7 妖怪族の国47
さぁいよいよガラクタ祭の日がやって来た。 それぞれの楽器を手に僕らは会場へ向かう。 ちなみに僕らはチームでエントリーした。 この祭、チームでも個人でもいいみたいで、とにかくいい音さえ奏でられればいいのだ。 歌でもいいしソロでもデュオでもトリオでも、最大100人までオッケーなのだ。 毎年大合奏や大合唱もあって、特に鳥人族やニンフ(精霊族の一種族)の歌はすごいらしい
受付を済ませて控室へ。 控室と言っても大きな建物(体育館のような木床の建物)で、参加者全員が入れるようになっている
ここでは楽器を持った人たちはチューニングを、歌を歌う人は最後の調整を、体を鳴らす人は叩いて音色の確認をしていた。 その中に変…。 特徴的な人も何人か紛れてたけどきっといい音を奏でるんだと思う
「精霊様! 拙者負けませぬ! 必ずや優勝して去年の悲願を果たすでござるよ」
「うん、僕らも全力で演奏するね」
今から一時間後に開演。 審査員はセトダイショウさん、奥さんのセトヒメさん、幹部でコツボちゃんのお父さんであるオオツボさん、同じく幹部のビワダイホウシさん(琵琶という弦楽器の付喪神)、それに女性幹部のシガラキヒメさん、楽器系付喪神筆頭のアコーズさん(アコースティックギターの付喪神)、以上の6名で、それぞれが最大10ポイントをもっている。 つまり最高得点は60点ってことだね
幕の降りたステージ
そのステージの幕前に一人の女性が立った
「さぁ空晴れ晴れと太陽輝くこの良き日に、今年もやって参りましたガラクタ祭! 実況はわたくし、エコーズがおおくりいたします!」
そう言って開始の実況を叫んだのはマイクの女性付喪神のエコーズさん。 うん、すっごい美人だ
「では里長兼いい音奏で隊隊長でもあるセトダイショウ様! 開会のあいさつをお願いいたします」
「うむ、紹介に預かったセトダイショウにござる。 今年もいよいよこの季節がやってきたわけなのだが、思えば拙者が転んでは三百と五十余年、そこから始まったガラクタ祭は毎年規模を拡大して大盛況の祭りとなった。 時は遡ること千年前、拙者は瀬戸物として生まれ、主である殿にたいへんかわいがっていただいて…」
「ちょっと、セトダイショウ様、時間も押してますので手短に!」
「ん、あ、ああすまぬ。 ではこれより開幕でござる! みな良き音を奏でてくれ!」
それによって花火が上がり、幕がスーッと上がった。 一組目はクラッパーフラッパーと言うグループで、妖怪族の中でも特殊な幽霊族とゴーストやレイスの混合チームだ。 ここで幽霊族とゴーストの違いを説明しておくと、足があるかないかと妖力が使えるか使えないかである。 妖力が使えて足がないのが幽霊族だ。 ちなみにゴーストもポルターガイストという力を使えるけど、これは魔力によるものらしい
「いち、にぃの」
指揮者と思われる幽霊族の女性がタクトを振って合図を送ると一斉に合唱が始まった
それはそれは綺麗な歌声で、まるで魂を震わせるようなソウルミュージック。 教会のゴスペルに似てるけど、ゴーストたちのポルタ―ガストと幽霊族の妖術、家鳴りによって見事な音楽も奏でられていた
一組目が終わると拍手喝采。 これは手ごわい…。 僕なんかの演奏が加わってもいいんだろうか?
二組目は妖怪族学校(妖狐族の里にあるクノエちゃんも通っていた学校)の小等部による合唱だ。 子供達の元気な歌声が響く。 なんてかわいいんだろう。 この一生懸命さがいいね!
三組目、九十九族による体演奏。 チーム名はカグラ 食器、楽器、大工道具などの体を持った彼らの演奏、果たしてどのようなものなのか
演奏が始まるとすぐに僕は聞き入ってしまった。 食器と食器がぶつかって出る音がキーンと響く。 まるで心にも響いているみたいだ。 金床の付喪神を金槌の付喪神が叩いて鉄筋のような音を奏で、それらの音に合わせて楽器の付喪神が演奏した
絶妙なセッションが里中に響いている。 もちろん会場はスタンディングオベーションだった
四組目に演奏するのは翼人族と鳥人族、それから姑獲鳥族などの鳥形妖怪族の混合チーム、ザ・ピッチディーヴァ。 翼人族は翼の生えた種族で、鳥人族は嘴のある手が翼の種族だ。 姑獲鳥族は同じく手が翼で、かなりの子煩悩な種族。 ザ・ピッチディーヴァは全員が女性で構成されていて、楽器を一切使わずに自分たちの声だけで奏でるチームなのだ!
歌が始まる。 一人の鳥人族の女性が歌いだし、それに合わせて数人が別のパートを歌う。 癒される旋律と心を震わせる歌声。 古代語と呼ばれる言葉で歌われているからか、よく分からなかったけど、それでも涙が出るような歌だった
五組目はソロ…。 あれ?どこかで見たことある気が…。 あの特徴的なスカイブルーの髪の色、ちょこんと生えた犬のような耳、誰よりもふさふさの尻尾。 スネコスリ族のネネコちゃんだ!
ネネコちゃんはハクラ姫の従者で友達。 かなりの美声を持った少女。 でも何でこの大会に? 鬼ヶ島からは結構距離があるはず。 あ、今は転移装置があるからすぐ来れるのか。 そう言えばネネコちゃんの故郷は妖犬族の里にあるんだっけ。 里帰りかな?
「ど、どうも、ね、ネネコ、です! 一生懸命歌います!」
鬼ヶ島のライブよりも大規模なイベントにちょっと緊張しているみたいで、観客たちは心配そうな顔で見ていたけど、ネネコちゃんが歌い始めるとその不安も一気に解消された
素朴だけど綺麗な歌声。 鬼ヶ島一番の歌姫と呼ばれるだけのことはあって、観客はうっとりと聞きほれていた。 歌い終わると会場が割れんばかりの拍手が巻きおこった
あ、ネネコちゃんが恥ずかしさで走って引っ込んじゃった




