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バレンタイン戦役  作者: 龍田蔦々
九州急襲編
8/11

福岡防衛戦 2

ちょっとがんばりました。

MLRS(マルス)、発射します。着弾予定地域から離れてください。繰り返します、MLRS、発射します――』

通常兵器であるMLRSだが、子爆弾を時限式にしたことで不発弾を無くし、足止め程度には使える。

『今のうちに装備を整えておけ!こっからは死戦だぞ!』

『『『了解!』』』

組町、灯、火採はショットボウ(ボウガンのような形をした多方向魔力銃)を、靴木はマスケットンと鞘付きのカタナをそれぞれ整備兵から受け取る。

『お前はまた近接か、靴木』

『ええ、まあ。ちょっとやりたいこともあるんで。』

『やりたいこと?……まあいい、今回は厳しいぞ。』

『いつものことです。』

そう言うと靴木は鞘の金具をクルセイダーの腰につけた。

『もうすぐ、始まります。』



『MLRS子爆弾、全弾爆破終了まで残り30、29、28――』

海岸線からCaCaOの咆吼が聞こえる。これでも大してダメージにはなっていない。

『MLRS子爆弾全弾爆破、終了しました。』

『突撃イイイイイイイイイイッ!』

『『『『『『オオオオオオオオオオオオオオオオッ』』』』』』

戦いが、幕を開けた。

聖釘部隊は一人一人分かれて大体等間隔に防衛につく。

駐屯部隊の一兵卒クルセイダー操縦士では(無論個人差はあるが)ブラックサンダー級は手に余る。大体2,3人でかからないといけない。なぜならクルセイダーの操縦は相当な技術と集中力が必要とされるからだ。

感覚的にはパソコンでゲームをしながら一輪車に乗っているようなものである。

それに対して特別独立部隊の隊員は全員が生え抜きである。クルセイダーを操縦しながら魔力を調整し機動力、攻撃力を上げているのだ。パソコンでゲームをしながら一輪車に乗り、加えて頭の中では微分積分の難しい問題を解く、ということをほぼ感覚的、反射的にしているのだ。

