの攻撃魔法だ
それに続いてさらに爆発音がした
段々とこちらに近づいてきている
彼女を社の中に寝かせて僕は音のした方向へ走った
見えてきたのは巨大なクマだ
銀色の毛並みに一本角が生えている
手には鋭い爪があり、血で染まっていた
どうやら巫女さんを襲ったやつで間違いなさそうだ
「リディエラ様! 危ないので下がっててください! 私が処理します!」
エンシュが叫ぶ
なんとしても僕を傷つけさせないようにという気迫が伝わって来たのでおとなしく下がった
それにしてもあのエンシュが苦戦している
ということはあの熊、SSSランクはあるのだろう
エンシュの攻撃力の強い爆発魔法が効いていないみたいだ
「フーレン! エンシュの援護を!」
「はい~、行きます~!」
風魔法でさらにエンシュの爆発魔法の威力をあげる
それによって少しずつ熊の体力も削げてきたみたいだ
「「「「合成魔法、クアトロプロ―ジョン!」」」」
四人が協力して合成した魔法が熊に炸裂すると、熊の体は激しくはじけ飛んで絶命した
ここまで苦戦したのは初めてかもしれない
しかもこの熊の魔物、誰も見たことがないみたいだ
社に戻ると巫女さんが目を覚まして震えていた
あんな化け物に襲われたんだから無理もない
テュネがケアをしているけどトラウマは残るかもしれない
震えながら泣いている彼女をテュネが街まで送っていった
「それにしてもあんな魔物が出るなんて、一体何が起こっているのでしょう。 それに、ファガロトは一体どこに…」
僕たちはテュネが戻ってくるのを待って森を捜索することにした




