8 竜人族の国5
色欲の精霊事件から数日後、ようやく温泉施設が全て再開した
なんでも女性客が落ち着くまで閉鎖していたらしい
結構ショックを受けた人が多くて、そのケアをしていたみたいだ
「私達は元々裸で生活していましたので平気なのですが…。 やはり人族が大変そうです。 特に人間族やエルフ族ですね」
人間族やエルフ族は裸を男の人に見られるのが恥ずかしいらしく、愛する人以外に見せたくないと言う人が多い
一方竜人族はというと、旦那以外に見られる、妻以外を見る、という状況でも揺らがないらしい
「さて、これでゆっくり浸かれそうだね。 まずどれから行く?」
テュネたちと地図を眺めながらそう言った
この地図は各宿屋に設置されていて、この街にある温泉全てを網羅してあるんだ
とりあえず相談して、最初は“白色美湯”という温泉に行ってみることにした
その名の通り美肌効果がある温泉で、もちろん女性人気ナンバーワンの場所
僕ら精霊のような精神生命体には効果が無いように思われるかもしれないけど、そこは異世界、魔力のある湯だからこの体にも作用して、綺麗なアストラルボディを保ってくれるのだ!
僕たちの泊まってる宿からもそう離れていないから、ゆっくりと歩いていくことにした
のんびりと、景色を眺めながら…。 何か見える
山を下りる道の途中に誰かが倒れてた
「あの、大丈夫?」
「う、うう、お腹すいた~」
倒れていたのは竜人の子供だった
背中には大きな槍を背負っている
取りあえず起こしてアスラムに運んでもらい、麓のお菓子屋さんで売ってたドーナツをあげた
「ムグムグ、ガツガツ、ムシャァ! パクパク、んぐっ、ゲフゲフ!」
「落ち着いて食べなさい。 まだまだありますから」
がっつく子供にテュネが注意する
「ゴクゴク、ぷはぁ。 ありがとうございました! ボクはティリア。 ティリア・バルハートです!」
ん? バルハートって
「もしかして、ゴトラさんの子供?」
「はい! よく分かりましたね。 そうです、何を隠そうボクはこの国の第三王子ことティリア様なのでした!」
元気な子だね
横柄な態度に見えるけど、ちゃんとお辞儀して実はかなり礼儀正しい
「ところで、ボクを助けて下さったあなたたちはどちら様なのでしょう? できれば母上に言ってお礼をしたいのですが」
「名乗るほどのもんじゃぁございません」
ちょっと言いたかったセリフを言ったけど、皆にキョトンとされて恥ずかしかった
ティリア君も目を丸くして首をかしげている。 なんか可愛い
「して、お名前は?」
うん、通じてなかった
仕方なく名乗ると、今度は目を大きく開けて驚いた
「何と! 精霊様でございましたか! これは飛んだご無礼を働いた上にごちそうにまでなって、ご感銘を受けた上にこの不甲斐なさに深く反省しております! 申し訳ありませんでした!」
とにかく礼儀正しく熱血。 それがこの子の印象だね
でも何で王族のこの子があんなところで生き倒れてたんだろう?
「それはですね、恥ずかしいお話なのですが」
ティリア君は顔を赤くしながら答えてくれた
なんでも、彼は武者修行の旅に出ていたらしい
これは風習とかじゃなくて、彼自身の意思で行なったみたいだ
どうやら城にある図書館で勇者の英雄譚を聞いて触発され、いつか自分も勇者になりたいと修行を始めたみたいだ
冒険者としての登録もしていて、そのランクはなんと、Sランク
めちゃくちゃに強い。 冒険者の間では“撃竜王子のティリア“なんて二つ名もついているくらい有名らしい
今回は久しぶりに故郷に帰って来てたんだけど、間違えて裏にあるコポポマに到着。 路銀もそこを尽きていたためあそこで行き倒れてたみたいだ
それと、彼の背負っている槍は神槍ヴェルヴィスといって、突き刺したモノの特性を吸収し、反映させると言う特殊な槍だった
つまり、岩をさせば岩のような打撃系の武器になり、毒を持つ魔物に刺せばその毒を生成するってことだ
そして一番すごいのが、魔法を刺してその魔法の特性を反映させてしまうところだ
炎の魔法を刺せば炎の槍に、氷の魔法を刺せば氷の槍に、爆発する魔法を刺せば爆発する槍になる
この槍を扱えるのはティリア君とお父さんのゴトラさんだけで、槍の特性をしっかりと理解していないと逆に危険なんだそうだ
「こうしてボクは修行もひと段落し、いよいよ龍神のアンミツ姫様に修行をつけてもらうつもりなんです!」
どうやらアンミツ姫に修行をつけてもらうための課題で冒険者のSランクを目指していたみたいだ
それで本当にSランクになるって言うのも凄いけどね
ちなみに僕らも一応冒険者としての登録はしてたんだけど、依頼をあまり受けていないからランクはBと中堅くらいだ
あと、つい最近冒険者のランク制度が少し変わったみたいで、近年増加する異世界からの魔物襲撃も相まって、Sランクの上に幻想ランク、神域ランクが追加されたみたいだ
幻想ランクは世に数人、神域に至っては未だ一人だけ。 その一人というのがあのカイトさんだ
世界最強だけあってやっぱりすごい人だね
「む、長く話し込みすぎましたね。 ボクは王宮に帰らなければならないのでこれにて失礼いたします」
丁寧なお辞儀をしてティリア君は去って行こうとしたけど、ボクは彼を捕まえた
「な、何なのですか精霊様」
「まぁまぁ、ちょっと一緒にお風呂に行かない? お母さんに会うんだったらそのままだと臭うよ?」
彼はここに来るまでの数週間お風呂はおろか水浴びもしなかったみたいで、ツンと鼻に来る匂いがしている
これは洗ってあげなければ
「そ、それは…。 確かにお風呂は好きですけども」
「ホラホラ、遠慮しないで」
半ば強引にティリア君をお風呂に攫って行った
白色美湯には混浴もあるからそっちへ入ろう
フフ、僕実は、弟か妹が欲しくて、こうやって一緒にお風呂に入るのが夢だったりしたんだよね




