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ただのひがいしゃ

7月2日、この日、佐伯(さえき) 佳奈(かな)は自身が通うピアノのコンクールに参加していたのであった。

その日は、彼女の父である佐伯(さえき) (たけし)がコンクールを見に来ており、そのコンクールの帰りであった。



「ああ~、疲れたっ。」

助手席で佳奈があくびをする。無理もない。朝から緊張しっぱなしだったのだ。中学生の少女には少々大変だったのだろう。


「家に着いたら、起こしてあげるから。寝ててもいいぞ。」

父のその言葉に、ありがとっと小さくつぶやくと、少しして寝息を立て始める。


その寝顔を見ながら

「子供が大きくなるのはあっという間だな。」

と豪は小さくため息をついた。


 この日の夜は曇り空で、辺りはいつもより暗く感じた。その暗闇の中、豪は車を走らせる。

少しして、車が踏みきりで止まる。

「ここ、結構待つんだよなぁ。」

車のエンジンを切り、電車のバーが上がるのを待つ。



 しかし、なかなか電車が通り過ぎない。ふと、豪は横に気配を感じると、”そいつ”は立っていた。

体は黒く、蠢いた”そいつ”。

「えっ...」




”そいつ”は4分の1程開いた窓から、腕を突っ込んできた。

”そいつ”の黒い腕が豪の顔に近づく。

それは近くで見ると、無数の黒光りしたゴミムシダマシとその幼虫のミルワームが蠢き、ひしめき合っていた。ざわざわと無数の音が聞こえてくる。

腕が豪の顔に触れると、虫が顔を這いずり回る。



虫たちは豪の目を囓り始める。鼻や口に入り込み、コリコリと内部から囓る。

「うぇsfgkg!!!!」


豪は必死に虫を振り落とそうと暴れるが、次から次に這い上がってくる。

顔中を小さいノコギリで削られていくような感触を、生暖かさとともに豪は感じた。

次第に虫たちは肺の方まで侵入したのか、豪は血の泡を吐き始めた。


物音で、助手席で寝ていた佳奈が目覚める。

「お父さんっ!?」


佳奈が気がついたときには、豪の顔面が、黒く覆われ始めたときであった。

佳奈も父を助けるべく、虫たちを手で払う。


「痛い!」


虫たちは振り払おうとした佳奈の手にも齧り付く。

もうその頃には、豪は目から血を垂れ流し、さらには虫たちは脳まで達したのか、耳と鼻からも血が滴っていた。豪は既に意識がなく、プルプルと細かく痙攣していた。


「ひっ」


佳奈は父が助からないことを察し、逃げようとシートベルトを外そうとする。しかし、焦っているせいかなかなか外れない。


”そいつ”は豪から佳奈の方に、身を乗り出す形で迫ってくる。


「いやっ!助けて!」

佳奈は必死に助けを求めて叫んだ。”そいつ”の腕が肩に触れる。虫たちが佳奈の肩を這いずり回り、肩の皮膚が囓られる。皮膚の下を何かが動き回るのを、佳奈は感じた。


もう死ぬんだ...と、佳奈が叫ぶ気力を無くした時、乾いた銃声が3発、住宅街に響いた。


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