邪竜さん聖竜になる2
俺と一緒に行く精霊は雪の精霊セツと刀の精霊ムラサメだ
セツはアウロラの涙の場所を知っていて、ムラサメは攻撃に特化した精霊らしい
案内はセツに任せて俺とムラサメで道中の危険な魔物を排除するんだ
セツもムラサメも無口で少し気まずいが、この二人は単に恥ずかしがりやなだけのようだな
最近では精霊たちのこともよくわかるようになってきた
だからこそこいつらのことも嫌いじゃないぞ。 可愛いとさえ思える
「こっち、この先にずっと真っ直ぐ進む。 そしたらちょっと右」
セツが途切れ途切れに必死に話しかけてくる
勇気を振り絞っているのだろう
「おう、そうか、しっかり案内頼むぜ」
恥ずかしそうにコクリとうなずくセツ、小さな少女、俺の守ってあげたい欲を刺激してくる
ムラサメの方を見ると、周囲を警戒しているようだ
ここからは少し危険地帯になるからな、警戒するに越したことはない
魔物もBランク以上となかなかに厄介なのだ
「どうだムラサメ、何かいるか?」
「大丈夫、問題、ない」
こちらもまた途切れ途切れだが、セツと違ってクールな感じだ
だけど俺は知っている
クールを装っているだけで、この娘も非常に恥ずかしがりやなことをな
口元を黒い布で覆い、その表情はわかりにくいがその布から少しだけ覗く頬がうっすらと赤く染まっている
ホントに可愛いやつらだぜ
しばらく道を歩いているとさっそくお出ましだ
ブロッディニードルと呼ばれる植物型の魔物だ
こいつは鋭くとがった棘型の触手で獲物を串刺しにしてその血を吸い取る危険なBランク指定の魔物
まぁ、俺にかかればすぐに灰にできるけどな
俺はブレスをはくために喉の奥に炎を溜めた
「二人とも、下がってな!」
そして一気に吐き出した
ブレスはブロッディニードルに直撃し、灰にした
「この程度なら楽勝だな」
「油断、だめ、ここ、Sランクも出る」
「お、おう、そうだな」
確かにその通りだ
油断ってのは時に死に直結する
ひいてはこいつらを危険にさらしちまうかもしれないんだ
気を引き締めなきゃなんねぇな
「また来た」
ムラサメの警戒網に魔物が引っかかった
次に飛び出したのはアシッドスパイダーという口から酸性の液を吐き、その糸も酸の液を纏っているという厄介なBランクの魔物だ
だが炎にめっぽう弱い、こいつも俺のブレスで一撃だ
炎を吐こうとした俺をムラサメが制す
「ここは、あたしが、やる」
腰に下げた自身を持つ
ムラサメは刀の精霊、本体は刀で人間の姿をしている方は化身だ
刀が折れればそれはこの娘の死を意味する
だからできるだけ戦ってほしくない
目の前で仲間が死ぬってのは嫌だからな。 昔も、今も…
「大丈夫、これくらい、昼飯前」
なんか間違ってる気がするが自信はあるみたいだ
危なくなったらすぐに助けれるよう準備だけはしておこう
刀を居合の形に構えると、その制空権が見える
制空権に、とびかかって来た蜘蛛やろうの体が入る
決着は一瞬だった
制空権に入った瞬間に、まるでミキサーのように粉々に、細切れにされた蜘蛛
どうやら心配は杞憂に終わったみたいだ
「どう? あたしも、結構、やる」
後ろでセツがパチパチと手を叩いている
俺は誉めるようにムラサメの頭をポンポンと手で撫でた
顔を真っ赤にしている。 可愛いなぁおい
はたから見れば邪悪な竜が少女を襲っているように見えるだろうな
まぁ、邪竜なんだからそう見えても仕方ないけどな
こうして出てくる魔物を難なく倒し、ゆっくりとだが着実に進んでいた
そんな俺たちの前に、絶望は現れた…。




