9桃源郷3
次にやって来たのは蟠桃園と呼ばれる巨大桃園で、今丁度収穫時期なので七仙女と呼ばれる仙女が収穫をしているらしい
辺りを見回してみると人影がいくつか飛んでいるのが見えたので、そこに向かって僕らも飛んだ
「紅衣、精霊様をお連れしました」
「なんと! せせせせ精霊様が!? ちょっと待ってよマコ、僕まだ心の準備ができてないんだけど!」
ボーイッシュな見た目に赤い衣を纏った女性。名前もそのまま紅衣さんというらしい
七仙女はそれぞれが色違いの服を着ていて、その服の色がそのまま名前という仙女たちで、主にこの蟠桃園の管理を任されているんだけど、実力は酔八仙に次ぐ実力者なんだとか
要は相当強い仙人ってことだね
「す、すぐに皆を呼んでまいりますので少々お待ちください!」
作業の手を止めてまで僕らの前に勢ぞろいする七仙女、と…。あれ? 鬼人? いや、仙力を感じるから鬼仙か
「えっと、七仙女さんたちは分かるけど、君たちは?」
「はっ! わたくしたちは三妖鬼と申しまして、クロハ姫に仕える従者でございますの!」
なるほど、ハクラちゃんが確か三獣鬼だから、クロハさんにも当然従者はいるはずだもんね
その従者がこの三妖鬼ってことか
「わたくしが紫羊鬼のシエノですわ。鬼ヶ島でもお会いしたはず、なのですが…」
「え?」
僕とシエノさんの間に気まずい沈黙が流れる
「お、覚えていらっしゃらないの、ですわね…。いえ、それはわたくしたちの不徳の致すところでございます。それにあの時はお祭りの準備で忙しく、あまり精霊様とお話できていませんでしたし」
「ご、ごめんね。でももう覚えたから! シエノさんだね!」
「まあ、わたくしにさん付けなど恐れ多いですわ精霊様。どうぞシエノと呼び捨ててくださいまし」
「あ、いや、うん…。」
やっぱりちょっと距離感があるね。そんなにかしこまられるのもなんだかなぁ
でもこれから親ぼくを深めていけばいいんだもんね
「で、こちらが」
「ミドリコ、緑鼠鬼のミドリコ、です」
目が隠れた黄緑色の髪を持つおとなしそうな少女のミドリコさん
漂う雰囲気から結構な実力者だと思う
「わたしが、ん、桃牛鬼のモモネです、んふ」
うっわおっき! おっきい!
僕は思わず自分の胸を見て手でさする
「大丈夫ですよリディエラ様、あなたはまだまだ成長気なのですから、きっとシルフェイン様のような素敵な女性に成長しますよ」
そんな僕の状況を察してテュネが小声で話しかけて来るけど…。べ、別に気にしてるわけじゃないもん
む、むしろない方が動きやすいから。動き、やすいから…
「ところでその三妖鬼がなぜここで桃の収穫を?」
話題を変えようと三妖鬼を見ると桃収穫用の籠を背負っていたので聞いてみた
「実はわたくしたちも童子になるべくここに来たのですわ。この収穫も修行の一環なのですわ」
「な、なるほど。それでそんな疲れた顔を」
三妖鬼は目の下にクマができている。結構辛そうだ
でもその目には燃え上がるような闘志が宿っている。必ずこの修行をやり遂げて童子に成ってやるって強い意思が感じられた
「この子たち、非常に頑張っていますよ。空も飛べないのにこの収穫についていけている時点で、相当な実力がありますし、やる気だってあるからあたし達ももっと強くしてあげたいって思えるのですよ」
素衣さんという白い衣服を着た女性が三妖鬼をほめている。その後ろでモモネさんは顔を赤くして恥ずかしがっていた
この三妖鬼もきっと三獣鬼みたいに童子に成ると思うよ。だってあの時の三獣鬼たちと同じ目をしてるんだもん
それに、そう時間もかからないんじゃないかな? みたところ彼女たちはすでに仙力を体に充実させてる
もう少し研鑽すればきっとなれるよ
「いかがでしょう精霊様。あたしたちも休憩するので採れたての桃を食べて見られては?」
「え、いいの!?」
「もちろんですに! むしろ食べて欲しいですに!」
何このカワイイ緑色の衣の娘は…。え、連れて帰りたい
あ、この娘が緑衣さんか。年齢も見た目とは違って僕よりはるかに上なんだとか
でも言動や行動がどう見ても5歳くらいの子にしか見えない
お菓子をあげるとすごく喜んでるし
まあ黄衣さんに餌付けしないで下さいと怒られたけど
その餌付けって言葉を聞いて緑衣さんと黄衣さんが喧嘩を始めるし
でもまあ喧嘩するほど仲がいいって言葉もあるように、この二人はかなりの仲良しみたいだ
グラマラスな黄衣さんが緑衣さんの手を引いてる姿はまるで親子みたいだけどね
と思っていたら急に黄衣さんの体が煙に包まれて子供の姿になった
緑衣さんよりも年上の見た目だけど、これなら仲良し姉妹に見えるね
「それではこちらをお召し上がりください」
農園の中央にある管理小屋。そこの中はカフェのような作りになっていて、おしゃれなテーブル席に案内されピーチティーと採れたて新鮮な桃を用意してくれた
まず桃をつまようじに刺して一口パクリ
驚くほどの甘みが口いっぱいに広がるうえに、体に魔力や仙力がみなぎるのを感じる
精霊である僕らも一応は仙力をもっているんだけど、なんだか強化されたみたいだ
それよりなによりこの桃、美味しすぎるんだけど。さすが毎年母さんに献上されているだけのことはある
母さんはこの仙桃が大好きだからね
だからこそアスラムがここの桃を精霊の国で育てられないかと考えている
桃を食べた後はピーチティーを飲んでみた
今度は桃のあまーい香りが鼻を突き抜けて、ほのかな甘みと酸味が口を幸せにしてくれる
最高のティータイムを満喫している間、アスラムは七仙女たちに桃のかぶを分けてもらい、その育て方や必要な力をいかにして注ぐかって説明を受けていた
真剣な表情で七仙女たちの話を聞き、メモを取っている
これなら故郷でも仙桃が楽しめる日もそう遠くない未来かもしれないね




