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21.冷たい三日月4


21.冷たい三日月4



ゆっくりと動くコンテナは、だけど確実に上へと回っていく。



「マナイタ」



「なによ」



相変わらず変わらない私の呼び名。



もう訂正するのはいいやって、半分諦めモード。



「動くなよ」



「へ?」



意味不明なことを言うと、聡はそろりと立ち上がった。



そして、



「え?なに?え?」



ゆっくりと私のほうに近寄ってきて。



戸惑う私を他所に、聡はそっと、さっき買ったネックレスを、私の首に付けてくれた。



「・・・ネックレス」



それはかすかな光ででもキラリと光って。



「うん。似合うじゃん」



そう言って静かに微笑む顔は、ジェットコースターのあの時に見せた、やっぱりすごく優しい顔。



「えと・・・お金、」



「俺が買いたくて買ったんだから。お前はそれ付けてくれてればいいんだよ」



外から入ってくるイルミネーションの光が、聡の顔をほのかに照らしていて。



そうか。


聡は私より一つ年上なんだって。



なぜかその時初めて思った。



「あのさ、私、」



「分かってる。言わなくても」



ゴンドラの少し曇った窓からは、遥か下の何色ものライトが幻想的な光を映し出しているのが見えた。



それはとても綺麗で。


だけどなんとなく、少しだけ寂しかった。



「お前と裕子ちゃんが、祐樹のことに賛成してないってのは、朝から気付いてた」



聡の視線は、決して鋭いものじゃなくて。


だけど、私から反らされることもまた無かった。



「別に、反対してるわけじゃないの。ただ…」



先を言おうか、一瞬迷う。



祐樹先輩側の聡に仲川のことを言ってしまうと、仲川が不利にはならないだろうか。



「ただ?」



「…ごめん、言えない」



丁度てっぺんまで来た頃、上空の風に煽られて、ゴンドラがギシリと音をたてた。



「祐樹先輩はかっこいいし、優しいし、すごく良い先輩だと思う。でもね、」



「いいって。祐樹のことは祐樹のことだし。上手くいってもいかなくても、それは俺にはどうでもいい」



「聡…」



なんとなく、申し訳なく感じてしまう。



「だけど、まあ、今日は悪かったな」



「え?」



向かいに座る聡。



そのごめんが何に対してなのかが、よく分からない。



「何が、ごめん、なの?」



「いや、結構無理矢理な所があったしな。一日潰しちゃったわけだし」



聡の長い足が、狭いゴンドラの中で窮屈そうに曲げられている。



私は意外な聡の言葉に、思わず吹き出してしまった。



「ぷっ」



「な、なんだよ?」



「だって、『ごめん』なんて、あんたには一番似合わない言葉なんだもん」



初対面で私をマナイタと罵り、なんでも自分中心だと思ってそうな聡。



その口から、「ごめん」なんて言葉がでるだなんて。



「俺はそこまで腐ってねーよ」



「うん。そうみたいでちょっと安心した」



「お前なー」



呆れたような、困ったような、なんとも言えない風の聡を見て、私はまた笑って。


そんな私を見て、聡もやっぱり笑った。



さっきまで遥か下で揺れていた木々が、もうゴンドラの窓を撫でている。



「今日はありがとう」



三日月のネックレスが、ひんやりと鎖骨に冷たい。



「こちらこそ」



にっこりと笑った聡の顔を、もうすぐそこのネオンが照らす。



一度ギシリと大きく揺れてから、がらりとドアが開けられた。



「おかえりなさーい。出口はこちらとなってます。足元、気をつけて御降り下さーい」



夜には不釣合いな明るい係り員の声が聞こえて、私達はお互いに視線をドアの方へと向けた。



レディファーストというのだろうか、この時もやっぱり私が先にゴンドラから降りる。


聡が降りてから、入り口の隣の通路を通って、観覧車の乗り場から出た。



入り口の方には、もう二、三人しか並んでいなかった。



「もう終わりなんだねー」



人の乗っていないメリーゴーランドが、軽やかなメロディに合わせて踊っている。



ほとんど人のいない広場を、すぐそこで合流した裕子や亜理沙たちとゆっくり歩く。



「一日が終るのなんてすぐだね」



「うん。あっという間だった」



夜空を見上げて、裕子と亜理沙が言った。



明るいネオンの所為で、星は一つも見えない。



「楽しんでもらえてよかった」



優しく微笑む祐樹先輩の目は、やっぱり亜理沙のことを追っていて。


その隣で楽しそうに笑う光太先輩は、なんとなく裕子のことを見ているようだった。



隣を歩いていた聡の方をふと見ると、たまたま視線がぶつかり合って。



お互い、静かに微笑んだ。




「尚美!」



突然名前を呼ばれて、ぴたりと足を止める。



他の皆も聞こえたのだろう、全員が、ゆっくりとその場に立ち止まった。



ゆっくりと振り返る。



「たく・・・や?」



何色ものライトの逆光で、黒い影しか見えなかったけれど。


それは、もう見慣れた、私の大好きな人。



そこには、少し息を切らして、拓也が立っていた。





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