7 妖怪族の国16
列に並んで10分くらいしてから僕たちの番になった
「さ、一気に飛んで」
ウツロちゃんに促されるように強風が下から上に吹きあがるパネルの上に立った
直後、髪が逆立って体が一気に浮いた
「うわわ」
一気に上空高くまで吹き上げられ、ほんの数秒の無重力感を味わったのちに急速に落下
「ひぃ! これは結構、怖ぁああああああああああああああああああ」
下からの風圧で少し減速するけど、それでも怖い
いくら僕達精霊が飛べるからと言って、こんな感じの落下は想定してないもん
地面がまだまだ遠い。 一体どれだけ高く飛ばされたんだろう?
「少し、慣れてきたかな」
横を見ると、僕と同時に飛ばされた観光客、それとテュネの姿が見えた
テュネは余裕で僕に手を振ってる
あ、気絶してる冒険者がいる…。 まぁここは変な体勢で落ちても妖術で絶対安全だから大丈夫でしょ
「リディエラ様! 私はあちらの的を狙おうと思います!」
風が強いから大声でテュネが叫んでる
「わかったー! 僕はもう少し向こうの的を狙ってみるよー!」
テュネと別れてお互いの狙った的へ向かって一直線に急降下
地面にあたる寸前に減速して、ゆっくりと降り立った
そこは真っ赤な的で、周りにあった的に比べて少し小さい気がする
的の横に置いてあるチケットを取って景品交換所に行けばいいらしい
テュネの方は濃い青の的で、そこにはテュネともう一人、冒険者の男性が降り立っていた
「リディエラ様、あっちで景品交換をしているそうですよ」
二人で連れ立って交換所に行ってみた
あ、さっき気絶してた人だ。 どうやら的のあるところに落ちたみたいだね。 交換チケット持って立ってる
「さ、お嬢ちゃんの景品は何かな?」
交換所に立ってる鵺族のお姉さんにチケットを渡す
「おめでとう。 おっきいぬいぐるみだよ」
うわ、僕と同じくらいの大きさの鵺人形だ
鵺族は人間形態と獣形態二つの姿を持ってるんだけど、その獣形態の時のぬいぐるみだね
虎の体に猿の顔と腕、尻尾には蛇。 デフォルメされててすごく可愛いね
もしかしてウツロちゃん、こういうの好きかな?
「私のはこれですね」
テュネがもらったのは花の蜜から作られたハチミツ。 それもさっき花畑で蜜を吸った時の花だ
ハチミツかぁ、これは妖精たちへのおみやげにしよう。 テュネもそうしたいって言ってるしね
「リディエラ様~」
あ、フーレンが戻って来た
フーレンは黒い的に降りたみたい。 交換所でもらったのは黒色宝珠という宝石で出来たペンダントだ
驚きの黒さだけど、吸い込まれそうな美しさがある
「私はこれでした」
いつの間にかアスラムも戻ってきてて、その手には鵺族の里特産品である真珠タケノコが袋に入れられて下がっていた
「すごく立派なタケノコですね。 これもお土産にしてはどうでしょう? カスミ達も喜ぶと思いますよ」
アスラムが自分の引き当てたタケノコを妖精たちへのお土産としてテュネの収納袋へと入れた
「リディエラ様! すごいものが当たりましたよ!」
大喜びでエンシュが戻って来た
その手には箱がしっかりと抱えられている
「なになに? どんなの?」
僕もワクワクして箱が開くのを見つめた
そこから出てきたのは、僕を模したよくできたフィギュアだった
「え? これ、なに?」
何で僕がフィギュアになってるんだろう? そんな疑問がまず浮かんだけど、そこから次々と違う疑問が浮かんだ
誰が? 何のために? どういった目的で? どこまで広まってるの? 誰が買うの?
いろんなことが頭の中をぐるぐると回った
「これ、鵺族の造型師が作ってる。 精霊様の国、訪れたとき、リディエラ様見て、作ったらしい」
そ、そうなんだ。 ってウツロちゃんもいつの間にか戻ってる!
「私、これだった」
ウツロちゃんは風船をもらったらしい
よく似合ってる
でも、不服だったみたいでがっかりした顔をしてる
「ウツロちゃん、これ」
ぬいぐるみをウツロちゃんにあげた
「い、いいの? 嬉しい」
静かに微笑んでる。 喜んでくれて何より
「あ、うう、もう二度と、やらない」
あ、クノエちゃんがフラフラの状態で戻って来た
「大丈夫?」
「だ、大丈夫、とは言い難いかな。 でもこれ見て。 良いものが当たったわ」
クノエちゃんがもらったのは幸運の丸薬というもので、飲むと一時間無敵の幸運が訪れるというすごいマジックアイテムだった
「それ、ここの一番の当たり。 おめでとう」
ぬいぐるみを抱えて満足そうな笑顔のウツロちゃんが一生懸命手を叩いている
抱っこしていい? ダメかな?




