兎人族の国2
兎人族の国に転移魔法陣で移動してきた僕は一斉に囲まれて少し驚いた
その中の一人、一番小さな女の子が僕によじ登って肩車の要領で乗っかって落ち着いた。可愛い子だね
兎耳の人達は精霊が大好きらしくて、すぐに僕を歓迎するための宴が開かれることになった
「あの、トコ様はどこへ?」
「あ、申し訳ありません、その頭によじ登っているお方がトコ様です」
「え!?」
「ウフフ、その通り! あちきこそ兎神トコだっちよ! ふっふ~ん!このあちきがお前を導いてやるっち!」
「はい! よろしくお願いします!」
「でもまだ何も考えてないっち! だからお前にはあちきが考え付く間あちきの乗り物になってもらうっちよ!」
「は、はあ…」
トコ様はそのままスヤァと寝息を立てて眠ってしまった
まぁ可愛いからいっか
僕はトコ様を肩に乗せたまま開かれた宴に入っていく
実はこの隠れ里以外にも兎人族は獣人の国にたくさんいる。それなのになぜここの人達はここを離れないのか? それは彼らが兎人族の中でも珍しい月兎族という種族だからだ
月兎族と言うのはその名の通り月の兎で、かつてはたくさん月に住んでいたんだけど、遥か昔に月を襲った大寒波でこの星に避難し、そのまま根付いて兎人族と交わったらしい
ここを離れれない理由はそれだけじゃない。兎人と交わって血が変わったとはいえ、月兎の血を濃く受け継いじゃった人達は狂気の赤い瞳という邪眼を宿してしまうんだ
この邪眼がかなり厄介で、同じ邪眼の持ち主か精神生命体である僕達精霊やハクラちゃんみたいな人以外はその邪眼に精神をやられて、そのまま死に至る。だから彼らはここにひきこもったというわけだ
そりゃ彼らだって本当は獣人族の国で暮らしたいそうで、月兎の遺伝子を引き継いでしまったために親元を離れて泣く泣くここに来なくちゃいけなくなった子供達もいるんだ
どうにかできないかなぁ…
「ふむ、あちきも昔は苦労したっちよ。人を見る度に彼らを傷つけてしまうんだっち。でもあちきはある日を境にこの目をコントロールできるようになったんだっち」
「トコ様は元々月兎何ですか?」
「そうだっち。あちきは月にいた。地球の月にいたんだっち」
「地球の!?」
トコ様の話によると彼女は地球の月で平和に暮らしていたらしい
大好きな月の民である天人族の女の子といつも一緒に遊んでいた彼女はそれはそれは幸せな生活を送っていた
でもある日その幸せは崩された
かつて全ての世界を襲った大厄災、その先駆けによって天人やトコ様の親兄弟、その全てが皆殺しにされてしまった
自分も殺される、そう思った時彼女の眼が覚醒した
その覚醒した目で敵をすべて討ち果たし、彼女はその大厄災を納めるために日の神様であるアマテラス様の元へとやって来た
その後は研鑽を積んでとにかく強くなったみたいなんだけど、如何せん心を開いたのがアマテラス様にだけで、他の神獣とは会話もしていなかったようだ
でもそれを変えたのが石野さんという地球のおじさんだったらしい
その人は包み込むかのような優しさで瞬く間にトコ様の心を開いていった
それ以来トコ様はその石野さんにべっとりなんだそうだ
そしてその石野さん、なんと聞くところによるとその後アマテラス様によって十二獣神入りを果たした
と、彼女はここまで話してまた眠ってしまった
ああもういいところだったのに
でも十二獣神に入ったってことは僕も会うのかな?
えっと、十二柱だから、今まで犬神ワコ様、猫神ニャコ様、猿神エコ様、鳥神ヤコ様、狐神レコ様、狸神ポコ様、蛇神ミコ様、竜神リュコ様、それからえっと、兎神トコ様と馬神リコ様、で、人神アコ様、最後の一人はまだ会ってないけど妖神様って言ってたね。てことはその妖神様が石野さんなのかな?
あれ、でも人から神様になったってことは石野さんは人神なんじゃ? ん?何かがおかしい気がするよ
うーん、まあ今は別に考えなくてもいいかな
宴が終わってから僕はトコ様をお風呂に入れて着替えさせ、一緒に床についた。トコ様だけに!
そして翌朝、僕のお腹にドンッと何かが乗っかる感触が
目を開けるとトコ様が楽しそうな顔で僕の顔をペチペチ叩いているのが見えた
「トコ様、おはようございます」
「おはよう! 早くいくっちよ!」
「行くってどこへですか?」
「いいからついてくるっち」
慌てて起きあがった僕はテチテチと走っていくトコ様の後をついて行くと、いきなり目の前の景色が変わって宇宙空間のような場所になった
「え?あれ?」
「よし、うまくいったっち」
「あの、ここは?」
「月だっち!」
「ええええええええ!!」
言われて見ると確かに向こうに青い星が見える
「あれって地球ですか? それとも」
「うん、あれは地球じゃないっち。ちゃんとこの世界のままだっちよ」
「そう、ですか…。それでここで何を?」
「このあちきが繰り出す魔物をすべて打ち倒すっち!」
「魔物を?」
「フフフ、ただの魔物じゃないっちよ! あちきがばっちり強化してるっち。あちきの眼はこういうこともできるんだっち。それじゃあ早速行くっち! カモンオオワノキバウサギ!!」
トコ様が両腕を万歳の形で振り上げると、目の前に二メートルくらいのすらっとした大きな牙のある兎が現れた
それは僕を見るなりいきなり素殴りで拳を振りかぶってきて、慌てた僕はその腕をしゃがんで躱しつつもなんとか冷静にその足を払って転ばせた
「ほほ、やるっちね。それじゃあ次だっち!」
「え、この子は?」
「百人組手の要領だっち。倒れたら次! ガンガンいくっち!」
「あわわわわわわ」
突如始まった百人組手、いや、百魔物組手に翻弄されつつも僕は魔物をさばいていった




