3 鬼人族の国11
楽しかった海水浴も終わり、浜辺近くの宿を後にした
フクちゃんが嬉しそうに僕の周りを飛んでいる
少し離れていただけなんだけど寂しかったみたいだ
肩に止まると僕の頬に顔をスリスリと寄せてきた
「次はどこへ行こう? そういえば、妖怪族が住む集落がいくつかあるって言ってたね」
「はい、この島には多種多様な妖怪族が世界中から集まっているようです。 姫の横にいたスネコスリ族を始め、鵺族、精霊に近い雪女、河童族にイズナ族、神の声を聴くことのできる狛犬族や白狐族などもいるようですね」
「神の声を聴ける? すごいねそれ」
「はい、我々精霊族にも声を聴ける者はいます。 例えば女王様や我々四大精霊、雷の精霊ライラも聞けたはずです。 それにもちろんリディエラ様も聴けますよ」
「え? 僕も?」
「神殿で聞いていたではないですか。 通常神が声をかけてもかなり努力したうえで巫女や神官の才能のある者しか聞けません。」
「そうなんだ」
神様の声を聴けるというのは種族補正か才能によるものらしい
通常巫女や神官と言っても才能がない人が多くて、あったとしても厳しい修行を経てようやく聞けるようになるらしい
それでも巫女や神官にあこがれる人は多い
なぜなら神力を借りることができるようになるからだ
この力は絶大で、人を癒したり、魔物を結界で退けたりと、非常に人々の助けになるのだ
だから、神様と交信できる人たちはみんな崇められるらしい
でも、誰もそれにおごり高ぶったりしない
厳しい修行で身についた精神力と神様に対する尊敬の念があるから絶対に悪用したりしないんだってテュネが言ってた
「よし、じゃぁその妖怪族の集落に行ってみよう!」
四大精霊を引き連れて集落に行くことにした
集落と言っても実は首都であるトウゲンより広いらしい
街と言っていいくらいには広く、名前はホクト
妖怪族が手を取り合って平和に暮らす集落だ
一度トウゲンに戻り、そこからは馬車が出ているのでその馬車に乗り込むことにした
乗合馬車なので中は広く、僕たち以外にも数人乗っている
鬼人族の老夫婦(見た目は若く、20代半ばくらい)と妖怪タンコロリン族で男の若者だ
鬼人族の老夫婦はホクトで働いている息子の元に行くそうだ
一緒に暮らせる当てがついたので呼び寄せたらしい
タンコロリン族の若者は一人旅に行った帰りなんだという
道中世間話に花を咲かせながら数時間後にはホクトへとついた
一言で言うなら、華やかだ
色とりどりの花が花壇に植わり、様々な形の家や建物が建てられていて、人々は活気に満ち溢れていた
獣人に似ている種族が多いが、彼らはれっきとした妖怪族で、獣人との違いは妖術を使えるという点だ
妖術は魔力ではなく霊気を使って発動する魔法のようなもので、その力は種族によって違うらしい
例えば雷獣族なら雷を纏ったり落としたりでき、雪女なら氷雪を操る
誰でも扱える魔法と違ってその種族でしか扱えないが、魔法より強力なものが多い
街に入るといきなり何人かの妖怪族がなぜかこちらを観察するかのように見つめているのが分かった
不思議に思っているとその中の何人かがこちらに来て跪いた
「え? ちょ、なに?」
「精霊様! 妖怪族の集落ホクトへようこそ!」
気づかれた!?
と言っても不思議なことじゃないか
妖怪族と精霊族は近しい存在で、中には雪女やコロポックルと言った精霊に近い妖怪もいる
とりあえず人目もあるので彼らと共に人気の少ない建物までやって来た
興奮している彼らをなだめてお忍び旅行中なのを説明し、何とか収まった
彼らは普段目にすることのない僕たち精霊を見れて思わず興奮してしまったらしい
精霊の正体を見破れる彼らは精霊族に近い種族山彦と雨女、それに火車だ
将来精霊族の国に行くのが夢らしい
三人に精霊族の国の話をしてあげるとすごく喜んでいた
彼らと別れると再び街の中を見て回る
ところどころから視線が降り注ぐのは恐らくばれているからだろう
まぁさっきみたいに飛びついてこないならいいか




