ただの見栄
「あ~あ、もうこんな時間になっちゃったよ。ゲームをやる時間すらねぇ。」
今年度高校受験を控えた青葉 隆平は夜の10時を過ぎた頃、ようやく塾での自主学習(とは言っても半ば強制的なのだが)を終えて独り言をつぶやいた。
さて早く帰るかと思い、手早く荷物をまとめるとそそくさと塾を後にする。
愛車の自転車にまたがり、毎日が勉強漬けという現実から
「推薦が取れた先輩は遊んでばっかだったのになぁ~。でも俺は推薦が取れなさそうだし。」
「川で溺れた子供でも救って、警察とかに表彰されて、テレビにでも出れば一発で推薦取れねぇかな~」
そんなことばかりを考えて家路を急ぐ。
「キシャー!!!ギャキャー!!」
突然、閑散な住宅に猫の大きな鳴き声が走った。
酷くうるさい猫だ。どこかの猫が盛っているのか?
多少うるさいがよくあることだ。そう思った隆平は無視をして自転車を走らせる。
「キシャ!キグふhyふれっgyぎぇ」
一際大きな猫の鳴き声が辺りにこだますると、シィンと静かになった。
「あれ?」
隆平はそこでようやく異様な状況に気づいて自転車を漕ぐのを止める。
「そういえば、学校で猫を殺してる変質者がいるから気をつけるようにって先生に言われてたっけ」
逃げるか。
いや、
ここはヒーローになるチャンスじゃないのか?
そうだ。
ここで犯人を捕まえられたら表彰されるんじゃないのか?
隆平は近くに音を立てないように自転車を止め、スマートフォンを取り出してすぐに110番を押そうとして気づく。
「今通報して、もし勘違いだったら?」
そんなの赤っ恥だ。いや、そんなことよりも親や警察に怒られ、友人間にウワサされて笑い者にされる方が嫌だ。
犯人を見てから通報しても遅くないか。
そう考え、鳴き声がした暗い路地裏へと隆平は歩を進めた。