邪竜さん聖竜になる 終
あの時から俺の力は以前とは比べ物にならないほど強くなった
世間でいうところのBランクくらいの魔物なら一撃、Aランクでも労せず倒せるようになっていた
道中も全く何の問題もなく進めているし、セツとムラサメをちゃんと守れている
「俺は一体どうしちまったんだろうな」
手や足が白くなったのを皮切りに段々と白い部分が増えていっている
嫌な感じはしない。 むしろ体に力が溢れて気持ちいいくらいだ
「大丈夫、嫌な感じ、しない」
「うん、うん」
ムラサメとセツが慰めるように俺の手や足をさすってくれる
そんな二人に癒された
「もうすぐ,着くよ」
セツが先頭を歩きながら俺に振り返ってそう言った
そんな仕草に思わずドキッとしたが、視線をそらしてごまかした
セツが言うにはあと一時間ほどで目的地であるアウロラの庭と呼ばれる岩石地帯につくらしい
そこでアウロラの涙とかいう鉱石を拾って帰れば任務終了だ
あとは鉱石を採取するだけだから楽勝だな
やがて広い広い岩石地帯、アウロラの庭が見えてきた
その景色は俺でも美しいと思えるくらいな情景で、常に輝くオーロラのカーテンが降り注いでいた
「綺麗、こんなの、初めて」
「すごい」
二人も目をキラキラと輝かせて景色を堪能している
しばらく楽しもう、あんなにうれしそうな顔をされると俺も嬉しいぜ
景色を十分楽しんでから鉱石採取を開始した
そこらへんにぽろぽろ落ちているわけないから少し岩石を掘る必要がある
そんな力作業は俺が全部やった
岩石を砕くくらい造作もないからな
俺は拳で掘削して鉱石らしきものをいくつも掘り出した
「これは、違います。 これも、これも、なかなか、ない、ね」
セツが鉱石の鑑定をしていくが、どうやらアウロラの涙はそう簡単に見つかるもんじゃないらしい
結構掘ってるが一向にでてこない
少し休もうと作業の手を止めたとき、ふとセツが何かに気づいた
「これ、ここ、ここに、何か光ってる」
「光ってる? 俺には見えねぇけどな」
「私には、見える。 ここを掘って」
セツが指さす岩石を砕いてみた
すると中から虹色に光る鉱石が出てきた
「これ! まさしくこれ!」
嬉しそうに鉱石を拾い始めるセツとムラサメ
なんてかわいいんだ!
思わず抱きしめそうになるのをグッとこらえて俺も鉱石を拾った
十分な収穫のあと、少し休んで帰ろうと立ち上がったその時、得体のしれない気配を感じた
「セツ! ムラサメ! こっちへ来い!」
「やだ、なに? 告白?」
ポッと雪のように白い顔を赤らめるセツを無理やり抱き寄せるとそのまま一気に後ろにとんだ
すると今いた場所にまるで隕石のようなものが降り注いだ
「ほう、あれを避けるか」
頭上から声がした
その咆哮を見ると、そこにいたのは俺のよく知る魔族だった
「チッ、てめぇは」
「久しぶりだなガンドレ、それにしてもなんだその姿は… それに、精霊と一緒だと? 貴様先代魔王様への忠誠を忘れたのか?」
「はん! そんなこともう覚えちゃいねぇな。 俺が今使えてるのは精霊女王様よ! もう魔族のことなんて忘れちまったぜ」
「そうか、ならば遠慮なく消させてもらおう」
「いいぜ、来いよシュロン」
俺は二人を岩石の後ろに隠れるように言うとシュロンに対峙した
奴はかつて俺と共に前魔王のもとで暴れまわったいわば戦友だ
「お前がいなくなった後ドラゴンを邪悪に染めて邪竜を作ろうとしたがどれも失敗だった。 お前ほど頭のいいドラゴンはなかなかいないからな」
「ドラゴン? どうせ野生のドラゴンもどきでも捕まえてたんだろ」
