9桃源郷2
この国の第一印象は質素と倹約かな。でも貧しいという意味じゃなくて、充実した生活を送ってるみたい
植物はのびのびとしていて、動物もほのぼの生活している
のどかで平和。理想の国だね
でも仙人や仙女は修行を怠らない。彼らはみんなこの世界を守るために頑張ってるんだ
「まずご案内いたしますのが連玉山です。こちらは玉のような形の山が連なっていまして、その形の美しさから玉と名付けられました。ご覧ください、あの美しい球体を」
確かにすごくきれいな丸型で、それが三個連なっている
「どうしてあんな形になったの?」
「それはですね、フーレン様が昔ここで凶悪な魔物と対峙された時に激風を巻き起こされまして、それによってこの美しい景観が生まれたのです。私達はこの連玉山を見る度にフーレン様の偉大さを再認識しているのです」
フーレン、ここまで山の形を変えないと倒せないほど強力な魔物だったのか。よく頑張ったんだね
「最初はですね~、かなりぐちゃぐちゃのボロボロだったんですけど~、アスラムに手伝ってもらって山を綺麗に~してもらったんです~。その時ちょっと土が足りなくて~、一つが丸くなっちゃったから~残りも丸くしたんです~」
ああ、それでこんな形に。まあ山はちゃんと木々も生えて成長の阻害もされてない
「実はこの連玉山では独自の生体系が築かれていまして、珍しい動物が多数います。ただどの子も臆病ですので精霊様でも会えるかどうか…。いえ! 精霊様なら会えるはずですよね? 無粋でした」
ひとまず山に登ってみることにしてみた。空を飛んでね
マコさんも飛べるから彼女の後についていく
山の頂上に着いたんだけど、そこは少し開けた広場になっていた
草の良い匂いがして風が気持ちいい。ここの風はフーレンが吹かせて以来止むことのないそよ風になっていて、マコさんが言うにはここで寝転んでお昼寝すると最高に気持ちいいらしい
どれ僕達もって思ったけど僕ら眠れないんだよね
まあ寝転んで目をつむることはできるからそれで風を感じて気持ちよくなろうっと
そうして寝転んでいると鳥のさえずりや小動物の鳴き声が聞こえてくる
うっすら目を開けてみると、僕らの周りにはたくさんの見たことのない可愛い動物たちが集まって来ていた
「さ、流石精霊様ですね。こんなにも動物たちが懐いてきているなんて初めて見る光景です。素晴らしいです!」
マコさん大絶賛だね。僕もたくさんの動物たちに囲まれて幸せ。金の毛をしたリスや真っ白な毛を持つ子ザル、子犬のようだけど成犬の小さな丸い角の生えたモフモフ毛の動物などなど
この子たちはみんな一様に僕たちの周りに寝ころんで一緒になって寝始めた
フワフワであったかくて幸せのお昼寝ですよ
「いかがでしたか精霊様? ご満足いただけたでしょうか?」
「うん! ここの動物たち可愛いね。また今度来させてもらうよ」
一応僕はこの山に加護を放った。より一層の繁栄と安寧を願ってね
加護を振りまき終えると今度は別の名所へと案内してもらうことになった
「私達が千年樹と呼ぶ大樹でして、あの世界樹ユグドラシルの姉妹樹木なのです」
それはなんてすごいんだ! 世界樹の姉妹なんていたんだ。それは会ってみたいね
「というよりもう見えてます。あれです」
マコさんが指さしたのは壁…。じゃない! これ樹の幹だよ
ものすごく大きくて一見するとただの壁に見えるんだけど、見上げるとそれが雲まで届く巨大な樹だってことが分かった
そうそう、これは数万年前のことなんだけど、まだこの世界が出来たばかりの時はこういった世界樹が数多くあったんだって。でもこの世界ができてから数千年後のこと、どこからともなく現れた邪神がこの世界を滅ぼそうとしてかなりの数の世界樹が消えたらしい
でも残った数本は今でもこの世界に根付いてその雄大な姿を見せつけている
この国では千年樹と呼ばれてるけど、その実数万年を生きている大先輩なんだ
僕はその大先輩に敬意を払うようにお辞儀をしてみた。それに習って四大精霊もお辞儀をしている
これは特にこの世界にはない風習だけど、僕はこのお辞儀という文化が好きだったから定着させたいと思ってるんだ
だから率先してありがとうを言いたいし、間違ったなら謝りたい
日本文化の詫び錆びも実は異世界から来た人たちのおかげで少しずつ根付いて行ってると言ってもいい
彼ら異世界人にも一度会いたいけど、どこにいるかは分からないんだよね
まあこればっかりはたまたま会えるのを期待するしかないか
「千年樹、いかがですか? 素晴らしい生命力にあふれていて、私も感無量です」
「うんうん、世界樹って偉大だね!」
僕はその世界樹に抱き着いてみて、生命力を感じた。まるで胎動するかのようなあふれ出す生命力に体をふるわせた
僕たち精霊にとって世界樹は大切なもの。彼女らがあるおかげで僕達の世界は安定していられるんだ
だからこそ僕はその感謝を心の中で伝えた
それを聞いてくれたのか、世界樹は優しく揺れる。風は吹いていない
世界樹には意思があるんだ。そして世界を優しく見守ってくれている
僕たちは世界樹にお礼を言うと次の案内について行った




