7 妖怪族の国19
魔の森林は既に開拓されていて、そこには香り豊かなリンゴが植わっていた
その甘い香りをいっぱいに吸い込んでみると、さっき唐揚げを食べて満足したはずの食欲を刺激してくれた
「今丁度、収穫時期。 今年は豊作」
収穫している鵺族の人達、その横を通る僕達
「ウツロ様、いい天気ですね」
「見てくださいウツロ様、このリンゴはよく熟れて食べごろですよ」
果実園の人達が口々にウツロちゃんに声をかけて、リンゴをもいで持ってきてくれた
「まずこれ、豊穣女王。 甘さ控えめで酸味が程いい」
シャクッと噛むと、酸味と甘みのバランスの取れた果汁がどんどん溢れて来る
ジュースに向いてるかも
「次はこれ、シュワベニヒメ。 面白い味わいだから、まず食べてみて」
次に出してくれたリンゴを齧ると、シュワっとした炭酸のような刺激が溢れ、甘酸っぱい果汁が爽快に喉を通り過ぎていく
リンゴのサイダーみたいだ
「こっちも、食べて、これは銀王。 作るの苦労した」
うわ、銀色のリンゴだ。 メタリックな感じだけど大丈夫かな?
恐る恐る食べると、甘さが普通のリンゴの比じゃない!
それになぜか冷たい
「これ、自分で温度を下げる性質、ある。 いつでも、冷やしたみたい」
そうやって色々とリンゴを楽しんでいると、突然果実園で働く鵺族が走って来た
「大変ですウツロ様! 古黒蟲が出ました!」
「それ大変、どこ?」
「西のクラップル生産施設です!」
「ぐぬぬ、新種、もう少しで出来そうなのに」
うわ、ウツロちゃんすごく怒ってる。 後ろにゴゴゴという背景を背負ってるように見える
「すぐ行く、リディエラは待ってて」
ウツロちゃんは走っていってしまった
「古黒蟲はたしかAランクの指定討伐対象の魔甲虫だったはずです。 ウツロちゃんの身が危ないかもしれません!」
アスラムがそう説明してくれた
ウツロちゃんを助けに行かなきゃ!
「僕らも行こう!」
ウツロちゃんの後を追って空を飛び、すぐに追いついた
そこは真っ白な施設で、どうやらここで新種のリンゴを作る研究をしているらしい
その筆頭がウツロちゃんだって言うんだからあの子、天才なんだね
「ウツロちゃん!」
施設の前にウツロちゃんと、結構な数の黒くて巨大なゴキブリのような魔甲虫がガキガキと金属音を出しながら蠢いていた
数は百匹ほど、ウツロちゃん一人だとやっぱり手に余りそう
「手伝いに来たよ! 一緒に果実園を守ろう!」
「あ、ありがとう」
少し不安そうな顔だったけど、今は顔を輝かせて古黒蟲に立ち向かおうとしている
その手には濃い紫色のチャクラムが握られていた
「私の力、見せる」
ウツロちゃんはそう言うとチャクラムを放った
それは古黒蟲めがけてまっすぐ飛んでいき、その頭を跳ね飛ばした
しかし古黒蟲はそれだけじゃ死なない。 脳が頭だけではなく体にもあって、その体だけでも襲ってくるからだ
「ハァ!」
飛んだチャクラムに腕をかざして操作するように手を動かした
「てい! てい!」
その手の動きに合わせてチャクラムは高速回転しながらさらに古黒蟲を切り裂いた
それによって5匹の古黒蟲がずたずたになって息絶える
「まだ、まだ…。 妖術、黒羽!」
先ほどのチャクラムによる攻撃で、死なないまでも傷を負った数十匹の古黒蟲、それらの傷口にウツロちゃんから放たれた黒い羽が入り込む
ぶるぶると震え始める古黒蟲達、体内に入り込んだ羽がその内部をずたずたに切り裂いて出てきた
いくら古黒蟲がの生命力が強いとはいえ、全ての体を動かす器官を壊されたんじゃ動けなくなる
なんというか、結構激しい妖術だね…
みるみる古黒蟲は減っていき、結局ウツロちゃん一人で対処しきってしまった
「これは…。 幼いながらもここまでの実力とは、今後が楽しみですね」
アスラムに褒められて嬉しそうなウツロちゃん
「私、いっぱい修行してる。 でも、父様にはまだ、敵わない、コクウおじさん、にも…。 だから、私、もっと強くなる。 アスラム様の元で」
うんうん、ウツロちゃんとアスラムの相性は抜群に良さそう
土魔法を覚えればウツロちゃんの戦術の幅もぐっと広がりそうだしね
僕たちはウツロちゃんとまた会う約束をして、鵺族の里から次の妖犬族の里へ向かった




