鬼の帰還
とある世界、とある場所、そこに二人の姿があった
一人は角を生やした桜色の髪を持つ美しい女性、もう一人は全身が黒い奇妙な少女
「もう少しで着くわよ」
「はい、しかし私があなたの世界へ行って大丈夫なのでしょうか?」
「心配いらないわ。あの世界には私と同じくらいの力を持った戦士がいるもの」
「あ、あなたと同じほどの力…。それは興味深いですね」
「名前はカイト・タキガミ。私と共に強くなった始まりの人間族ね。いえ、人間族というのは少し間違いかもしれないわ」
「というと?」
「あの人は黄金人という人間の本来の姿、力あるころの人間」
「黄金人、とは?」
「そうね、様々な種族がいるのは分かるわね?」
「はい、私が何度か転生した世界のいくつかには多種多様な種族がいました」
「その中でも特に珍しいのが、かつて地球という世界で生まれた始まりの人間族である黄金人、彼らは初めに赤人、青人、黄人、黒人、白人を作り出してそれが人間の色の違いを生み出した。その中でも黄人はリーダーの役割を果たし、黄金人の指示の元地球という世界をより良くしていったわ。しかしそんな地球にとんでもない脅威が迫ったの」
「もしかしてそれって」
「ええ、白の脅威。全てを憎んでいる白は地球を大洪水に巻き込んだの。命からがら逃げだしたカイトは私の世界へと流れ着いた。彼ら黄金人を作り出した天照という神が彼を送ったの」
「それが、地球の歴史?」
「ええ、その後神の一人が様々な場所で生き残った人間達に知恵と術を与えたの」
「ノアの方舟…」
「え? なに?」
「いえ、地球にノアの方舟という話がありまして、神の怒りに触れた人間を洗い流すために大洪水が起こり、ノアという信心深かった男性は家族と全ての動物のつがいを連れて作った方舟に乗せたんです。そこからまた地球の人間や動物は反映したのだとか」
「それは少し違うわね。神の怒りに人間は触れてはいなかった。神は人々を助けようと尽力したけれど、たった一人の白の力で地球は壊れた」
少女はうつむく
かつて地球に生まれた頃は様々な宗教、神々で世界は満たされていた
現在地球の人間たちは宗教対立を起こして争っていたが、その実地球を見守る神々は一切対立せず、むしろ地球を守ろうと必死だった
地球の人間たちは今なお間違った道を突き進んでいる
「着いたわ。ここが私の世界。可愛い私の子孫たちが暮らす世界よ」
「ではすぐに」
「いいえまだよ。天照に任せていた件がまだ終わっていないみたい」
「天照に?」
「ええ、私の子孫ともう一人、この世界に生まれた子をそだててもらっているわ。きっとあなたの力になる子よ」
「そんなに強いのですか?」
「ええ、子孫の方は私と同じく特別な鬼神となったわ。それに精霊の子は恐らく、新しい世代」
「新しい世代というのは?」
「白に対抗するために世界が生み出した特別な子ら、大きすぎる力を持ってしまった子達よ」
「それがこの世界に」
「ここだけじゃないわ。様々な世界にいるの。他の子は神々が見守っているわ。だから私達はまずこの世界の子達を鍛えあげる」
「分かりました。それでは私はまず何をすれば?」
「そうね、これからくる子達の相手をしてちょうだい」
「敵ですか!?」
「いいえ、あなたの大切な。ほらきたわ」
「え?」
黒い少女の真上に穴が開き、三人の少女が飛び出してきた
「リィリア!」
「あ、あなた達、なぜここに!? 安全なところへ行くよう言ったはず」
「追って来たの。やっぱりあなただけに任せるなんてだめ」
「でも危険で!」
「私達はあなたと一緒に戦いたい! たとえ命の危険があろうともです!」
「ライラ…」
「ホラホラ再開の挨拶はそれくらいにして、それじゃあ私はカイトの所へ行くから、あなた達はお話でもしていなさいな」
「もしかして、知っていたのですか?」
「なにを、かしら?」
「彼女たちが私の所に来ることをです」
「力がこっちに来てたもの。それにあの時のこの子達、ついて来る気満々だったわよ」
「ばれてたんですね」
黒い少女とこちらに来た真っ黒な鎧を着た三人は友人のようだ
その三人の鎧がグニャリと動いて人型に変わった
そして黒い少女と、鎧から人型に変化した同じく黒い少女たちは熱い抱擁を交わす
顔が似ていることから黒い少女たちは姉妹であるらしい
「それじゃあ行くから」
「はい、サクラ、またあとで」
「ええ、次に会うときはカイトも連れて来るからね」
サクラと呼ばれた桜色の髪を持つ鬼神は霞のようにその場から消えた




