9桃源郷4
蟠桃園を後にして次なる目的地はいよいよニャコ様が待っているという桃源郷の迷宮だ
“桃の園”と呼ばれるその迷宮は、仙力を使う妖魔が出現する特殊な迷宮。というのをマコさんに聞いた
マコさんは入ったことが無いらしいけど、ジョカさんや歴代の長はそこで修業を積むみたい
あとは酔八仙や七仙女も入ったんだとか
この桃源郷の実力者と呼ばれる仙人はみんなこの迷宮をクリアしてるみたいだね
マコさんももう少ししたら挑むみたいだ
「どういった迷宮なのでしょうか? 私も桃源郷の迷宮についてはよく知らないものでして」
テュネが知らないのも珍しいね
それについてマコさんがいろいろと説明してくれた
「まずこちらの迷宮には先ほども言ったように仙力を使う妖魔がいます。妖魔は普通妖力と魔力くらいしか使えませんが、この迷宮の妖魔は神様の特別製らしいのです。それと、様々な幻術がかかっているそうでして、それが攻略者を悩ませます。あとは階層が20階層までありまして、内部構造は1階から20階までそんなに違いが無いようですね…。まあしかしながらです。今回は気まぐれなニャコ様が監修しておりますので何が起こるかわかりません。念のためお気を付けください」
「うん、色々説明ありがとう」
マコさんはにこやかに微笑んで「手続きをしてきます」と言って迷宮の受付に行ってくれた
ここでもやっぱり手続きは必要で、仙女のお姉さんが受付をしてる
少し待ってからマコさんは戻って来た
「お待たせいたしました精霊様。私も入りますのでよろしくお願いしますね。四大精霊様は本当に入られないのですか?」
「ええ、これはリディエラ様の試練です。私達が入ってはその試練の妨げになりますから」
そう、ニャコ様たちが僕に与えてくれた試練は自分自身でクリアしなきゃいけないんだ。リュコ様の試練はたまたま入っちゃったから四大精霊もいたけど、本来なら僕の力で乗り切らなきゃいけないんだ
リュコ様の試練で僕が手に入れた力は合成魔法
魔法をいくつも合成することで古代魔法ほどに強力な魔法を作成出来る
もちろんこれには精霊魔法までもを合成できる力はあるけど、今の僕じゃ制御できそうにないからやらない方がいいね
でもいつかはそれも操れるようになりたい。みんなを守りたいから
「じゃ、行ってくるね」
マコさんと一緒に僕は迷宮の内部へと入って行った
入るとさっそく霧が立ち込めていて視界が悪い
でも前に進まなきゃ
マコさんの手を引いてどんどん奥へ進んでいくと急に視界が開けてはっきりと見えるようになった
そこにはたくさんの猫が正に寝転がっていて、この世の楽園かと思えるほどに幸せな光景が広がっていた
「なにこれ!? 触っていいの?」
「い、いいんでしょうか? 私確認してまいります」
マコさんは恐る恐る猫を触ってみる
どの猫もおとなしく、マコさんが来たとたんみんな頭をスリスリと擦り付けてきて可愛い。たまらず僕も駆けだして、気づいたら猫を撫でていた
「すっごいフワフワだね!」
「はい!」
「すっごく可愛いね!」
「はい!」
どうしよう、可愛すぎてここから離れれない
もしかして、この誘惑に勝って先へ行かないといけないって試練なのかな? と思っていたけどそんなことはなかったよ
猫ちゃんたちをモフモフしていると、奥の霧に何かの気配を感じた
「マコさん」
「はい、何かいますね」
霧の中を二人で見つめていると、二つの目がきらりと光っているのが見えた
その何かは霧から飛び出してきて音もなく僕らの前に立った
それは大きな三つの尾を持つ猫
「こんな妖魔、見たことがありません…。一体どこから」
「たぶん、異世界だと思う。迷宮にはたまに異世界の魔物が召喚されることがあるって聞いたから、この妖魔も多分そうなんだと思う」
「なるほど、流石精霊様、博識ですね」
「いやいやそれほどでも」
って和んでる場合じゃない! その妖魔猫は明らかに僕らに敵意を向けている
「と、とにかく猫ちゃんを守りながら戦わなきゃ! 結界を張るね!」
猫たちを後ろに匿ってから僕らは妖魔猫に立ち向かう
結構な妖力を感じるからこの妖魔猫、相当強い
「シャァアアア!」
威嚇してる。その顔が怖いんだけど…。まるで虎みたいだ
「精霊様、まずは私が行きます!」
「ちょ、マコさん、危ないよ!」
僕の制止も聞かずにマコさんはその長く鋭い爪で妖魔猫にとびかかった
まずい、そんな飛び方したら空中で身動きが取れずに攻撃を受けちゃうよ
「一爪、首離斬り!」
人差し指の爪で首に向けて一閃
金属のような質感の爪はくしくも妖魔猫に避けられて首元の毛を少し刈り取っただけだった
マコさんの爪には仙力がみなぎっているから妖魔猫も警戒したんだと思う
「避けられましたか。次は決めます!」
今度は妖魔猫の頭上に飛び上がって上から爪を振り下ろす
「危ない!」
妖魔猫は底をついて大きな手から鋭い爪を出してひっかいた
まさに猫パンチなんだけど、当たったらただじゃ済みそうにない
その猫パンチをマコさんは空中でひらりとかわして妖魔猫の脇腹から爪を差し込んだ
「二爪、劇毒刺!」
今度は小指の爪がずっぽりと刺さりこみ、その痛みで妖魔猫は暴れ始めた
かなり苦しいみたい
「苦しんでる?」
「はい、致死性の猛毒を流し込みました。このような可愛い子猫をいじめようとするなど許せませんから」
うわ、マコさん怖い
結局妖魔猫はのたうち回ってゆっくりと動かなくなって消滅した
どうやらこれでこの階層はクリアしたみたいだ
霧が晴れると次の階層への扉が開いていた
「次は僕もちゃんと戦うからね」
「あ! 申し訳ありません精霊様! 出しゃばった真似をしてしまいました!」
「ううん、いいんだよ。マコさんの修行でもあるんだから」
「そのお言葉、痛み入ります」
マコさんを落ち着かせて、猫ちゃんたちに別れを告げてから僕らは扉をくぐった




