聖竜さん神竜を目指す 終
頭がぼんやりとする
目が、見えない
周囲の音がだんだんと聞こえなくなっていく
そのまま僕は気を失った
「リディちゃん、無理をして…。 ゆっくり休みなさい」
僕は母さんに抱えられている
「くそ、くそ!」
龍のリーダはまだ生きていた
破れた翼をたたみ、立ち上がる
リディエラの攻撃は急所を避けていた
「精霊、程度がぁ!」
龍のリーダーは周囲にある部下の死体を喰らい始めた
一心不乱に、ただ死体を喰い続けた
「ぐぐ、がぁ、グジュル」
不気味な咀嚼音が周囲に響く
恐ろしいほどのスピードであっという間に喰らいつくし、立ち上がった
「ぐ、ハハ、コレで、貴様らを、ゴロせる!」
リーダーの体が段々と大きくなり、山のような巨体になった
「闇に、飲まれています。 これはまるであの時の黒族と同じ…」
女王はリディエラを抱えて後ずさりをする
「女王様をお守りするんだ!」
エンシュの掛け声で精霊たちは女王の周りを固めた
「俺たちも精霊女王様を守るぞ!」
シュロンは部下の魔族たちに声をかけ、巨龍の前に立ちふさがった
「ムダ、な、コトを」
巨龍は口を開いた
「ブレスか! 供えろ!」
精霊と魔族、そしてガンドレが結界を張った
何重にも張られた結界
ブレスはそれをやすやすと砕いて行った
「ぐぁあああ!」
シュロン含め、魔族たちが吹き飛ばされ、ブレスが収まったころには精霊たちも地に倒れ伏していた
唯一立っていたガンドレは女王の盾となり、自らの体でブレスを受け止めていた
「女王、様、大丈夫ですか?」
ボロボロで、体中を焦がしながらも彼は倒れなかった
「ガンちゃん!」
女王はガンドレの傷を治癒魔法で癒した
倒れていた精霊たちもなんとか直撃を避けていたため無事なようだ
問題は魔族たちだ
シュロンは右腕を失い、その部下たちには死傷者が出ている
威力を押し殺したものの、直撃を受けてしまったのだ
「ひとまず魔族の方たちを助けるのです!」
立ち上がった精霊たちは倒れ、苦しむ魔族たちを回収して後ろに下がった
そこにブレスの第二波が遅いかかかる
「させるか!」
ガンドレがまたしても身を挺する
結界を張るが、あっさりと崩れた
ブレスが直撃するが、それでも引くことなく立ち向かう
「ぐ、おぉお」
ガンドレの身が焦げ、崩れていく
ブレスが終わったころには、黒く炭化したガンドレが立っていた
かろうじて息はあった
「まだ、倒れねぇ、ぞ」
黒く焦げた腕と翼を広げ、後ろの精霊、魔族、女王を守る盾となる
「フン、次で、シトメる」
また口を開き、ブレスのために息を吸い込む
「アイスブロック!」
テュネがその口に氷塊を突き刺すが、あっさり噛み砕かれた
「合成魔法、フレアストーム!」
エンシュとフーレンで合成魔法を放つが、巨龍のうろこを軽くあぶった程度だった
「ウットウ、しイ」
巨龍の尾が振られ、テュネたちを弾き飛ばした
鋭い衝撃が四体を襲う
「あっ!」
四体は倒れ、起き上がることができない
「サテ、後はキサマと、ジョおうのみ」
ブレスを溜め、放つ
「ぐぅ、うぉおおおお!!」
最後の力を振り絞り、女王を守る
最早結界も張ることもできず、その身でブレスを受けた
両腕が崩れ、足が吹き飛び、うろこと皮膚が焦げてはがれていく
それでもガンドレは女王を必死でかばう
「じょ、おう、様、俺はもう、ダメだ。 王女を連れて、逃げ…」
(まだあきらめないで)
ガンドレの頭の中に声が響いた
その声に呼応するかのようにガンドレの目に光が戻った
(あなたに力を、お願い、私の姉様を守って)
その声は優しく、癒されるかのようだった
力が湧く
体が動く
まっすぐ前を見ると、未だブレスをはき続ける巨龍
腕が戻っている
足が戻っている
ガンドレの体はまばゆく輝いた
「力が、溢れてくる?」
もはやブレスによる痛みは全くない
傷も癒えている
白かった体は白銀に輝いていた
ブレスを片腕で受けつつ前進していき、巨龍を殴りつけた
その一撃できょ巨龍の頭がはじけ飛び、地に伏した
「俺は、どうなっちまったんだ?」
「それは…。 なるほど、あの子の力ですね」
何かを悟ったような女王
「女王様! 大丈夫ですか?」
「えぇ、おかげで助かりました。 それより、魔族の方たちの治療を」
ガンドレはすぐに分かった
体からあふれる力で魔族たちを一気に癒した
蘇生まではできなかったものの、死にかかっていた魔族たちは目を覚まし、腕を失ったシュロンも腕が元通りに生える
「ガンドレ、すまん、世話をかけた。 それにしてもその姿は…」
白銀に一回り小さくなった体
しかし魔力はあふれている
「ガンちゃんは神竜になったのです。 おそらく力の女神エイシャの力でしょう」
力の女神エイシャはその名の通り、力を司っている
数ある神々の力を使え、その力を分け与えることもできる
ついにガンドレは神竜となり、精霊女王を守る守護者となった




