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ただのほったん

「テツさん。この殺しのホシ(犯人)はどんやつなんですかね?」


「ん~?」


警察署内の喫煙室にてタカさんと呼ばれた高梨(たかなし) 哲也(てつや)は後輩の鹿島(かしま) (ひとし)の質問に気怠そうに返事を返す。

二人は警視庁捜査一課に所属しており、高梨は地域課から異動してきたばかりの鹿島の面倒を任せられていた。


「昨日のホームレスの殺しの件ですよ。あれは絶対、人間の仕業じゃあないと思うんです。だってあんなの普通じゃないですよ。」

昨日起きた事件というのは、6月2日の夕方に公園に住んでいたホームレスの男が自身の段ボールハウスにて半分ほど腐った状態で見つかった件である。その死体は目や舌、内臓といった部位がごっそりなくなっており、まるでアジの開きのように胸部から下腹部まで皮が大きくめくれた状態で発見された。

現場には酷く暴れた形跡があったため、凶悪事件を扱う捜査一課に捜査の依頼が来たという訳だ。


「いや、内臓がないのは動物が荒らしたかもしれん。しかも死体に結構虫が湧いていたしな。やつらは死臭に敏感だから。」


「僕は宇宙人とかにやられたんだと思いますよ。去年も地域課に居たときに動物の内臓だけがなくなったとかの通報とかありましたから。大方、UFOに乗った宇宙人が地球にやってきてキャトルミューテーションしてるんですよ。」


「馬鹿、映画の見過ぎだ。お前はすぐに影響を受けるんだから。お前の荒野のガンマン事件もそうやって起こしたんだろうが。」


「もう4年も前の話じゃないですか...」

がっくりうなだれながら鹿島は吸っていたタバコを灰皿でもみ消すと、新しくタバコを取り出して火を点ける。

「家でモデルガンを使って何年も練習したんですけどねぇ。」

荒野のガンマン事件とはこの馬鹿(鹿島)が起こした拳銃の暴発事件である。配属当時に渡されたばかりの拳銃で西部劇のガンマンよろしく、ガンプレイをしていたところ手元から落として銃が暴発して始末書を山ほど書かされたということであった。


「なんでこんな馬鹿な後輩の嫁さんとウチの嫁が幼なじみなんだか。」

哲也は肩をすくめるとため息をついた。


「まあ、まあ、良いじゃないですか。ところでテツさん、ホームレス殺しのホシの目星とかついてないんですか?」

鹿島は自分が批難される話題を避けて別の話題を持ち出す。


「犯人はたぶん男だ。おそらく年は青年から壮年期で単独か複数か分からん。あとは特定の虫が好きってことぐらいか。」


「なんでそんなことまで絞り込めるんです?」


「死体の検案書をよく読め。ホームレスの男を正面から何回も床に叩きつけている。しかもこいつは無くなった臓器から逆算しておおよそ87キロもあるから女子供、年寄りには犯行は難しい。特定の虫が好きだって言ったのは、被害者の体にウジとかに紛れて潰れた虫がこびりついていたからだ。おそらく犯人の持ち込んでいたものが被害者と争った拍子にでもこぼれて潰れたんだろう。」


「へぇ~、そんなことまで読み取れるんですねぇ。でも争って虫が潰れてたって、なんかまるで黒男(クロオトコ)に襲われたみたいですね。」


黒男(クロオトコ)だって?」

哲也は吹き出しながら続ける。

「お前、西部劇の次はホラーか?ガンマンの次はハエ男にでも変身するつもりか。」


「いや、これ結構地域課で話題になったんですよ?ある小学校じゃあ集団下校とかにもなりましたし。」


「そんなモンスターなんざは居ないさ。居るのはいつも、イかれた変質者だけだ。」

そう言いながら高梨は椅子から立ち上がる。


「テツさん、禁煙よく続けられますね。もう半年ぐらいでしたっけ?」


「娘に臭いって言われたからな。そんなことを言われたらショックで吸う気になれんさ。」

そう言い残すと哲也は家に帰るために喫煙室を後にした。

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