2 獣人の国11
あたりはすっかり暗くなっていたが、月明かりと魔法の明かりで道は照らされていた
周りの森林は真っ暗なせいか少し不気味に感じるが、時折姿を見せる野生の神獣たちがまるで護衛のようについてきてくれているので怖さは全くなかった
中でもヒポグリフは夜行性ではないにもかかわらずずっと付き添ってくれている
まるで僕ら専属の護衛のようですごく頼もしい
しばらく森の中の街道を歩いていると梟のような声がそこかしこで響き始めた
ヒョーヒョーと響き渡るその声はまるでつかみどころがなく、幻聴のように聞こえる
右で聞こえたかと思えば上に移り、左、右斜めと移動する
かと思えば森全体に聞こえることもあり、一匹なのか複数なのかもわからない
しばらくその声が響いていたが段々と止み、ついに目の前で一匹が鳴いているだけとなった
見上げると、木の上に何かがいる。 その二つの瞳が光りこちらを見ていた
「あれってもしかして」
「セルズクですね~、どうやら私たちを歓迎しているみたいですよ~」
と、鳥に詳しいフーレンが答えた
姿を現したセルズクは小さい、手のひらに乗るサイズだろう
フワッと僕の肩に降り立つと目を細めて頬ずりし始めた。 可愛い!!
まるで僕を親のように慕っているので不思議に思っているとフーレンが笑いながら教えてくれた
「実はですね~、その子、私の眷属なんですよ~」
驚いた。 どおりであまりにも懐くと思った
というか鳥系の神獣や幻獣は皆眷属なんだそうだ
さすが風の精霊
なかなか見られないことで有名なユニコーンもセルズクも見れた
本当にここに来てよかった
夜も更けてきたのでその日は公園内にある宿泊施設にて一泊することにした
この施設、申請すればおとなしい小動物と一緒に寝ることも可能なのだ
これはもう申請するしかない。 もちろん申請したのはセルズク
施設の人も常連も観光客もみんなものすごく驚いていた
セルズクが人前に出るのももちろんのことだがそれが僕の肩に止まってスリスリしているのだ
誰もが口をあんぐり開けていた
一応神獣なので手続きに時間がかかったが無事申請は通った
一緒に寝れると僕は飛び跳ねて喜んだ。 なんだか周りに見られているのが気恥ずかしいけどね
ご飯はこの土地で取れる野菜やお肉を使った料理
マンドラゴラのスープやロック鳥の串焼き、エアロワイバーンのステーキにプリズム草という草を巻いたものなど、結構豪勢な夕食だった
おなか一杯食べ、皆で温泉に浸かると急激に眠くなってきた
体は子供なので本当なら寝ている時間だからしょうがない
ウトウトしているとエンシュが僕を運んで部屋に連れて行ってくれた
そっとベッドに降ろされると夢の中へ夢の中へと行ってしまった
翌朝、騒がしい喧噪の中目が覚めた
何やら危険地区の方で問題が起こったようだ
僕らは急いで荷物をまとめて着替えると外に出た
そこには施設の職員と公園の管理人たち、そしてベテランそうな冒険者が数名集まっていた
話を聞くと、危険地区からキメラの亜種が脱走し、幻獣地区で大暴れしているのだそうだ
通常のキメラならCランクなので幻獣地区の職員でも十分対処できるらしいけど、今回飛び出したのは亜種だ
そのランクはSランク相当になるらしい
亜種と通常種でここまで力に差があるのは珍しいらしく、突然変異したものだという
現在公園内にいるSランクの職員は数人で、キメラがあけた穴から危険な魔物や魔獣、幻獣が出ないよう対処しているようで、キメラに手が回っていない
だから優秀な冒険者を募っているようだ
命の危険もあるのでランクは当然A~Sランクだ
ただ、今ここに観光に来ている冒険者は最高でもBランク、歯が立たないのは明らかだった
僕たちを除いてね
そう、僕らなら止められる
最上位精霊の僕たちはSランクなんて枠組みから逸脱している。 それこそ神に近い力を持っているのだ
当然キメラの亜種くらい簡単に制圧できる
でも今幻獣地区に行けるのは職員とAランク以上の冒険者のみ
だから僕らは誰にも見えないところで元の精霊の姿に戻った
そう、精霊を崇拝し、共に生きるこの世界なら精霊がこういった事態を解決しても問題ないはず
そのまま職員たちが固まっている場所に降り立った
あたりは当然騒然としたけどそんなことに構っている暇はない
「みなさん、キメラはどこですか? 私たちが鎮圧してきます」
テュネの問いに職員は
「精霊様が!? それは頼もしいです! ついてきてください」
と答えた
僕らはその職員について行く
最上位の四大精霊と精霊王女が行くのだ。 みんな安心しきった顔をしている
彼らのため、この公園の動物たちのためにも頑張らないとね!




