猿人族の国13
リコリスさんは肩に刀を乗っけながら踏み込んで一瞬にしてハクラちゃんと間合いを詰めた
でもハクラちゃんは刀を抜いてこれをあっさりと対処してしまった
「意識外からの攻撃でしたが、これを防ぎますか。その型は本当にあなたに馴染んでいるようですね」
「はい、これだけは自分の物に何としてもしたくて頑張りました」
「素晴らしいです。ではもう少し速度を上げてみましょうか!」
パンッという空気の壁を破る音がして、リコリスさんがハクラちゃんの後ろに現れた
音速を超えるほどの移動速度を出せるリコリスさんも凄いけど、それに反応して振り向きざまにその攻撃を受けるハクラちゃんも凄い
お互い飛びのくとまた構えた
互いの制空圏が静かに触れ、そして打ち合う
ハクラちゃんは徹底した後の構えで、相手の攻撃を受けつつカウンターを繰り出していくスタイルだ
対するリコリスさんは同じく居合のようだけど、踏み込むことで攻撃性を増している
「いい動きです。その調子ですよ。もう少しだけ速度をあげます」
「はい!」
刀の打ち合う音が迷宮内に響く
その打ち合うときに出る衝撃波が辺りを揺らし、僕らは思わず目を閉じた
「んがぁ、凄い凄い凄いネ! 姫こんなに強かたのかヨ!」
「本来ハクラちゃんは望んで戦うような子じゃないけど、本気を出せば僕なんか及ばないくらいに強いからね」
「そなの精霊様? でも精霊様ももっと力秘めてるヨ。私には分かるネ」
「僕なんてまだまだだよ。もっと精進しないと」
「その気持ちあるなら強くなれるヨ! 頑張るネ!」
「うん」
相変わらず打ち合いは続いてるし、それはどんどん速く激しくなっていって辺りの岩が衝撃波だけで崩れてる
僕はその衝撃波が当たらないよう魔法で結界を張った
「まだまだ速度をあげますよ! ついてこれますか?」
「はい! 全部見えてますから!」
もう僕達じゃ目で追えない
音速のさらに先、光速に近づいてる気がする
「一刀、喰雅祁!」
一瞬姿が見えてリコリスさんが刀を振り下ろしたのが見えた
その直後に僕らが立ってた広場が砕ける
こんなのを受けたハクラちゃんは大丈夫なんだろうか?
割れた地面に飲み込まれそうになるルカナさんを拾い上げて背負い、宙に浮きながらハクラちゃんを探した
「精霊様、あそこヨ!」
ルカナさんが指さした方向を見るとハクラちゃんがなんとあの攻撃を受け切ってしっかりと立っていた
まわりは割れてマグマが吹き出ている
そのためかハクラちゃんはかなり辛そうだ
「ハクラちゃん! アイスフィールド!」
僕はハクラちゃんの周りを氷の魔法で覆った
でもその氷はマグマですぐに溶けちゃう
「ここではあなたの本領は発揮できないでしょうが、戦いとは本来不利な状況でも対応できるようにならなければいけません。続けますよ」
「は、はい、私も、超えなきゃいけないんです。お願いします!」
「いい返事です。では光速を超えましょうか!」
あ、もう見えない
二人が打ち合うときに一瞬見えた後遅れて音が響いてくる
さらに衝撃波は激しくなってもうこの辺りはめちゃくちゃだよ
あとマグマがそれに呼応するかのように吹きあがり続けてる
一瞬だけ姿が見える時のハクラちゃんの表情は本当に辛そうで、ハクラちゃんの汗、もとい溶けた体が魔力のしずくとなって周囲にまき散らされてる
このまま続ければハクラちゃんはいずれ雪のように溶けて消えちゃう
早々に決着がつかないと危ない
「なんて高密度な魔力と神力ヨ。姫、大丈夫カ精霊様?」
「大丈夫、だと思うよ。今はハクラちゃんを信じよう」
リコリスさんによる攻撃は恐らくだけど四方八方から来ている
それにハクラちゃんの周りは人間も一瞬で燃え上がるほどの超高温で、それがハクラちゃんの体力をガンガンに奪っていく
でもハクラちゃんはそこからあまり動かずに、必死に攻撃に耐えて隙を伺っているみたいだ
そしてついにその戦いに終止符が打たれた
唐突に大きくマグマが吹きあがってハクラちゃんが包まれた
「ああ! ハクラちゃんが!」
「姫!」
僕らが叫び声をあげる中、そのマグマ柱が一瞬で凍り付いて砕かれた
あれだけ熱くなっていたこの場が一気に冷え切って氷点下まで気温が落ち込む
「さささ寒いヨ」
「この神力。なんて力強いんだろう」
砕けたマグマの中心から幼女になったハクラちゃんが現れて居合の構えをしているのが見えた
そこにリコリスさんが全身全霊の攻撃を落とした
「大殺界、朱浄猛覇」
落ちていく真っ赤に染まった刀をハクラちゃんは片手で防ぎ、回転してその刀を奪うと自らの刀散雪を変質させ二刀に
そのまま回転をさらに加えて刀を奪われたリコリスさんを思いっきり斬りつけた
「我流鬼仙剣術舞技、白銀輪月」
ハクラちゃんは静かにそう告げると、リコリスさんに無数の切り傷ができて二人ともが倒れた
「ハクラちゃん!」
すぐに駆け寄って無事を確認する
よかった、魔力が欠乏してるけどこれなら寝てれば治るか
問題はリコリスさんの方かな
彼女の切傷は凍り付いてて、少し動かせば体がバラバラになるだろう
僕は彼女の体を少しずつ温めて氷を溶かし、そこから回復魔法をかけた
「く、ふぅ、あ、もう大丈夫です。ありがとうございました」
リコリスさんはあっという間に回復し、立ち上がると気絶しているハクラちゃんを見た
「土壇場で力を覚醒させたようですね。でもまだまだ足りません。この子の潜在能力はこんなものではありません。精霊の子、この子に伝えておいてください。今の力をいつでも引き出せるよう精進するようにと。それから、糸口はつかめたはずです。あとはこの子次第で更なる真価を発揮することでしょう」
「分かりました」
「では先に進みなさい。エコ様がお待ちです」
「はい、その、ありがとうございました」
「ふふ、またいつか、お会いしましょう」
気絶してるハクラちゃんはルカナさんが背負い、僕らは開いた扉をくぐった