故に、一騎当千。しかし数は限られる。

今回はその戦力を最大限に活用するためには等間隔で配置するしかなかった。しかし、それでも最西はカバーできない。

だから、この戦いは一ブロックごと早急に戦闘を片づけて他の応援に行くことが、勝利の鍵だ。



「ハァァァァァァッ!」

ダンッと踏み込み横薙ぎに一閃、それだけでブラックサンダー級は屠られてしまう。

しかし数で勝る敵に靴木は多少の不安を隠せない。

「(数が、敵が多すぎる……。)」

数というものはそれだけで不安を煽る。倒しても倒しても終わらない戦いほど絶望的なものはない。ゾンビと戦っているのと何ら変わりないからだ。

最初は士気を鼓舞できても、戦闘が長引けば長引くほどその効力は落ちる。

しかしそれも――

『皆さん!私も戦わせていただきます!』

『なっ、司令官!?』

勇田が司令官機で登場しなければの話ではあるが。

司令官機に武装はほとんどついていない。そもそも司令官機は、迅速に逃げるためのクルセイダーなのだ。

靴木は司令官を背後にかかえながら、通信チャンネルを変えて専用回線にする。

『司令官、あんたアホですか!?』

『む、靴木君に言われる筋合いはありませんねぇ。報告書を読みましたが、都城では無茶な戦いをしたそうじゃないですかぁ。』

『あれはまだ勝てる戦いですッ!武装もないんじゃ勝てる戦いも……』

ここで靴木の頭で何かがひらめいた。

『……司令官、ほんとにアホですか。』

『私は私ができることをしているだけですよぉ。』

勇田はそう答えた。武装もなく弱い己を守らせるために戦わせることで、指揮を上げる作戦だ。

ある意味、おとり。前線に出てきて自らの意志でお荷物になる司令官など聞いたこともない。

だが、今回はその案に乗る。

チャンネルを戻して無線機に叫んだ。

『皆さんっ司令官を守るために、戦ってくださいッ!』

『おうッ、いくぞお前ら。H-113小隊の底力見せろやぁ!』

無線から威勢のよい声が多数聞こえる。少し前より少ないものの。

チャンネルを専用回線に合わせる。

『大成功ですね、司令官。ひどい人だ。部下を死地に笑顔で向かわせるなんて。』

『それも、司令官の仕事ですぅ。』

勇田は自嘲気味に笑った。

敵は、まだ尽きない。

『何か、違和感を感じます。』

『ん?どこがですかぁ?』

『いや、ほんの少しなんですけど……統制があるんです。規則性というか……。』

通常のCaCaOに統制はない。ほとんどは動物的勘で動いている。

しかし、希に自分より上位のCaCaOに従うことがある。靴木は今回、それを疑っていた。

出撃する時点でゴディバ級以上のCaCaOの存在が認められなければ『外典』の使用は許可されない。故に今回組町はミョルニールを装備していなかった。

そんな状況でまた前回のような敵が現れたら……駐屯部隊はもちろん、市街地、基地も危ない。

それを、危惧している。

『どんな敵でも、僕が倒します。』

靴木は自分に言い聞かせるようにそう言った。

『この刀にかけて、必ず。』



どちらの数も半分くらいになった頃。

最西は全滅されたものの、そこをカバーした火採が何とか抑えてさらなる被害は免れた。

しかし、変化が現れ始める。

『CaCaOが、撤退していく?』

『これは……どういうことだ?喜んで、良いのか?』

『皆さん、落ち着いてください!ここは一旦態勢を立て直し、状況を確認しましょう。』

その呼びかけに対して、徐々に状況が判明してくる。

残存クルセイダー数、52機

全地域でCaCaOの謎の撤退行動を確認。

残存敵数、推定100体

『こりゃ、どういうことだ?』

『また来ます、なんてことはないよな?』

『いや、あるだろ』

『どうにせよ、我々H-112小隊の敵ではない!』

『るっせぇウチの小隊の方が強いし!』

『う、ウチの隊長も強いです!し、しかも格好いいし……』

確認すればするほど現場は混乱し、意味の分からない方向へと傾いていく。

戦場の異常さが成す一つの魔術によって、緊張と弛緩と興奮と冷静さが混じり合っていた。

そしてその状況のすべてに終止符を打つ一報がその場を一瞬で凍り付かせた。

『こちら司令部こちら司令部!海上よりゴディバ級CaCaOが急速接近中!繰り返す、ゴディバ級が急速接近中!』

『『『『『………………んだとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』』』』』

『どうすんだよ』『どうしましょう』『今からだときついぞ!』『外典は!?』『持ってきてないな、最初はブラックサンダー級だったからな……』『マジかよおおおおおおおおお』『うっせぇぞ!お前さっき敵じゃないとか言ってたろ!』

