3 鬼人族の国7
神力を浴びてなんだか体がすごく軽く、奥底から力が溢れてくるみたいだ
山をスイスイと下りて再び街に戻ると、城に戻ってきていた姫たちに会いに行ってみることにした
精霊の姿では会ったけど人間の姿で会うのは初めてだ
「鬼人と仙人のハーフですか、鬼の力に仙力が加わるとは恐ろしいですね」
テュネが言うには、もともと戦闘力の高い鬼人の力に仙人の力が加わってその強さは計り知れないみたい
どうやら今の姫たちはまだ覚醒していない卵の状態なのでそこまで強くないのだとか
城に入ると、広場で人だかりができていた
当然その中心にいるのは姫二人、そして幹部の三人だった
ものすごい勢いでものすごいもうなんだかわけがわからないほどもみくちゃになりながら姫たちの姿を見ようと人込みをかき分けた
そこにはどう見てもアイドルのような服を着た五人が立っていた
あぁ、そうなんだ。 まさにアイドルなんだ
彼女たちはまさしくアイドルなんだ
人々を笑顔にさせるその圧倒的パフォーマンス、美しさ
歌を歌っている。 その歌はまるで和歌のように整っており、綺麗な旋律に乗せて五人から奏でられていた
幹部三人が和楽器で音を出し、それに乗せて姫二人が歌う
観客からは「キャークロハ様こっち向いてー!」とか、「ハクラ様ーー!! 今日もお美しぃいい!!」とか、「アカネ様かっこいい!!」などなど歓声が飛び交っていた
この歓声の中でも姫たちの歌声が掻き消えないのは拡声の魔法がかかっているかららしい
僕らもその歌声に魅了されてずっと聞き入っていた
まるで水が地面にしみこむかのように僕らの体に浸透していく歌声
一気にファンになってしまった
一時間ほどのライブが終わり、そこから握手会とファングッズ販売が始まった
カメラのようなものが普及しているらしく、写真? プロマイドが売られていた
他にも、魔力を流すと姫たちの歌が流れるマジックアイテム、フィギュア、タオル、グラスにマグカップに湯飲み、ぬいぐるみやそれぞれの顔をかたどったクッキーなんてのもあった
僕らもいくつか買い込んで、やがてグッズは完売した
驚いた、ものすごい人気だ
すっかりファンになった僕たちは姫たちに会いに行ってみた
ちょっとずるいけど精霊の姿でである
ファンの人達に心の中で謝りながらすんなりと姫たちの楽屋らしき部屋に通される
そこでは汗を拭いている姉妹姫がいた
ハクラ姫の乱れた髪をクロハ姫が嬉しそうにといている
「精霊様!?」
すぐにハクラ姫が立ち上がった
クロハもこちらに向いて頭を下げている
「こんにちは! ライブ、みましたよ」
「お恥ずかしい、精霊様にご満足いただけたでしょうか?」
「うん、すごかったよ。 一気にファンになっちゃった」
ハクラ姫はそれを聞いて笑顔をものすごく輝かせた。 可愛い!
クロハ姫も後ろでニコニコと笑っている
クロハ姫はどこかクールな感じで目つきも鋭いので怖いイメージがあったけど、妹思いの良い人みたいだ
ただ、うわさではその妹愛が異常に強くて怖い時があるみたいだけどね
「精霊様にそう言われると自信がつきます」
それから他愛のない話をして、改めて本題に入った
ここに来たのはファンとしてではなく、精霊と鬼人との友好関係をさらに深めるためでもある
決して私欲のためじゃないよ。 ホントだよ
鬼人との友好関係はずっと良かったのでこれからも安泰だろう
それに、彼ら鬼人たちはもともと自然を愛する民だ
僕らと仲がいいに決まっている
これで目的は果たせたかな
あとはまた観光に戻ることにしよう
二人の姫にまたねと挨拶をして僕らは城を飛び去った
人気のないところで人間に変化すると街に戻って宿を取った
大満足の一日だったと思う
それにしても、素敵な歌声だったなぁ
泊まった宿は旅館のようなところで、夕食には和食が出た
刺身、エビや魚や野菜の天ぷら、冷ややっこ、ほうれん草のおひたし、サザエのような貝のつぼ焼きなど結構量が多かった
食べ終えると満腹で眠くなってきた
備え付けの露天風呂でゆっくりと疲れを癒してから床に就いた
明日は何をしよう? どこにいこう?
そんなことを考えているうちに眠りについた
旅行先の料理っておいしく感じるね




