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素手技特化の異世界転生者  作者: NM
第一章 疑われて
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第4話 「見た目とのギャップ、そして俺の名は…」


 街で起こした騒動によって城の内部に連行することになった柏尾。

 現在俺は地下室の一室にて、身柄を拘束される事態になっている。

 檻に入る際に囚人をチラ見したのだが、確かに囚人の着ている服と自身の作業着は色もデザインも殆ど似ていた。

 囚人と間違えられても仕方がなかったかも知れない。


 しかし何故蒼髪の少女シルムと紫髪のエルヴィールは怪しい見た目の柏尾に気を使ってくれたのだろうか。それだけが疑問だった。


 「異世界に来て、初日からこれかよ。ついてないぜ」


 寝泊りする部屋が息苦しい牢獄とは、気が滅入る。とはいえ、一文無しだったので雨がしのげて食事も出るのも正直言うととてもありがたい。

 だがこれからどうするかは、また別問題だ。


 「部隊長に手を上げてしまったんだ、こうなって当然だろう」


 「そうだけどさ、殺されかけたんだからしかたないじゃんかよぉ。それに冤罪なんだぜ」


 「なんというか、ご愁傷様だな」


 部屋の死角から聞こえてきた声に返事を返すと、声の主の見張りが檻の前へとやって来て皮肉を漏らす。


 「捕まっちまったのは、災難としか言えないが。内心ではあんたに感謝してる兵士も多いんだぜ」


 「慰めのつもりか?これからの人生がどん底の俺に」


 「そうじゃない、本当さ。最近の部隊長は手がつけられなかったからな」


 「…どういうことだ?」


 絶望している自分に掛かる慰めの言葉、それを見張りの兵士が否定し、話を続ける。


 「最近西と南で争いごとがあっただろ、獣人族と機械種族のエルフ達の人権を掛けた戦争がさ」


 「あぁ、あったな」


 西のヒズアードと南のケルコアスで争いごとがあったのは事前にギルドで聞いてはいたが、何族が何のために戦っていたのかは知らなかった。故に返答しつつも心の中では驚いていた。


 「あの争い自体はすぐ終結しそうだったんだが、後から魔族が介入したせいで事は悪化してエルフは比較的安全な東に逃げちまったんだ。だが一部は故郷に取り残されれ、魔族も機械種族と同盟を結んでるのが現状だ」


