獣人族の国再び14
「クンカクンカ。うんうん、私は犬神ワコだわん。あ、呪ったりする犬神とか、この世界の犬神とは大きく違うわん。私はちゃんと神様なんだわん」
「あ、はい、それは気配からもわかります」
ワコ様は首をかしげている
なんてかわいいんだろう!
無意識のうちに手が伸びていて、僕はワコ様を思いっきり抱きしめていた
「ちょ、ちょっとやめるわん! 苦しいわん!」
「精霊様! その子神様! 神様ですからあ!」
「あ、思わず…」
「全く、いきなりは勘弁してほしいわん。私にだって心の準備というものがあるんですわん…。はいどうぞ、いいわんよ」
今度は自分から抱っこしての意思表示を示してくださったので、ゆっくりと丁寧に抱え上げた
なんだろう、犬と違って人に近い体なのになんだかフカフカとした感触がある
それに、いい匂いだ
「あ、このまま話してもいいかわん?」
「あ、はい、すいませんです」
「いいわんいいわん。それで、ここの試練はどうだったわん? 一歩間違えば死ぬ恐怖、それを乗り越えたとき、大きく成長できるんだわん。でも、恐怖は常に共にあるべきなんだわん」
「それは、どういうことですか? 怖がらない方が戦いやすいんじゃ?」
「それはまったく違うんだわん。恐怖というものは生物に備わったレーダーなんだわん。それがなきゃ、命が危ないのに逃げようともしないお馬鹿さんになっちゃうんだわん。だから、恐怖は絶対に必要なんだわん」
「なるほど」
「でも必要以上に怖がるのも違うわん。それだとただの臆病。だから、ね、恐怖は乗り越えるものであって、感じなくなっちゃいけないのですわん」
ワコ様の力説に感心していると、ワコ様は今度はハクラちゃんのお尻の匂いを嗅ぎ始めた
「う、ちゃんと洗ってるのかわん? チーズみたいな匂いがするわん」
「ちゃんと洗ってますよ! ていうか精神生命体だから匂い関係ないですよね!?」
「冗談だわん。えっと、君がハクラちゃんで間違いないですわん?」
「はい、そうですが…?」
「うんうん、やっぱり君だ。君が、この子を支えるもう一人の選ばれた者」
「選ばれた?」
「そうだわん。いいですかわん? まず、なぜ私達が君たちを鍛えているのかを教えるわん」
ワコ様はスーッと深く息を吸って呼吸を整える
僕達はその様子を固唾を飲んで見守った
「世界、というのはいくつもあるのは、知っているかわん?」
「はい」
「知ってます」
「その様々な世界で、かつて、とは言ってもほんの数十年前のことだわん。大異変が起きたんだわん」
「大異変、ですか?」
「そうだわん。全ての世界の種となる最初の世界を作り出した原初と呼ばれる存在。その兄妹である異放者と呼ばれる者が、全ての世界を壊して新しく創り変えようとしたんだわん。それが私達神々の間でも記憶に残る“異放事件”だわん」
「たった数十年前に、そんなことが?」
「私、全然知りませんでした」
「知らなくて当然だわん。この世界は影響を受ける前になんとか食い止めれたんだからわん。その時、大発生したのが黒い魔物、この世界でも見たことがあるんじゃない変わん?」
「た、確かに…。それに、神話級の魔物が突然増えて」
「そうだわん。この世界にも何者かの手引きによってそう言ったものが大量流入しているのだわん。そして、別世界でもその異変は確認されているのですわん。そっちの世界はその世界にいる者で何とか食い止めれてはいるんだけど、人手が圧倒的に足りないのが現状だわん。そこで、私達十二獣神含め、たくさんの神がこの問題を解決に導けそうな人材を探しているというわけだわん」
「つまりそれって…」
「君たちにはいずれ今回の事件の根源となっている者と戦ってもらいたいわん。もちろん、無理にとは言わないわん。当然危険だし、命だって危ないですわん」
「そんなの、当然…。」
そこで僕は頭に家族のことがよぎった
テュネ、エンシュ、アスラム、フーレン、母さんや精霊、妖精たち
皆僕を愛してくれていて、心配してくれている
そんな皆に心配をかけるようなことをしていいのかな?
それにもし、死んでしまったら?
母さんはどう思うだろう
「答えはまだ出さなくていいわん。この修行を終えたとき、気持ちがあれば、一緒に戦ってほしいですわん」
「・・・はい。」
「私も、少し考えさせてください」
「うん、そのつもりだから、ゆっくり考えて欲しいわん」
ハクラちゃんもやっぱり、家族のことが浮かんだんだと思う
いくら強いとはいえ、世界を揺るがすような事件を起こしている者と戦わないといけないって急に言われても、整理つかないだろうし
「ともかく、私の試練はこれで終わりだわん。次は猿人族の国に行くといいわん。エコって言う猿神が待ってるはずだわん」
答えは一旦保留にしてもらって、次の目的地が指示された
今は考えないようにしよう
強くなって、それから考えよう




