三獣鬼と三妖鬼17
ああ、これだ、私が手にいれたかったのはこの力だ
これならハクラちゃんとクロハ様の役に立てる
これなら、皆を守れる
私が、この国を、この世界を守るんだ
金色の髪に、黒を帯びた金色に淡く光る着物
黒い雷を纏ったその少女は黒く捻じれた一本角に電気がほとばしる
彼女は狂った
ただ自分の弱さを知っていただけの少女は全てを守るためではなく、壊すために走っていた
キキは最近何かに悩んでいたようだったっす
気になって聞いてみたけどあたしには話してくれなかったんす
親友なのに、話してくれなかった。あたしは、信頼されてなかったんすかね?
いや、あの子を昔から見てたからわかるっす。あの子は悩みをいつも抱え込む性格だったっす
それなのに、こんなにも癖の強いみんなをうまくまとめて、あの子がいたからあたしらはここまでちゃんと仲違いもせずにやってこれたっす
時には喧嘩を仲裁して、時には話し合いの席を設けて
あの子なしでは今のあたしらはなかったって言ってよかったっす
そう言えばあたしらを三人一班にうまく振り分けてくれたのもキキだったっすね
とにかく、あの子が苦しんでいるなら、それを分かち合うっす
今走ってる面々はハクラちゃんといクロハ様含めて全員そう思ってるはずっす
「アカネ、キキの追跡はできてる?」
「はいっす! ばっちり捕捉してるっすよ!」
「アカネ、鼻、よく効く。心配ない」
「そうねミドリコ、私も信頼してるわ」
クロハ様もかなり心配してくれてるみたいっす
あたしらは全員が幼馴染の鬼仙っす
クロハ様は昔っからクールだったっすけど、ハクラちゃんが怪我しないようにいつもあたしらを見てたっす
そんなうちに一緒に遊ぶようになって…
うう、昔のことばっか思い出すっす
胸騒ぎは未だ止まらなくて、嫌な予感ばかりがするから胸が苦しいっす
きっとキキを連れ戻しますわ
あの子がいないと、誰がわたくしたちを導いてくれるんですの?
それに、キキがいないとハクラちゃんが泣きそうな顔をしますの
ハクラちゃんにあんな顔させたくありませんの
全く、世話かけさせますの!
「アカネ、どれくらい迫れましたの?」
「もう少しっす! あ、ほら、後ろ姿が見えてきたっすよ!」
「もう! 連れて帰ったらお説教ですの!」
「それは賛成っす。みんなでお説教するっす」
もう少し、もう少し!
アカネが追ってくれたおかげであとちょっとで追いつく!
キキは私の大事な大事な親友だもの
部下としてじゃなくて、親友として助けたい
「行くよお姉ちゃん!」
「ええハクラ、各員散開! キキを取り囲みなさい!」
「「「ハッ!」」」
お姉ちゃんの号令で目の前で走るキキを取り囲んだ
ちょうど開けた場所に追い込めたおかげで自由に戦えそう
まるで憎しみの化身のようなキキは真っ黒に染まっていて、髪と着物のみが金色に輝いていた
黒い雷がほとばしって私達の横をすり抜けていく
お姉ちゃんはその雷による直撃を受けたけど、まるでものともしていない。逆にその力を吸収してお返しとばかりにキキに放った
「グルラララァアアア!」
猛獣のような声でキキはその雷を素手で受け止める
そしてお姉ちゃんのほうを向くとニタリと笑って歯をむき出し、鋭い爪でひっかき始めた
お姉ちゃんはそれを可憐に避けるけど、キキは尻尾でお姉ちゃんを掴んでこっちに投げ飛ばした
私は飛んできたお姉ちゃんをキャッチすると続いて走り込んできたキキの蹴りを足で受ける
ゴギャァという固いものと固いものがぶつかり合う音が辺りに響いた
イタタタ、下手に受けるもんじゃないわね
でもそれは相手も同じで、足を痛めて少し動きが鈍った
「今っす! 気仙力解放! 紅焔!」
とにかく今はダメージを与えて動けなくするっすよ!
あたしの炎はキキに絡みついてその肌を焼いて行くっす
火傷痕が残るかもしれないけど、あとでかまいたち族の薬を分けてもらうっす
「グギャ! ゲギャガガ!」
く、アカネの炎で周囲が高温になってるし!
でもこれならキキも
案の定キキは動けなくなってるし
「仙魔力大解放! 寝ゑ武琉!」
超巨大な力の塊でキキを押しつぶす!
今のキキなら死ぬことはないっしょ!
「ギャプ!」
マリハが上手く力塊でキキをさらに拘束してくれたわね
さて、私もここからは本気
私だってキキは大切な友達だから
思えば、周囲から天才だの神童だの言われてきた私に一番最初に話しかけて輪に入れてくれたのもこの子だった
だから、助ける!
「チャダノ! お願い!」
「分かってる。仙力解放、土土土魂」
私は仙力で土の手を作り出してキキを包み込んだ
やけどでところどころがただれたキキはそれでもまだそこから抜け出そうともがいてる
「ハクラちゃん!」
「うん! 奥義極! 白憐!」
さすが~ハクラちゃん
キキを凍らせて~、完全に動きを封じちゃった~
「これでよし、祠へ!」
お姉ちゃんは凍ったキキを抱えると祠まで走った
どうするのか分からないけど、皆全てをお姉ちゃんに委ねた
「さて、皆力を貸してくれる? 私一人じゃ多分うまくいかない」
「そんなの答えは決まってますよクロハ様」
「そうそう、クロハっちは固いんだって!」
みんなうなづくと、お姉ちゃんの肩に手を置いて仙力を注ぎ込む
「う、く、思った以上にあなた達も成長しているのね。これなら」
お姉ちゃんが目を閉じるとほんのりあったかくなった
キキの氷が解け、気絶したキキがあらわになる
「キキ、あなたはいつもハクラを守り、私達を陰から支えてくれた。私達にはあなたが必要なの。だから、戻って来なさい!」
何だろう、声がする。懐かしいような温かい声
ああそうだ、これはクロハちゃんの声…。ハクラちゃんが怪我したりしたときに出すあの泣きそうな声
あったかい
その声に交じってハクラちゃんやアカネ、ソウカ、それにシエノ、モモネさん、ミドリコ…。チャダノにカイラにマリハ…
みんなの声がする
戻りたい、その場所に
私は真っ暗闇の中を声のする方へ向かって、光を掴んだ
「クロハ、ちゃん?」
私の顔を覗き込んで涙を浮かべるクロハちゃんとハクラちゃん
そしてその周りにいる三仙鬼たち
私は一体何をしてたんだろう? 黒いフードの女に話しかけられてからの記憶がない
「大丈夫なの?」
「は、はい、なんだか記憶がすっぽりと…。はっ! あの女は!?」
「女? 黒いフードの女のこと?」
「はい、その女に話しかけられて、それで、目の前が真っ暗になって」
「大丈夫、大丈夫だよキキ、ゆっくり休んで」
「ハクラ、ちゃん、私、うぐぅ!」
「ど、どうしたのキキ!」
キキの体から黒い靄のような物が吹き出る
「危ないハクラちゃん!」
その黒い靄から長い針のような物が飛び出して、私をかばったキキの心臓辺りを貫いた
「かふっ」
ドバっと口から血を吐き出すキキ
私の白い着物を真っ赤に染め上げたキキは私を見てホッとした顔をしながら倒れ込んだ




