プロローグ
――異世界って剣士や魔法使いが最もポピュラーな世界だと思ってた。
普通はそう思うでしょ、いやそうだろう、魔法剣士や精霊使いとか騎士だって居るだろうし賢者とかだって探せばいるだろう。
世の中には様々な職種がある。なのに俺はよりにもよって旅人扱いだ、なぜならほとんどの武器がつかえないからだ。
まともに使えるのは盾くらいなもんだから、戦闘狂のパーティーに当然のように肉壁扱いだ。
「まったく、嫌になっちまうよ…」
「あなたが突っ込んだらそれこそ大惨事になるよ、彼らに怒られる」
毎回のごとく愚痴をこぼすが、知り合いの女性メンバーが突っ込みを入れる。
確かに初めて入るパーティーでは大体みんなが特攻するので、攻撃を加えずに防御するだけでいいの為に正直言って楽である。
しかし彼女が言いたいのはそういうことではない。
「まあ頑張ってるみたいだし気長に待とうか…」
遠くで奮闘するパーティーを遠目に休憩を取ることにする、誰も見てないから大丈夫だろうと、隣に女性が佇んでるのも忘れて芝生に横になる。
横を向けばジト目で見てくる小柄の女性が目に映るが気にしない。
そんないつものやりとりをしていると、遠くのメンバーが声をあげた。
「おい!魔物がそっちに行ったぞ、逃げろ!」
気が付けば魔物が後五メートルの距離に居た、遠目で見れば避けるのは難しいだろう。
ましてやこっちは寝転んだ状態だ。回避するのは至難の業だ、だがこちらも避けるつもりなど毛頭ない。
その場に居た誰しもが男の死を確信した。
次の瞬間――
男の血が飛び散るどころか魔物が宙に浮いていた。
斬られた訳でも刺された訳でもなく、五メートルは下らない魔物が一瞬にして空中に放り出されていた。
投げられたかの様に、否――実際投げ出されていたのだ。
「またやちゃったね、今回も叱られちゃうね」
事の一部始終を間近で見ていた彼女は残念にしながらもやさしく呟く。
遠くでこちらを見ているメンバーがこちらと魔物を交互に見て驚いている、そりゃそうだ剣や槍が使えないと言っている奴が回避するどころか投げ飛ばして倒してしまっているのだから。
とはいえ、やってしまったものは仕方がないのでメンバーの心が折れる前に街に戻る事としよう。
そして受付嬢には謝ろう、また冒険者が転職してしまうだろうから――
強さを求めて剣士や騎士になるのに、たかが旅人に力の差を見せ付けられてはやる気も失せるというものだ。
勿論熟練者は職種で人を判断したりはしないが、駆け出しの冒険者が躓くには十分だ。
駆け出し冒険者が――などと言っているが、実のところ俺自身も駆け出し冒険者なのだ。
他の冒険者と違うところがあるとしたら、一般的な武器は使えず、盾は例外らしいがスキルが素手技特化というところくらいだろうか。
そう、素手技特化なのだ、素のステータスが何を装備するよりも強いのだ――