兎人族の国1
一旦人間族の国から少し離れた場所にある開拓地の町に僕はやって来た
やって来たというより帰って来たという方が正しいかな? 何せここには僕達の家があるからね
その家を管理してくれているのが僕お付きのメイドや執事、もとい妖精たちだ
彼らはエインセルという珍しい妖精たちで、リーダーのカスミを筆頭に皆僕によく懐いてくれてる
そんな彼らに久々に会うんだ。お土産もたくさんあるし、喜んでくれるかな?
久しぶりすぎて少し緊張した僕は思いのほか小さな声で「ただいま」と言ってしまった。もう少し声を張れなかったのか僕…
でもそれで気づいてくれたのか、僕は姿を消していた彼らに一斉にとびかかられた
「お帰りなさいませリディエラ様! お帰りを今か今かと待ちわびておりました!」
「うわ、カスミ、ごめんねなかなか帰れなくて」
「いいんですいいんです! こうしてお顔が拝見できただけで私はもう天にも昇るような」
「アハハ、カスミの奴リディエラ様が帰ってこないってよく泣いてたんですよ」
「ちょっとコルト! それは言わない約束でしょう!」
「フフ、そうだったんだ。でも大丈夫、一週間くらいならここにいれるから」
「ああ、ようやく私の新レシピをふるまえるのですね! 今日は腕によりをかけてお料理させていただきます!」
すっかり張り切ったカスミは腕まくりをするとさっそく調理場の方へ走っていった
他に料理のできるケリーとエリー姉妹、それからお嬢様気質のマリリカ、変化魔法の得意なゴーシュ君は同じく調理場に立った
中でもゴーシュ君はお菓子作りが趣味らしくて、よく新作のクッキーやケーキを作ってくれてたなぁ
さて、ご飯ができるまでまだまだかかりそうだから甘えん坊のシェリィと少し街の様子でも見てこようかな? この子はエインセルの中でも一番年下で、特に僕にべっとりだった子だ
まったく、僕より年上なのに…
でもまぁ町を案内してくれるみたいだから助かるかも。何せ帰っていなかった間に開拓はかなり進んでて、もういっぱしの街になって来たからね
ここは人間族が精霊族との懸け橋のために自然との調和を考えて作っている。いわばサンプル都市なわけだ
この街が完成すれば精霊達が多く行き交うこと間違いなしだと思う
それは今までにないことだった
それほど人間族は精霊との関係を大切にしてくれるようになったんだね。それもこれも母さんや人間族の数世代前からの国王たち、前国王、現国王が長年をかけて頑張ったからみたい
もともと人間族は精霊を捕らえて自分達の力の誇示のためにその命を奪っていたらしい
だからその当時は精霊族の加護が一切なかったって聞く…。遥か昔は仲が良かったんだけどね
その時代は精霊族にとっても地獄のような時代だったみたい
実は母さんまでも危うく捕らえられそうになったらしくて、怒り狂った四大精霊と上位精霊達によって一度人間族の国は滅んだんだ
そこから人間族は精霊との調和を大切にしていた人をリーダーに据えて少しずつだけど変わっていった
そして、精霊との間にちょっとずつ絆が戻って行って、数年前のあの日、魔王救出の際に全ての種族が一つになった
それは人間族の王と母さんが力を合わせて種族を一つにまとめ上げたからで来たこと
今では種族間通しの争いや差別のない理想の世界にこの世界はなった
今の問題と言えば他世界から来ている魔物にどう対処するかってことなんだよね
一つになったこの世界の住人ならそれも乗り越えられるって母さんも僕も信じてる
「リディエラ様、ここです! ここに連れてきたかったですよ!」
「ん? わぁすごい!」
シェリィが連れてきてくれたのは母さんと僕を模した像と人間の国王が互いに手を取り合っている希望の像のある広場だった
精霊と人間、そしてその周りにはそれぞれの種族の王たちが仲良く並んでいる
世界平和の象徴となる場所か
「リディエラ様、あたしも将来リディエラ様みたいに旅をしていろんな種族と会ってみたいですよ」
「うんうん、素晴らしい夢だと思うよ」
「エヘヘ」
シェリィももう、いつまでも甘えん坊じゃないんだね
・・・
僕は改めて決意を固めた
こんなに素晴らしい世界を壊させない
全部守って帰って来て見せる
それから街の様子を見て回っている最中たくさんの人間に声をかけられた。どうやら僕の姿は既に街中に知れ渡ってたみたいだ
まぁ像になってるからね。それも仕方がないか
それにあの家も精霊の住まう家として有名な観光地になってるらしい
迷惑をかけないために遠目から見るだけって言うのが暗黙の了解になってるみたいだから、カスミ達も安心して過ごせてるようだよ
僕は愛されている。それを実感してここでの一週間を充実して過ごした
カスミ達の美味しい料理は名残惜しいけど行かなきゃいけない
世界を守るために、強くなるために
そして僕はトコ様に会うために兎人族の国へやって来た




