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5.重低音に酔いながら


5.重低音に酔いながら



「最近遊んでないねー」



という、亜里沙の一言で。


国本亜理沙、中間裕子、仲川俊、西田浩介、拓也、そして私の六人で、放課後カラオケに行くことになった。



実はこのメンバー、結構頻繁に遊んだりするくらい仲良しだったりする。





「よっしゃー!うたうぜー!」



部屋に案内されるなり、仲川と西田は手際よく曲を予約していく。



「一番!仲川俊!ポルノうたいまーす!」



マイクを手にした仲川のそのおかしな言い方に、亜理沙と裕子が爆笑する。



画面に曲のタイトルが映り、あのアップテンポな重低音の効いたイントロが流れ出す。



久しぶりのカラオケ。


テストも終って、みんなのテンションは急上昇。



歌いだした仲川の、ひどく狂った音程に、再び全員が声をあげて笑う。



拓也も、ウーロン茶を飲みながら笑っていて。



狭く薄暗い部屋中に響くビートが、心地よく体全身に響いた。





「なーおみ!」



それから全員が何曲か歌って、再び男子たちが175Rを熱唱していた時。


不意に隣に座ってきた裕子に話しかけられる。



「ん?」



「尚美はさあ、正直あの三人の男子の中でランクをつけるならどうつける?」



「はあ?」



急におかしな質問をされ、困ったように笑う。



「どうしたのよ、いきなり」



「いいから!」



「えー」



とか話しているうちに、亜理沙も加わり、完全に男子と女子に分かれてしまった。



「んー、三人とも同じようなもんじゃない?」



「そう?私は違うなー」


「うん。私も」



私の答えに異議を唱える二人。



「え、じゃあ二人はどうなのよ」



てか。


なんでクラスの男子の品定めしてるんだろ、私たち。



「えー」


「言ったら尚美絶対怒るもーん」



「なんで私が怒るのよ」



話の流れが、うまくつかめない。



「怒んない?」



「うん」



「絶対、怒んない?」



「怒んないってば」



二人のタイプ聞いて、なんで私が怒るのよ。



「仲川と西田はおいといてー」



「うん」



「木高がやっぱりダントツだねって思うわけ!」


「私もそう思いまーす!」



・・・。



「・・・そう?」



「そうだよ!」


「木高がうちのクラスでは一番人気なんだよ?!」



そんな話、初めて聞いたんですけど。



「でもさ。拓也あんまり告白とかされてるの見たことないよ」



ラブレターとか、恋愛のれの字も聞いたことが無い。



「もー!尚美は鈍いなー!」



「なにがよ?」



「そ、れ、は!尚美がいるからだよ!」



「はい?」



意味が、わからない。

私がいるから、どうして拓也が告白されないことに繋がるのか。



「皆ね、尚美と木高がデキてるって思っちゃってるわけ」



「はあ!?」



思わず素っ頓狂な声を上げる。


拓也と私が、デキてるですって・・・?



「・・・ありえないからー」



「知ってるよ。うちらは尚美たちが付き合ってないってことは」



「え、じゃあ」



「でも、他のクラスの子たちが知らないだけ」



いや、訂正してください。



「皆の目には、尚美と木高はもはや夫婦として映ってるんだよ」



そんなこと、初めて知ったんですけど。



拓也と私が、そんな風に思われていたなんて。



「なーに話してんの」



歌い終わった男子たちが、私達三人を挟むようにそれぞれ座る。


裕子を真ん中にして座っていた為、私は女子の中では端っこで。



私の隣には、当たり前のように拓也が座った。



「内緒ー」



亜理沙が言いながらホワイトウォーターのグラスの氷をストローでつっつく。



「えー気になるじゃーん!」



ちゃっかり亜理沙の隣をゲットしているのは仲川。



実は仲川は亜理沙に密かに想いを寄せているようで。


それを知らないのは亜理沙だけというのが、悲しい現実だったりする。



「尚美、何話してたんだよ」



拓也も少し気になるようで。



「だからー、内緒って言ったでしょ?」



教えない。

てか、教えられない。



「ちぇ。ケチくせー」



すねたように唇を尖らせた拓也は、近くにあったウーロン茶を手に取り、ストローをくわえた。



「あ」



ストローをくわえたまま少し考えるように固まった拓也。



「どうしたのよ?」



「…これ、俺のじゃない」



「え?」



「そういえば俺、さっきウーロン茶は飲み干して、メロンソーダ注文したんだった」



「…」



ウーロン茶を最初注文したのは、拓也と私の二人だけ。



その後でウーロン茶を注文した人は確かいなかったから…。



「それ私の!」



急いで拓也の手からグラスを取り返す。



「なんだ、尚美のか。よかった」



「よ、よ、よ、よくない!」



変に安堵する拓也とは対称的にひどく慌てる私。



「なに動揺してんだよ?てか…お前顔赤くない?」



言いながら、私の頬に触れようと、拓也が手を伸ばしてくる。


心配そうな拓也の顔が、間近に見えて。



手が、かすかに頬に触れた。



「きゃっ!」



パシン。



私は気付くと、拓也のその手を払い退けていた。



「あ…ごめ…」



目の前には、驚いた拓也の顔があって。



「た…体調悪いみたいで…悪いけど今日は帰るわ」



私はそう言うなり、財布から千円札を三枚抜き取ると、それをテーブルの上に置いて走って部屋を出た。





私、どうかしてる。



『木高がうちのクラスでは一番人気なんだよ』



二人が、変なこと言うから。



『尚美と木高がデキてるって思っちゃってるわけ』



そんなこと、ありえないのに。


絶対に、ありえないのに。



『尚美と木高はもはや夫婦として映ってるんだよ』



なのにどうして?



なんで私、こんなにドキドキしてるの?





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