7 妖怪族の国6
ナゴミちゃんは大分僕たちに慣れてきたみたいで、恥ずかしそうに声を出すことはなくなった
どうやら僕のことを気に入ってくれたようなので嬉しい
「リディさん、次は大庭園をお見せしたいです。 緑王の庭園と呼ばれていて、約500年前に植物人族一の庭師の方に作っていただいたそうです。 ベリフさんと言って、今でも様々な場所で庭園を造っているそうですよ。 そのベリフさんも異世界から来た庭師の方に庭園の作り方を教わったそうです」
なるほど、庭園って言われてるってことは多分日本から飛ばされた人から習ったんだろうね
「ここです! どうです? 見事なものでしょう!」
「ちょっと、ナゴミちゃん、ここまだ入り口、入らないと中見えないでしょ?」
あぁ、ナゴミちゃんどうやら気持ちが先に行き過ぎて入り口なのに中を見たつもりになってたみたい
落ち着こうね
「あわわわ、す、すいません!」
「アハハ、ナゴミちゃん可愛いね」
顔を真っ赤にしているのが本当に可愛いです
中に入ると見て回るうえでの注意をレクチャーされた
まず、ちゃんと道を歩くこと。 これは生えてるコケや植物を踏みつぶさないため。 それに砂や石粒を綺麗に撫でそろえているからその景観を崩さないためでもある
それと、心を穏やかにゆっくりとみること。 せかしちゃダメ。 わびさびを感じることこそが真髄なんだとか
「では、順路に従って進みましょう」
ナゴミちゃんを先頭にゆっくりと道を進んだ
まず目に入ったのはコケを使ったまるでアート作品のような場所
コケを張り付けて作った緑の美しい球体やトンネル、中には神獣を模ったような像まであった
トンネルはコケと土の香りで包まれる感じ。 隙間から木漏れ日が入ってくるからそれがまた目を楽しませてくれる
「あ、あの人はベリフさんの弟子のアズミナさんです。 ベリフさんの技術にほれ込んで弟子入りした一反木綿族の女性ですよ」
一反木綿族!? 初めて見る種族だ
その女性はしゅっとしたやせ型の女性で、肌や髪の色が恐ろしいほど白い
時折ふわりと浮いては庭園を踏まないように中空でコケや木々の手入れをしている
「アズミナさーん」
ナゴミちゃんが呼ぶと、アズミナさんはこちらに気づいてフワフワとやって来た
「あららららら、ナゴミちゃんではないですか。 今日はお友達もご一緒なのですねぇ」
柔らかな話し方の人だね
なんだか周りをあったかい気持ちにしてくれそうな、そんな人だ
「そちらのお友達は、どこの人達? 初めて見る顔だけどぉ」
「え、えっとー、精霊様なのですが…」
「あららららららら、これは失礼いたしました! 精霊様とはつゆ知らず飛んだ失礼をば…」
「いえいえ、いいんですよ、気楽に話してください」
「あらららら、そうですか、じゃぁ精霊様、いつもお恵みをありがとうございますぅ」
ぺこりと頭を下げるアズミナさん。 そういえばこの土地も僕たちが加護を与えてるんだったね
次に加護を与えるのは百年後だからまだまだ先だよ
「では精霊様、私はお仕事に戻りますぅ。 どうぞごゆっくり楽しんでくださいねぇ。 あ、それとですね、この庭園の出口、外に出ていただきますとねぇ。 栽培された食用ゴケの料理を出すお店があるのですよぉ。 そこ、私のおすすめなのでぜひ行ってみて下さいねぇ」
そうにこやかに笑ってアズミナさんは仕事に戻って行った
コケ料理か、これはいいことを聞けた。 ぐふふ、おっとよだれが…。 まぁ涎は体の構造上でないんだけど
「この先は岩と砂、それに松を植えた庭園です。 砂に描かれた波模様がとてもいい調和になってるんですよ」
来てみるとなるほど、なんて美しい波模様
計算されつくしたかのような見事な曲線に岩や木がマッチングしている
ここは一か月に一度ベリフさんの弟子の庭師さんたちが模様を描きなおしているらしい
次は松の木や桜の木を針金で曲げて成長させた大きな盆栽を植えている庭園
僕にはよく分からなかったけど、アスラムは何やら理解しているみたいだった
「なるほど、一見植物を傷つけているように見えますが、これは植物の更なる生命力を引き出すための、いわば修行ではないのでしょうか。 ここの植物たち、誰も彼もみな輝いています。 自分に自信を持っているようです」
アスラムの言葉を聞くに、ここの植物たちは人間で言うところのボディビルダーのようなものみたいだ
彼らは自分の体に自信を持っている。 らしい
それから一時間ほど庭園を回り、出口が見えてきた
その出口では緑茶を配っている。 この近くでお茶の栽培をしているからみたい
「む、これ、このお茶、すごくおいしいよ」
これ、最高級宇治抹茶に匹敵するような味じゃないか!
「すごく、美味しいですね。 私今までこのようなお茶を飲んだことがありません。 大抵が紅茶でしたので」
そっか、テュネたちもはティータイムにいつも紅茶を飲んでたね
「でも緑茶も紅茶も同じ葉っぱからできるんだよ。 たしか」
「え? そうなのですか?」
「ええ、そうです。 ここの茶葉は紅茶の原料にもなっていますね」
ナゴミちゃんも知ってたみたいだね
「さて、それでは先ほどアズミナさんが言ってたコケ料理店に行ってみましょう。 実は私も、その店は初めてなので、少し楽しみなのです」
うん、ウキウキしてるナゴミちゃん可愛いです
妖怪いっぱい出すの楽しいです




