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ただのへんい

哲也が病室を出た頃、佳奈(かな)は体に妙な(うず)きとほてりを感じていた。


「お母さん、ちょっとトイレ...」

母は佳奈を優しく抱き起こすと、手を貸しながらゆっくりとトイレまで歩いて行った。



トイレ前まで着くと、佳奈は母に「ちょっと待ってて。」と言うと、フラフラとドアを開けてトイレへと中に入った。



個室に入ろうとしたところ、突然、立ちくらみが起こる。

立っていられなくなった佳奈は、洗面台の縁に手を着く。洗面台を覗き込むような体勢で動けなくなってしまう。



 「お母さん...」と佳奈が母を大声で呼ぼうとしたとき、不意に鏡が目に入る。

鏡にはいつも見ていた自分の顔が写っていた。しかし、何故だか今日は不自然さを感じた。


「なんだか、変...」


鏡に顔を近づけて、その不自然さを確認する。



「あっ」

佳奈はその不自然さに気づいた。気づいてしまった。

右目の下辺りが蠢いていることに。



震える指先でその蠢いている部分を押してみる。




にゅるん。





彼女の目からミルワームが一匹、洗面台に落ちた。

思わず、嫌悪感から洗面台と床に吐いてしまう。



その音が聞こえたのか、母親がトイレに入ってくる。

「佳奈、あんた大じょ...」

ここで母親の言葉が途切れる。




目の前で、自分の娘が大量の血を吐いていたのだから。

床に広がった血には、その朱に混じって、黒いものがぽつぽつと浮かんでいた。




大量の血を吐いていた佳奈の動きが止まり、伏せていた顔を母親に向ける。


「ひっ」



佳奈の顔は黒とやや茶色がかったオレンジに彩られていた。そしてそれらは、蠢き、ざわめいていた。



「オ...カア...サ...ン?」




その状態で、佳奈はゆっくりと母親に近づいた。

佳奈の母は腰が抜けてしまって動けなかった。


「あ...あ...」


 佳奈はそのまま母親に抱きつくと、そのままかぶりつく。

母親の断末魔が廊下にこだまする。



その声を聞いて駆けつけた看護婦は絶叫する。

黒い何かに顔が覆われた少女が、人にかぶりついているのだから。



絶叫はこだまし、連鎖する。たちまち、院内はパニック状態となった。




――その混乱を、ちょうど病院の入り口で鹿島と電話を終えた哲也は、聞きつける。

持っていた携帯電話で、警察に連絡しながら、パニックの元へと哲也は走った。



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