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素手技特化の異世界転生者  作者: NM
第一章 疑われて
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第3話 「濡れ衣故の底力」

 「――なっ、お、俺か!?その悪党ってのは!?」


 「そうだ、貴様のことを言ってるんだ。見れば分かるぞ!」


 突如現れた帽子を被り、首元にネクタイをぶら下げるタンクトップ姿の男。腰には剣がぶら下がっている。

柏尾の身長は176センチだが、この兵士らしき男は自分を大きく上回るガタイの持ち主だ。190センチくらいあるだろうか、体格は一回り大きい。


 身に覚えのない罪を被せられている、抵抗しても大男の相手になるかすら怪しいところだ。


 だが思い出してみれば、女性を連れて行った怪しい奴と言っていた気がする――


 「それじゃあ、まるで誘拐をした奴が俺みたいじゃないか!」


 「そうだ、貴様なんだ。言い訳なんて聴かんぞ、全ては貴様自身の容姿が物語っているのだからな」


 「お、俺の格好が?」


 訳のわからない台詞を並べる兵士らしき男。話が見えてこない、先ほどシルムという少女も柏尾の服装について何か言いたげだった。

 指摘され、内容を聞く前に男が乱入してきたのだが。

 その続きも男の次の言葉でようやくわかった。


 「白を切っても仕方ないだろう、諦めろ囚人!」


 一瞬何を言われたのかわからなかった。無論その後だって何がなんだかわからない、目線の先の男は今なんと言ったのか。


 「…囚人?」


 「そうだ囚人。脱獄した上に囚人服のまま堂々と早速罪を犯すとは根本から腐ってやがるな!」


 「ちょっと待て、俺は囚人じゃない!この服だって作業服なんだ。」


 慌てて冤罪を示そうとする柏尾。周りに助けを求めようにも男の話を聞いた人々は、助け舟を出してくれるどころか敵対の眼差しを向けてきていろ。一部には興味すら持たないものも居るが

 

 「ハッ!もっとマシな嘘を考えるんだな、どっちにしろ逃げ道なんて無いんだがな」


 「………」


 周りの視線が痛い。

 無実の罪を突きつけられ、転生一日目にして牢獄行きで前科までつけられるなんてこの世界での生活の終了を宣告されたようなものだ。

 どうにか乗り切る手段は無いかと思考を凝らしていると横の少女が口を開く。


 「この方は、わたしを誘拐した訳ではありません。困っていたようですので。わたしが自ら案内役を買って出ました」


 「君がこいつと共に歩いていた女性か、弱みを握られているのか知らんがこの男に肩を貸す必要は無いぞ」


 「この子行っている事は本当だ、誘拐なんてしてないんだ!」


 「もう弁解は聞き飽きた、さっさと始末してしまうとしよう」


 二人の言葉は彼には届いていていないようで、話す価値も無いと判断したのか腰につけていた片手剣を構え、殺意を向けてきた。

 

 「牢獄行きどころか死刑かよ…、覚悟を決めるしかないのか…」


 冷や汗を掻くどころではない、自分の身に死の危険が迫っているのだ。

逃げるのは無理だろう、かといって大きく避けると周りが危ない。

 短い時間ながらもお世話になった恩人が居るのだ、危害を加えるわけにはいかない。立ち向かうしかないだろう、死ぬよりはマシな結果になる筈だ。

 意を決した瞬間男が突っ込んでくる、少女が止めに入ろうとするが、


 「―――ッ」


 「…待ちなさい、見ていたほうがいいわ」


 カウンターの奥にいた女性に呼び止められ、少女は足を止める。

 目の前の男性の死を確信していた少女は納得のいかない表情で戦いの行く末を見守る。

 

 剣と素手の決闘など結果は目に見えていた、そもそも決闘などいうレベルの戦いではない。圧倒的に素手の方が不利なのだ。

 だが、武器の有無もお構いなしに男は剣を振る。

それに合わせるように横の男性も前に進み、

 

 「――ふん!」


 掛け声と共になぎ払われる鋼の刃――

 しかしその刃は空振りし、空気を切る。


 「――ッ!」


 次の瞬間、振り払った剣先を見る男。

 しかし視線の先には真っ二つに切り裂かれるはずの人物はおらず、あるのは自身の振るう片手剣のみ。

 黒い影が見え、とっさに視線を下に移すが時すでに遅く、気づけば剣を握っていた右腕の甲が叩かれ、床に落とす。


 「いつの間に!」


 「悪いが刑務所はごめんだ!」


 「――ぐッ!」


 間一髪で、攻撃をしのいだ柏尾はダッキングの体制から頭突きをしてそこからプロレス技のの体制に組み替えるとそのまま男を掛け声と共に背面から床に叩きつける。


 「――ふん!!」


 「――ぬあぁ!」


 建物全体に地響きが鳴り、兵士の男が勢い良くフローリングの床に突き刺さる。

体半分までめり込む男性はピクリとも動かない。

 死んではいないだろうが、相手の生死よりも自身が繰り出した技の威力に驚いてしまい、それどころではなかったのだ。


 「え?なんだこれ…」


 柏尾は筋肉がそこそこあり運動神経も悪くなく、ボクシングやプロレスも見よう見まねで練習していたが、相手を地面に突き刺すほどの威力なんてあるわけが無い。

 少なくとも転生前の世界ではそんなことは出来なかった。


 だが現に、自分のやった目の前の惨事が証拠だ。


 自分でやって戸惑う柏尾だが、周りは更に驚き慌てふためく。

 ああ、言い逃れできないなこれは……。


 騒ぎを聞きつけ兵士が次々とやってくる。


 「な、隊長!?」


 少し反撃するつもりで倒してしまった相手は部隊長だったらしい。

逃げる隙も無くあっという間に囲まれてしまった。

 周りから剣が向けられる。…完全に終わった。


 兵の一人が声を挙げ――


 「付いてきてもらおうか――」


 こうして柏尾は連行されてしまった。

 異世界転生をしたその日に――




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