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ただのひらめき

捜査本部に戻った哲也は、課長を始めとした面々から質問攻めに遭う。


「どういうことだ。」

「テツさん、大丈夫でしたか?」

「詳しい状況を...」

「気づいたことはなかったのか。」


そういった質問の中で、哲也の心に突き刺さったのが

「彼女をどうにかして救えなかったのか?」

というものであった。


 もし、直前に彼女の異変に気づいていたら、彼女を救えたかもしれない。

いや、せめて彼女の母親だけでも救えたかもしれない。


だが、しかし遅すぎたのだ。2人は灰となり、何も言葉を返してはくれない。

周囲は哲也のことを純粋に心配してくれていた。ただ、巡り合わせが悪かったのだと。むしろ、哲也が強硬手段に出たからこそ、被害はあの2人だけで済んだのだと言ってくれる仲間もいた。


 そんな状況に哲也は罪悪感を感じていた。

だからこそ、この一連の惨劇に関与しているであろう”鍋島 めぐ”を早く見つけなくては、と強く胸に感じるのであった。



暫く、無言で座っていた哲也だったが、音もなく立ち上がった。

そのまま鹿島の前に行くと、A4の白紙を机に置く。

「鹿島、今、分かっていることを全て整理するぞ。」



「テツさん、本当に大丈夫なんですか?」



「ああ、問題ない。」

そして哲也はボールペンを取り出すと、箇条書きで事件を整理し始める。


・鍋島 めぐが自身の両親とペットを生け贄に、何らかの儀式を行った。(宗教への狂信?)



・これまでに事件現場で採取された虫のDNAと鍋島 めぐのDNAが一致していることから何らかの関係がある。




・一連の犯行は虫(ゴミムシダマシやその幼虫であるミルワーム)に覆われた化け物によって行われていたこと。




・化け物は”黒男”と噂になっており、通報によると昨年の秋頃から動物の不審死に関与している。そして行動範囲が広がっていること。




・”黒男”に普通の銃火器はあまり有効でないこと。




・今までの被害者は目や脳、内蔵といった臓器が持ち去られている。恐らく、”黒男”に襲われたときに虫たちに、喰われたと思われる。




・”黒男”は増える。今までに確認されたのはホームレスの男と佐伯さえき 佳奈かな2人。




「この中でも厄介なのは1番最後の”増殖”することだ。何故、この2人だけ化け物になったんだ?」



「何か、関連性があるんですかね...?」

2人して黙り、考え込んでいると、ふと何かを思い出したのか鹿島が口を開く。



「そういえば、テツさん。関係ないかもしれませんが。」



「なんだ?」




「例の鍋島 めぐの持っていた人皮本の和訳が終わったそうなんです。鍋島 めぐが行った儀式は”血族への誓い”だそうです。”汝、血族として我を求めん。贄を捧げよ。我、汝を彼の国に導かん”と書いてあったそうです。」




「”血”族だって?もしかしたら...」


哲也は鍋島 めぐ、佐伯 佳奈、ホームレスの3人分の資料を取り出す。


「やっぱりだ。ここを見てみろ。」

鹿島は哲也が指さした欄を見てみる。


「テツさん。3人とも血液型は、ばらばらですよ?どういうことですか?」



「いや、その隣の欄を見ろ。」

血液型の欄の隣に(-)と表記されていた。



「テツさん、もしかして3人とも...」



「ああ、Rh-だった。こいつは恐らくだが、Rh-の人間だと襲われたときに”黒男”になっちまうんだ。」



「良くこんなことに気がつきましたね?」



「俺の娘もRh-だからな。だからこそ、気づけた。」




そこから、捜査本部にて対策会議などをしていた数時間後の20時49分。

哲也と鹿島の2人の携帯が同時に鳴った。


それは、彼らの家族がこの事件に巻き込まれたと、告げるものであった。


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