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19.冷たい三日月2


19.冷たい三日月2



「だめ。圏外。ここほんと電波入んない!」



裕子の地団駄を聞きながら、私たちはさっきの場所より少し奥に進んだところにあるベンチに座っていた。



「諦めた方がいいって、裕子ちゃん。俺らは俺らで楽しく遊ぼーよ。」



能天気な声を出す光太先輩を、裕子がキッと睨む。



「亜里沙に何かあったらどーすんのよ」



さっきまでの敬語はどこへやら。


裕子は携帯をポケットにしまうと、私の横にデン!と座った。



「裕子、もう仕方ないって。たぶん合流するのは無理だよ。」



何度も携帯に電話したけれど、こっちもすぐに圏外になるし、かかったとしても次は亜里沙の方が圏外だしで。


連絡は全く取れない状態。



「安心しろよ。祐樹に限っていきなり手を出すとか、そんなヘマはしねえから。」


「そうそう!だから裕子ちゃんも一緒に楽しもうよ!」



聡と光太先輩の言葉に、裕子は一回ため息をついて。



「仕方ない。今日は諦めるしかないかな。」



いっぱい食わされた悔しさは、やっぱりまだ消えてないけど。


裕子も私も、せっかく奢ってもらったんだし、久しぶりのテーマパークを楽しむことにした。




******




で。

なんでいきなりジェットコースター??



ベンチから立ち上がってなんとなく歩き出して。


行き着いた先が、今並んでいる『サンダー』の最後尾。



「空中ブランコじゃなかったの。」



私が言うと、



「なに、お前ジェットコースター怖いの?」



やっぱガキだなと鼻で笑う聡。



「べ、べつにそんなことないし!」



「はいはい。」



私の抵抗は軽くスルーされて。


裕子は私の前で、光太先輩となにやら楽しくおしゃべり中。

うん。


すぐ近くにいるのに、完璧に分裂してしまった。



「ねえ、ほんとにこれ乗るの?」



ツイツイと、聡のワイシャツを引っ張る。



「やっぱ怖いんじゃねーか。」



「そ、そんなこと・・・ない、けど」



「けど、なんだよ」



下を向いた私の顔を、聡が覗き込む。



「・・・なんでもない。」



少しだけ様子のおかしい私に、聡は首を傾げながら体勢を戻した。



言えない。


言えない。


ジェットコースター乗ったこと無いなんて。


そんなこと、絶対言えない!


テーマパーク自体は何度か行ったことはあるんだよ。


でも、お父さんもお母さんも絶叫系が苦手だし。


友達と行った時も、なぜかジェットコースターだけは乗らなかったし。


人生初となるジェットコースター。


十七でジェットコースター初体験、なんて。


そんなこと、口が裂けても・・・



「なあ、光太。俺ら、やっぱこれ乗んのやめるわ。」



え?


悶々と心の中で格闘していた私は、突然の聡の「乗らない」発言に顔を上げた。



「へ?どうしたんだよ。」



光太先輩と裕子がくるりとこちらを向く。



「なんとなく。ジェットコースターとか乗ったら髪型くずれるし。」



「髪型って、お前相変わらずだな。」



「うるせー。」



二人のやりとりを、ぽかんと見ている私。


今一体、何が起こったというのだろう。



「あ、じゃあさ、聡。」



光太先輩が聡のワイシャツをぐいと引っ張り、耳元に何かを囁いた。



「あー分かったよ。じゃあ、俺ら行くから。」



何が分かったというのか。


裕子も私も、状況が上手く飲み込めない。



「ほら、マナイタ。お前は俺とこっち。」



「えっ、あっ、え?!」



聡の行動に対応しきれない私の腕を、聡がぐいぐいと引っ張っていって。


離れないように持たれた手首は、ぎゅっぎゅっと歩くたびに少しだけ痛んだけれど。


足が縺れない様に、私は必死に聡に着いて行って。


気が付いたら、あの長い列から少し離れたところまで来ていた。



「ねえ!聡!」



段々と歩調が遅くなった頃に、私は言った。



「なんだよ?」



「なんでいきなり、ジェットコースターやめようだなんて」



歩くスピードはもう酷くゆっくりになっていて。


知らない間に、聡の手は私の手首から離れていた。



「なんでだあ?」



「あ、うん。」



私の質問に、腕を組む聡。



「おい、マナイタ。」



「な、なによ。」



私よりずっと背の高い聡は、私を見下ろすように目を細めて。



「お前、ジェットコースター、やっぱ怖いんだろ?」



突拍子もないほど、ズレた内容。



「こ、怖くなんかないって言ったでしょ?!乗ったことがないだけよ!」



相変わらず強がる私の言葉に、聡はフッと表情を和らげた。



「・・・あ」



それを見て、自分の失言に気付く。


しまった。



「ジェットコースター乗ったことなかったのかよ」



「・・・うん」



そのことに突っ込んでくる聡。


なんとなく恥ずかしくなって、下を向く私。



「たく」



ほら。きっと馬鹿にされ



「そういうことは早く言えっての。」



「・・・え?」



顔を上げると、ポンと頭の上に手を乗せられて。



「強がるのも大概にしろよ。」



そのときの聡の笑った顔は、なんだかものすごく優しくて。


いつものムカつく奴からは想像できないくらいかっこよく見えて。



「あ、ありがと。」



私は、不覚にも頬が赤くなるのを感じた。



「うし!じゃあ空中ブランコでもいくか」



うーんと背伸びしながら言う聡に。



「え?裕子たちは?」



当然の疑問をぶつける。



「は?あー、あいつらは二人でまわりたいんだとよ。」



「・・・はい?」



さらりとした聡の言葉を上手く理解できない。


ていうか、理解したくないけど。


亜里沙と祐樹先輩で二人。


裕子と光太先輩で二人。


となると。



「私とあんた、二人でまわるってこと?」



なんとも言えない顔をする私を見て、聡は眉を寄せる。



「なんだ。不満かよ?」



いや、不満というか、なんというか。


そう、私が無意味に一人で悩んでいると、



「俺みたいな男前と二人で歩けるんだから、ありがたく思え!」



「わっ!」



そう言って聡はパシリと私の手首を再び掴んで。



「今日は楽しもうぜ。」



空中ブランコ目指して歩き出した聡に引っ張られるようにして、私も足を動かした。





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