9桃源郷7
第三階層には中央に巨大な黒い毛玉があってその他には何もない。道もなくてその黒い毛玉の奥に階段が見えた
何もないなんてことはないはずだけどとりあえず奥の階段へ行ってみることにしたんだけど、階段の奥に扉が見えた
扉に手をかけると鍵がかかっているみたいで開かない
「精霊様、ちょっとみて下さい」
「どうしたのマコさん」
マコさんが見ているのは黒い毛玉、その毛玉はまるで呼吸をしているかのように動いてた
これはもしかして
とりあえず毛玉に近づいて触ってみるとフカフカモフモフで、気持ち良すぎてモフモフする手が止まらない
マコさんも僕もその感触をずっと楽しんでいたら急にその毛玉がごろんと転がってその正体があらわになった
「んぬわぁ! おっきい猫!」
「猫、ですね、それも相当可愛いですよ!」
その猫ちゃんはあまりにも大きいけどニコニコと笑ってるような非常に可愛い顔をしていた
毛の色は黒と白のハチワレだね
「んにゃぁ、おめぇら俺に用か? 用がねえんなら寝るから邪魔しねえでくれ」
「あの、君はここを守ってるんじゃないの?」
「ん? ああ、そういやニャコ様にそう言われたなぁ、めんどくさいけど、ここを通りたくば」
「君を倒せってことだね!」
「んにゃぁ! 違う違う、俺は戦えん。痛いのは嫌だ。だからそうだな、俺をこの場から動かせ。攻撃や痛いもんじゃなければどんな手を使っても構わん。そしたら次の階層へ行くためのカギをやろう」
ふむふむ、この巨体を動かすのは至難の業だとは思うけど
「よし、じゃあやってみるよ」
「おう、精々頑張れ。まあ俺を動かすには、それなり、の、っておいおい! なんだこりゃあ」
ハチワレ君の巨体を僕はゆっくりと持ち上げていく
「んにゃああああ! どんなバカ力してんだ! おっと、あぶ、危ねえ! 巨猫流仙術奥義! 重牢!」
ハチワレ君がその奥義を出した途端一気に重たくなった
「うぐぅ、お、重っ」
「ニュハハハ、俺の術は俺の周囲3メートルの重力を操る術だ! どうだ? 重くて持ってられないだろう」
「ま、まだまだぁ! 精霊魔法、グラビリアルム!」
そっちが重力を操るなら、こっちも!
「ぐにゃおおおお! もっとだぁああ!」
「こっちだって負けないよ!」
僕とハチワレ君による重力のぶつかり合いで空間にひびが入り始める
「精霊様! これ以上は迷宮に影響が!」
「それは駄目だね! 解除!」
もう少しと言うところで空間に亀裂が入ったので僕は慌てて重力を操る魔法を解除した
「ニュフフ、俺の勝ちだにゃ! ニュハハハハハ!」
「ところがそうもいかないんだ」
油断したねハチワレ君、重力を操るのをやめた二人。あとは僕の単純な力だけでこうして
「よいしょっと」
「んにゃあああ! しまったにゃ! 俺としたことが油断してしまったぁあ! ニャコ様申し訳ありません!」
「ふふふー、僕の勝ちだね」
ハチワレ君をそっと地面に置いた僕は彼から鍵を受け取る
大きな肉球に小さな鍵が一個
明らかにあの階段にあった扉の鍵だね
「ほれ、先に進め。俺を持ち上げれるやつがこの世にいるなんて、世界は広いんだにゃ。俺ももっと研鑽するにゃ」
「うん、お互い頑張ろうね」
ハチワレ君はやる気になったのか、すぐに元居た世界へと戻って行った
彼は巨猫族という種族らしくて、修行を積めば人型になれる種族なんだとか
でも彼は怠けすぎてて人型になれない
なにせ彼の重力を操る力は強くて今まで負けたことが無かったんだから
でも今僕に負けたことでがぜんやる気になってくれたから、僕も役立てて嬉しいね
もしかしてニャコ様はこれを見越して彼をここに置いたのかな?
今度は強くなった彼にまた会いたいね。名前を聞くのを忘れたけど…
第四階層に降りていくと今度は赤毛、青毛、茶毛、白毛、黒毛の五匹の猫ちゃんが座っていた
その五匹は僕らの前に来ると紙を一枚差し出してその場にお行儀よく座る
「えっとなになに、“ここでの試練は鬼ごっこ、部屋の中央にある砂時計が落ち切るまでに五匹全員を捕まえることができれば次の階層へ進めます”だって」
「鬼ごっこ、ですか、童遊びですね。それなら私もやったことがあります」
「あ、猫ちゃんたちが一斉に逃げ始めたよ。スタートってことかな?」
「すぐに捕まえて見せますよ!」
ところが僕らはまったくと言っていいほどこの子たちを捕まえられずにいた
この猫ちゃんたちはどうやら妖術を使うようで、猫又に進化する前と言ったところかな
その妖術が五匹とも人を惑わす類のもので、例えば捕まえたと思ったら分身だったり、そこにいると思って掴んだらただの石ころだったり、おとなしくこっちに来たと思ったら突然ものすごく怖い化け物の顔になったりと苦戦も苦戦を強いられて、僕らはくたくたになった
でもなんとか一匹を捕まえることができて、そこから連携の崩れたこの子たちはあれよあれよという間に次々掴まっていった
見事に全員を捕まえることができて、猫ちゃんたちは僕らの頭や肩に乗っかってくつろぎ始める
可愛いのでそのままにして次の階層に進もうとすると、階段まできたらみんなぴょんと飛んで元の場所にお行儀よく座った
少し残念だけど仕方ないね
猫ちゃんたちに手を振りつつ僕らは五階層へ降りていった