「そうだろうな。 先も邪竜を作ろうとして失敗した。 逃げた奴を追っていたがまさかその先でお前に会うことになるとはな」
「逃げた? もしかして、あの時の」
「ほぅ、会ったのか」
「あぁ、まぁ俺の敵じゃなかったがな」
「その口ぶりだとやつを倒したのか? お前より力は上だったはずなんだがな」
確かに俺より強かった
だが俺は強くなった
二人を守りたいと思ったら力が湧いた
そう、力ってのは自分のために振るうんじゃねぇ
誰かのためにあるんだ
それをこいつは全然わかってねぇ
「さぁ、やり合おう。 昔みたいな喧嘩じゃなく、殺し合いだ」
「ふん、お前に勝てたことは一度しかねぇが、俺はあの時とは違う。 守りたいものができたからな。 今の俺はあの時より、強い!」
俺とシュロンの戦いが始まった
それから一時間あまり、俺はシュロンに腹を貫かれ、死にかけていた
「グフッ、お前、あの頃は手を抜いてたのかよ」
「あぁ、俺はな、お前のことを気に入ってたんだぜ」
シュロンが手を引き抜くと、血が噴き出した
段々と意識が遠のいていく
だめだ、倒れちゃだめだ
あの二人を、守る、ん、だ
俺は立ったまま死んだ
恐らく、死んだんだと思う
魂が抜け、俺はシュロンが二人に近づいて行くのを上空から見ていた
「さぁ、次はお前らだな」
ニヤリと笑っているシュロンの手が震える二人に伸びる
やめろ、その二人に手を出さないでくれ!
俺は魂のままシュロンに向かっていったが、その手は空を切るだけでシュロンに当たることはない
クソ!クソ!クソ!
悔しい、自分が死んだことではなく二人を守れなかったことがだ
ダメだ、こんなとこで俺は死んでられねぇ。 二人を助けねぇと!
すると俺の魂の体が輝き始めた
「行きなさい、あなたはまだ死ぬには早いから」
どこからか少女のような声が響いた
そして、俺は体に戻った
戻った体にひびが入り、体の表面が崩れ落ちた
「なんだ? どういうことだ? ガンドレ、お前は一体…」
二人に振り下ろされたシュロンの手を掴んだ
「なんなんだ! お前の、その姿は!」
俺の体は真っ白になり、うっすらと光っている
力がどんどんあふれてきた
「分からねぇよ俺にも、だが、これでお前をぶっ倒せる」
俺は拳を握りしめてシュロンの顔面を殴りぬいた
そこから聖属性の力がシュロンに流れ込んでいくのがわかる
「グッ、馬鹿な、聖属性の力だと? どういうことだ、邪竜のお前が…」
息も絶え絶えになっているシュロン
「知らねぇよ。 だがもう負ける気はしねぇ、まだやるか?」
「…。 いや、帰る。 ハハ、強くなったな、ガンドレ。 お前さえよければいつでも魔国へ帰ってこい。 今の魔王様もなかなか使える価値はあるぞ。 なんというかな、守ってやりたいって思うんだ。 あの方ならお前のこともすんなり受け入れてくれると思うぞ。 なんせ精霊族とも友好関係を結ぼうとしているからな」
「なんだよ、お前も守りたいやつがいるじゃねぇか」
俺はシュロンが空の彼方へと飛び去るのを見つめ、ため息をついた
彼女は俺の親友だったし、良きライバルだったからな
俺のことを目を輝かせてみている精霊二人を連れて精霊の国へと帰ることにした
数日後、精霊の国へと帰り着いた俺は女王様に驚かれた
「どこで、加護を得たのです? それも神の加護を…」
女王様が言うには、俺はどうやら神の加護を得て聖竜になったらしい
だから体が白いのかとあほなことを考えながら旅の疲れを癒す
聖竜か、まだ実感はわかねぇけど、俺も少しはこの国にふさわしくなれたかな




