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ただのうわさ
「いや、本当だって!」
もうすぐ下校時間で夕闇の迫っている中、少年は同級生に囲まれて興奮しながら喋っている。
「何がよ?」
周りの友人の冷ややかな視線などものともせずに、早口でややどもりながらも話し続ける。
「俺の兄貴の友達が見たんだって!」
「噂の黒男を!」
「ウソだろ!?」
「きゃあ!」
「ただのウワサじゃないの?」
「いついつ?どこで?」
「ホント!?」
今までやや冷めた調子で少年の言葉を聞いていた同級生たちは黒男の名前を聞いた途端、口々に少年に質問をし始める。
「こいつは先週の水曜のことなんだけどさ。」
少年はまるで自分の武勇伝を語るように、大仰に身振り手振りをつけながら話す。
「俺の兄貴の友達は隣の昭島市の塾に通ってるんだけどな...」
「その帰りに見ちまったんだって。」
「例の黒男を。」