8 竜人族の国2
僕は思わず一瞬のうちにアンミツ姫を抱きかかえてしまっていた
自分でも何が起きたのか分からないほどに速かったと思う
「な、なななななな何をなさいますか精霊様! 我はぬいぐるみではありませんぞ!」
何か叫んでるけど、僕はアンミツ姫のほっぺのモチモチ感に夢中で耳に入らなかった
何て柔らかくて可愛いんだろう。 これで僕の数千倍も年を取っているとか嘘でしょう?
「あう~、好きにしてください、もう…」
あ、おとなしくなっちゃった。 そこも可愛い!
僕がなでなでしていると、デュレロさんが話しかけてきた
「あの、精霊様? できればアンミツ姫を放していただけると助かるのですが…」
「あ、ごめんね、つい」
僕はすぐにアンミツ姫を放したけど、アンミツ姫は動かない
「もっと撫でてくれてもよいのじゃが?」
どうやらアンミツ姫は遥か昔、共に魔王と戦った異世界の勇者に撫でてもらって以来、頭を撫でられたことがなかったらしい
ちなみにアンミツ姫という名前もその勇者につけてもらったと言っていた
ふふふ、アンミツ姫も僕の撫でテクのとりこになったか
この調子でどんどん可愛い子を落として…。 って何を考えてるんだ僕は
「精霊様、抱っこしてほしいのじゃが」
どうやらアンミツ姫は僕に非常に懐いてくれたみたい
遥かに年上なんだけど、見た目が僕(10歳くらいの見た目)の少し下の8歳くらいにしか見えないから妹みたいだ
なんでも僕の撫で方が大好きだった勇者の撫で方と似てたらしい
いやまあ喜んでもらえてよかったよ
「して精霊様、少しお話しておかなければなりないんじゃが」
アンミツ姫は急に真顔になって僕を見上げる
「ここではなんですので、城の空き部屋をお使いください」
ディレロさんが僕達を部屋へと案内してくれた
綺麗にそろえられたアンティーク調のテーブルとイス、よく分からないけど高そうな絵画に壺が飾ってある
なんだか座るのも緊張しちゃう椅子に座ってアンミツ姫を見ると、椅子によじ登っていた。 可愛すぎる
「よいしょっと。 それで精霊様、現在世界各地で不穏な気配があるのは気づいておられるかの?」
「うん、凶悪な魔物や魔獣の封印が次から次へと解けてるみたいだね。 僕達精霊も情報を集めているところだよ」
「さすが対応が早い。 我も龍や竜に情報を集めさせております。 しかし一向に情報は集まらん…」
どうやらアンミツ姫も色々調査しているみたいだけど、原因はまるで不明。 封印のあった場所を調査しても魔物が復活したときの魔力の乱れくらいしか確認できなかったらしい
「偶然にこれだけの封印が同時多発的に解けたとは考えにくいんじゃが、何者かが解いたと言う確証もなくての」
なるほど、まあ確かに精霊たちの調査でも同じような結果だったから予想はついてたけど
原因をまずは突き止めないと、先に進めないよね
「ひとまずこちらでも色々と調査をするつもりじゃ。 精霊様も何かわかったら教えて欲しいのじゃ」
「うん、それじゃぁ世界中の国に手伝ってもらうよう要請しよう。 連絡は僕がやっておくからアンミツ姫は引き続き龍や竜に少しでも違和感がないか調査してもらうよう伝えておいて。 違和感は何でもいいからね。 それからハクラちゃんとクロハさんは封印が解けたときの対応をお願い」
「分かりました! 任せておくとよい!」
「かしこまりました。 我らも良い修行になります」
とりあえずはこれでアンミツ姫とのお話は終わった
ハクラちゃんとクロハさんも封印魔物退治を手伝ってくれるから心強いね
次は王と王妃に会ってハクラちゃんとデュレロさんの今後について聞いてみなきゃ
部屋を出るとまたデュレロさんが案内してくれた
さっきの部屋から少し進むと大きな扉があって、その扉を開くと豪華絢爛な王室が現れた
巨大なシャンデリアはサンクリスタルという輝く鉱石で出来ていて、それが部屋を照らしている
「精霊様、よくぞおいでくださいました。 私がこの国を治める王、ゴトラと」
「王妃のカルセです」
うわあ、なんてきれいな人たちなんだろう。 威光がまさしく王様だ
「こんにちは、精霊王女のリディエラです。 母に変わって加護の更新に来ました」
二人は椅子から立ち上がると僕の前に立って膝ま付いた
この瞬間が僕は一番苦手かな? できればもっとフランクに接してほしい
「ありがとうございます、これからもより良い発展と自然への慈しみを忘れず努めてまいります」
少し加護のことやこのバルハート国のことを聞いて、それとなくハクラちゃんのことを聞いてみた
「ああ、彼女にはまだまだ王妃のあとを継いでもらう気はないですよ。 もっともっと先の話ですね。 少なくともあと数百年くらいは私達も元気でしょうし。 まぁ予期せぬ事態が起きて私達が死ねば継いでもらうことにはなるでしょうが…」
最後のブラックジョークはともかくとして、ハクラちゃんもホッと胸をなでおろしていた
すぐって勘違いしてたんだね
「申し訳ありません、ハクラは少しせっかちなところがありまして…」
クロハさんが平謝りしてる
肝心のハクラちゃんは顔を赤くして恥ずかしがっていた
「で、でもまぁこれでもっともっと強くなれそうです!」
うんうん、よかったね。 あとはそのちょっとせっかちな性格を注意しようね
とりあえずの心配は無くなったのでようやく温泉に入れる
これを楽しみに今日を生きてきたと言っても過言じゃないからね