凍り付いたその雰囲気は一瞬で昇華した。

まさに絶望的な状況だ。駐屯部隊では足止めにもならない攻撃力がゴディバ級にはある。

しかし、退くわけにはいかない。

『『『『『こんな所で負けてたまるか、こんちきしょォォォォォッ!』』』』』

戦場の兵士達は、その目に炎をたぎらせた。

兵共の夢は、まだ終わらない。



『僕に一つだけ考えがあります。』

靴木は提案した。

『ですが作戦の都合上、一度失敗すると二度はできませんし、失敗の確率が高いです。ただ、成功すると確殺できます。』

つまりハイリスク、ハイリタ-ン。

単純な話、このようなせっぱ詰まった状況で出てくる策には無理が多い。まともな作戦が練れるわけがないのだ。そして追い込まれている状況では、人間は藁をも掴む。

そして案の定――

『その賭け、乗った。』

藁を掴もうとする者がいた。

『私も、乗りましょう。』

一本の可能性を信じる者がいた。

『おれも、それに賭けようか。この命』

命を賭けて守りたい者がいた。

だからこそ、靴木は負けることができなかった。

自分を信じることができない自分に、仲間を信じることができない自分に、負けることができなかった。

『分かりました。やりましょう。』

靴木はぎゅっとハンドルを握った。

『することは割と単純です。ヤツを僕の前、真ん前に持ってきてください。誘導だけでかまいません。』

『それだけで良いんだな。』

『はい、それだけでかまいません』

『了解した。作戦を、実行する。』

駐屯部隊は少ない人数ながら、各ポイントに散っていった。

聖釘部隊は靴木の周囲を警戒するように待機。

靴木は、チャージを開始する。

強化(コンフォータンス)強化(コンフォータンス)強化(コンフォータンス)強化(コンフォータンス)……」

強化魔法を何度も使い、魔力を倍々にしていく。

そしてそれを刀に込める。刀には魔力親和性の強いオリハルコン合金を使っている。

刀は鞘から出していない。抜刀の構えである。

「(もっと、もっとだ!まだたりない!)」

『ゴディバ級上陸!そちらに誘導します!』

「了解!」

その一報に魔術のサイクルをさらに早める。

強化(コンフォータンス)強化(コンフォータンス)強化コンフォータンス強化コンフォータンス強化コンフォータンス強化コンフォータンスッ!!」

『お、オイ!こいつ魔術効かねぇぞ!』

『ちょ、えええええ!聖釘部隊聖釘部隊!』

先の都城戦の際に出現したCaCaOと同じ型である。

ここで聖釘部隊に援軍の要請が入るが、なかなか行きづらい。動けない靴木の護衛をしなければならないからだ。

『行ってください、どちらにせよ誘導できなければ作戦は失敗です。』

『……分かった。くれぐれも、気をつけろ。』

『そちらこそ。』

ここで護衛を離すのは得策ではないが、元より得策などない。

だから、もうできることを随時やっていくしかない。

それだって、できるかどうか分からないのだ。

「(軍人なら皆そうだ。明日、生きているかなんて分からないから、だから――)」

魔力を、さらに増幅していく。

「今できることを、精一杯やってやりますよコンチクショウ!」

刀から光があふれ出す。

高圧の魔力は物体を、特に魔力融和生の高い物体を魔力へと変換させる。それはちょうど組町の外典ミョルニールの魔力変換術式と似たような原理だ。

普通、術式なしでここまでするのは難しい。

靴木の強化魔法だからこそできる芸当だった。

『もうすぐ、もうすぐそっちにつくぞ!』

『ッ!了解!』

まだ、終わってはいなかった。

「(もっと、もっと。刀自体、いや腕全体をを魔力化させる勢いで……)」

強化を、加速させていく。

無くなった魔力はマリョクビタン(ぜぇ~っと)で補い、繰り返す。

そして……

『来る!』

『いくぞぉぉぉぉぉぉ!』組町のクルセイダーによる渾身の掌底によって巨大なゴディバ級が一気に吹き飛ばされる。

そして、そこは――

『射程圏内!やります!。』

そう言うと靴木は高速でクルセイダーを稼働させた。

クルセイダーのものとは思えない神速の踏み込み、それだけでも十分すごい。だが、まだ終わっていない。

光り輝く右腕、そして刀身。

姿勢、タイミング、技巧、力、バランス。

そして、それらは一度に解き放たれる。

天羽々斬(あめのはばきり)

光速の、居合い斬り。

光り輝く刀身はまさに神代の魔獣殺し、天羽々斬というにふさわしい神々しさと攻撃性。

その一撃で、すべてが終わった。

ゴディバ級、活動停止。



『オイ、靴木。今の状況を説明しろ。』

数分後、靴木のクルセイダー内に組町の冷静な声が響いた。

『ん~隊長ぉもう、疲れましたぁ』

緊張感のない声が返ってくる。

『お、おう。大丈夫か?』

『あい、だいじょぶれす。』

『そ、そうか。で、状況を説明しろ。何があった。』

『ん、それはですねー』

靴木は事情を説明した。

かくかくしかじか。

『お前、何やってんだ。下手すりゃ死んでたぞ!』

『しんぱいいらないれすよぉ。たいちょうをおいてしぬわけないじゃないれすかぁ。てことでおやすみなしゃい。』

靴木はそのまま、眠りについた。

隻腕のクルセイダーは、じっと立っていた。



福岡防衛戦、終結

被害:死傷者計200人 クルセイダー73機 その他装備品、多数。

福岡防衛戦、終結しました!(更新後)

次は心機一転します!まだまだ続きます!

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