 「それが全て本当で争いの火種のエルフが東に押し寄せてきたとなれば、この国もヤバいんじゃないか?」


 改めて大陸全土の状況を知り、不安が募る。東側を拠点に冒険するなら、いずれエルフとも出会うだろう。

 しかし、多種族が友好的とは限らないのでエイセムに滞在するのも不安がある。

 柏尾が思い悩んでいると兵士は不確定要素を否定する。


 「いや、国境のおかげでどの勢力も下手に手出しは出来ないんだ。…お偉いさんに感謝しなくちゃな…そして隊長の問題はこの先からだ」


 国の安全が保障されたのちに、兵士は元々の原因と話を合わせる。


 「部隊長の友人が西南で行方不明になっていてな、あそこは激戦区なんだ。だから焦って最近ピリピリしてるんだ。どうにかなる訳じゃないのによ」


 「………」


 「あんたのおかけで、少しは頭が冷えただろう。礼を言わせてくれ」


 冤罪を被せてきた相手とはいえ、事情を聞かされては少しでも同情する気になってしまう。礼を言われる筋合いもない。


 「随分…部隊長とは親しいみたいだな」


 「んにゃ、ただの気まぐれみたいなもんだ。気にするな」


 明らかに情の篭った語り方だったが、詮索する気は無い。兵士には兵士なりの関係があるのだろう。

 見張りの兵との会話が終わった頃に、別の兵士――重装兵が鎧から音を鳴らし重々しい足取りで階段から降りてきた。


 「どうした」


 「この男の処遇について王より大広間にて話があるとの事です、連れて行っても構いませんか?」


 「そうか、どうぞ好きにしてくれ」


 重装兵の方が身分が高そうに見えるのは偏見だろうか、軽装の見張りに頭を下げるあたりに違和感を覚える。

 いよいよ処遇が決まるのに目の前の光景を見て、心は何処か落ち着いていたのだった。




 ○  ○  ○  ○  ○  ○  ○  ○  ○  ○  ○  ○





 大広間に連れてこられ、玉座の前に立たされる柏尾。

先方の派手な椅子には誰もいない、周り一帯に視線を移動させるが移るのは玉座とは相対照的な落ち着いた雰囲気の内装と複数の兵士がいるのみ。


 しばらくすると左手奥のドアから薄い金色の髪が美しい水色のドレスを揺らす美体系のおさげの少女が出てきた。


 「お呼び出ししたのに、お待たせしてしまい申し訳ございません」


 「―――」


 驚いた、王様では無く女王様だったのか。王冠を被り、髭を生やした肥満体系の男を塑像していたので良い意味で裏切られた気分だ。


 「あなたがこの国の王でしょうか?」


 「いえ、私は王が不在のため代理で参りました、名をフルリア・リヌアールと申します。以後見知り置きを」


 違かった。折角心が晴れていたのに、今度は悪い意味で裏切られた。

 代理ということは、王から命を預かってきているのだろう。お慈悲はなさそうだ。

 だが、


 「王はしばらく戻られませんので。今回は私が変わりに貴方様の処遇を決めさせていただきます」


 「は、はい。お願いします」


 おっとりとした声質でやさしく言われてしまったので、何故かお願いしてしまった。

 もしかしたらと…思い、少しだけ期待してしまう。


 「事情は街の方々や兵から聞かせて頂きました、――申し訳ございません」


 「え?」


 言い逃れを諦めていただけに、薄い色の金髪の女性頭を下げて口から出す謝罪の言葉に驚き、柏尾は眼を見開く。


 「兵士の方々には穏便につれて来て頂くように話していたのですが、貴方様の容姿を見たクロムエルスさんが囚人と勘違いしてしまい、襲いかかってしまったお聞きしました」


 クロムエルスというのは、さっきギルドで倒した厄介な部隊長のことだろう。

 薄い金髪の女神のような少女、フルリアがその後の展開を語る。誤解も解けたようでよかった。


 「あ、兵士の皆さんありがとうございました。ここからは二人だけでお話がしたいのですが…よろしいでしょうか?」


 「御意」


 フルリアが笑顔でそう言うと、兵士達が後方の扉から部屋を出る。

二人きりになるとフルリアが再び口を開く――


 「では、本題に入りましょうか」


 「…本題?」


 今後の処遇については、無罪釈放されるという話になった筈なのだが…。どうも相違雰囲気じゃない。

 そもそも何故連れて来られる予定だったのか分からない。


 「まずは、貴方のお名前なのですが…」


 「ああ、俺は倉崎柏尾です」


 何かと思えば名乗れと言われた。この世界に漢字や日本語の概念が有るかは分からないが、柏尾は日本に居た時の姓と名を名乗る…が、


 「そうですか、それではこれからの貴方の名前はカーシオ・クラーサにしますね~」


 「へ?」


 思わず素っ頓狂な声が出てしまった。自分の名を名乗ったら、西洋人のような名前で呼ばれた。というか、命名された。


 「ちょと待――」


 「決めました、もう変更は出来ませ~ん。住民票に登録しちゃいました~」


 「早ッ!」


 怒涛の勢いで話を進め、主導権は渡さんとする薄い金色の少女フルリア。

 柏尾…カーシオの中のフルリアの印象がこわれる。

 彼女は更に話を進める。


 「今日から、この街で暮らして下さい。そうして下さい!―――でないと召還したあなたを私の暗黒の力にて混沌の世界に引きずり込むしか――」


 「――ッ!?」

 

 小声で何か今聞こえた!聞き逃せない大切な事を聞いてしまった気がする!とんでもないやつだコイツ!神聖な見た目に似合わず暗黒の力とか言い出したぞ!?

 

 ここ最近一番の衝撃の事実を聞いてしまって、心の声まで荒ぶりだしている。


 「ちょっ、あんたかよ!この世界に呼び出した奴は!」


 「はて、何のことやら?」


 「とぼけんなよぉ、聞こえてきたっつーの!」


 最初はシラを切っていたが、柏――カーシオが反論すると薄い金髪の少女フルリアは諦めたのか「しかたがありませんね――」と言って、


 「ばれてしまったのなら…、本当の事を言うしかありませんね。―――私の名はフルリア・リヌアール!世界を救い、闇をもたらし大陸全土に希望と絶望を振りまく漆黒の黄金魔術師!貴方を呼んだのは他でもない、世を統べる忌々しき悪党どもに永遠に訪れる闇夜の空間の日々を送らせるため、共に戦いましょう。地獄の番犬よ!」


 「えぇ…」


 だめだ殆ど何を言ってるのか分からない。漆黒で黄金ってなんだよ、色々と矛盾しすぎだろう。

 なんといえばいいのか、こいつは残念な美人だ。性格どうこうではなく、中二病みたいなのが入っちゃってる。大人しくしてれば完璧だろうに…。


 「異世界に呼ばれてさぞかし不安なことだらけでしょう。しかしご安心を、これからは私がサポーターとしてお付きしますので。戦いのコツであったり、魔法の使い方だったりをお教えします!寂しかったらお話し相手にもなります、夜のお相手とかはちょっと無理ですけど…ほら、見た目が見た目ですし…。」


 「お、おう…」


 この先の異世界生活を手助けしてくれるという少女、気づけば口調が戻っている。あのしゃべり方がノーマルだったら完全に詰みであったが、その心配はなさそうだ。

 話し相手が居なさそうに見られたのは心外だ、確かにまだ居ないが…。最後に吐いた言葉には内心ドキッとしたが、見た目が幼い少女に手を出すのは流石にアウトだ。歳だって恐らく自分より下だろうに、とんでもないことを言い出すものだ。

 

 正直、協力者がいるのは心強いので若干引き気味ながらも好意を受け止める。

 

 「じ、じゃあお言葉に甘えて。サポートしてもらおうかな」


 「わっかりました~、それでは早速参りましょうか!」


 「え、ど、何処に?」


 「決まってるじゃないですか、冒険の旅ですよ!ボ・ウ・ケ・ン!」


 テンションが上がっているのか、そそくさと大広間を後にしようとする笑顔のフルリア。その足取りはとても軽い、余程冒険が楽しみなんだろう。自分はのんびり暮らしたいのだが…。

 だが必要な経費を稼ぐため、と割り切って覚悟を決める。


 「その格好はまずいですから、先に着替えましょうか」


 「そうだな、また犯罪者扱いされるのはごめんだからな。だが、着替えはどうしたらいいんだ?生憎金は持ってないぞ」


 「大丈夫ですよ、言ったじゃないですか貴方をサポートするって!」


 それだけ言うとフルリアはついて来いと、言わんばかりにこの場を立ち去る。

カーシオは笑みを浮かべる少女を追いかけて問う、


 「お、おい、何処に行くつもりなんだ」


 背後を歩く人物の問いに振り向き彼女は足を止めずに答える。


 「暗黒の(わたしのいえ)です!」


 彼女は嬉しそうに言ったのであった――――




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