3 鬼人族の国23
花火の場所取りはかなりいい場所が取れたと思う
テュネたちに頼んでおいて正解だった
打ち上げ場所から川を挟んだ反対側の河川敷
そこに大きな風呂敷を敷いて席を確保してその時を今か今かと待った
やがて日は沈み、あたりが暗くなり、提灯に火がともされていく
拡声魔法で山彦族の女性のアナウンスがあたりに響いた
「お待たせいたしました! 大神々祭の最後を締めくくる花火大会の開始です! 皆さま、そして神様方! どうぞ最後まで心行くまでお楽しみください!」
いよいよだ
これを楽しみに今日を過ごしたと言っても過言じゃない
僕は花火を今まで見たことがなかった
聞いたことはあるんだけど、みんな花のようだだの星のようだの言うのですごく見てみたかったんだよね
僕は花や星が大好きだ
花は香りも楽しめるから好き
花火はその名の通り空に咲く大輪の花
すごくドキドキしてきている
ピューという長い笛のような音が聞こえた
対岸を見やると、火の玉が上に上がって行っている
パアアン
火の玉がはじけた
そこから放射状に煌く炎が花を咲かせていく
なんて、綺麗なんだろう
僕は感激に打ち震えながらその花を眺め続けた
次から次へと咲く火の花はこの場にいるすべての人の心をガッチリとつかんだようだ
誰も歓声すら上げることなく魅了されている
アマテラスも嬉しそうに眺めているようだ
それから一時間ほど花火はあがり続けた
誰もが言葉を発することなく、ただただその花火を楽しんだ
そして花火の締めを飾る巨大花火が打ち上げられた
今までよりも明らかに大きな火の玉がヒュルヒュルと上がっていき
やがてはるか上空で弾けた
大きい、ものすごく高い場所に咲いたはずなのに、まるで目の前にあるかのように大きかった
画面いっぱいに広がるパノラマは一枚の写真のように僕の時間を止めた
それからゆっくりと広がり切り、大きすぎる花が咲いて散った
余韻を残し、花火大会は終わりをつげた
「すごかった…」
僕はただその一言を言うと、四大精霊もそれに同意するようにうなずいた
心が揺さぶられるってこういうことを言うんだろうな
感動、僕の目からは一筋の涙が流れた
「リディエラ様? 大丈夫ですか?」
テュネが心配して聞いてくれたけど、僕は全く問題ない
もうしばらくこの余韻に浸っていたかったけど、祭りはお開きだ
アマテラスの閉会の儀を見に行かなくちゃ
人々が広場に集い、やぐらにアマテラスが座した
「今年も非常に素晴らしい祭りの奉納、大変うれしく思うぞ。 わらわも我が愛しい子らのために存分に尽くすと約束しよう。 よい祭りであった!」
アマテラスの挨拶は短かった
けれどそれだけで神々からの感謝が伝わってくるようだった
何度も言うようだけど、神々は人々の信仰によって存在することができ、奇跡を起こせるのだ
だからこそこういった祭りや神社の存在は大切で、この祭りにも世界中から人が集まる
これからも大切に受け継いでいってほしいな
寿命のない僕たち精霊もこの祭りを見守って行こう
楽しい時間はあっという間に過ぎ、僕たちは翌日、故郷の精霊の国へ向かって旅立った
途中人間の国、僕たちの町に戻って妖精たちにお土産も渡さないとね
元気にしてるかな?
まぁカスミがついてるから大丈夫だろう
鬼ヶ島からの船に乗り、獣人の国へと向かい、そこから人間の国を目指すことにした
他にもルートはあるんだけど、そっちからだとちょっと遠回りになるからね
できるだけ早く帰りたい
精霊に戻って飛んでいけばいいんだけど、なるべく歩くことを心掛けたい
思わぬ発見や収穫があるかもしれないしね
それに、精霊の力に頼ってばかりじゃ堕落しちゃうかもしれないし
あぁ、前世の母さんに会えたからか、早く精霊の母さんに会いたい
めいっぱい甘えよう
だって僕はまだ子供なんだから、許されるよね?




