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17.フェルトでガンバ

更新遅くなってしまってすみません。


17.フェルトでガンバ



「おはよー尚美」



ガラリと教室の扉を開けると、拓也と、拓也の席に集まっていた裕子と西田が私に朝の挨拶を投げ掛けてきた。



私は鞄を持ったままそこへ走り寄る。



「おはよ!仲川は?!」



朝から顔を輝かせる私に、三人は不思議そうに顔を見合わせた。



「あそこにいるけど」



拓也が視線を向けた先に、仲川の席があり。



仲川はそこで、机の上に死んでいるように伏せていた。



「来てからずっとあの調子。亜理沙のことにかなりダメージ受けてるっぽい」



少し心配そうに言う裕子。



西田も仲川の方を向くと心配そうにため息を吐いた。



「それなんだけど、いい考えがあるの!ちょっとこれ見て!」



私は一人明るい声を出して鞄からあの本を取り出した。



机の上に置くと、三人ともが「何これ」というような顔をする。



「フェルトで、マスコット…?」



「そう!これなら簡単だから仲川でも出来そうだし、ナイスアイディアだと思わない?!」



私の声を聞きながら、裕子はパラパラと本を捲って。



「まさか、仲川がマスコット作って、それで亜理沙を釣ろうって考えじゃないでしょうね?」



「え?そうだけど」



予想外に冷めた裕子の反応に、首を傾げる。



私の返答に、裕子は「やっぱりね」と言いながら本を机の上に戻した。



「いい?恋愛未経験者」



裕子がぴしりと指を立てる。



「な、なによ」



恋愛未経験者という言い方に少し引っかかるけど、そこは敢えて触れないでおこう。



「今どきね、手作りのマスコットなんかで、誰もときめいたりしません」



裕子の指摘に、思わず反論する。



「そ、そんなことないよ!」



「そんなことあるの!逆にウザいって思う子の方が多いんじゃない?」



私たちのやりとりを、拓也と西田は静かに見ていて。



巻き込まれたくないという考えが、黙っていてもよく伝わってきた。



「で、でも!裕子、ちょっと思い出してみてよ」



「なにをよ?」



眉を寄せる裕子。



「この前、私と裕子と亜理紗の三人で、告白されるならどんな風がいいかって、結構盛り上がったときあったでしょ?」



それはたぶん今から二週間ほど前。



期末テストが終った辺りだったような気がする。



「あー、あったわね。そんなことも」



「その時、亜理紗なんて言ってたか覚えてる?」



「えー、亜理紗が?えっと・・・」



思い出そうと目を瞑る裕子にかまわず、私は話を続けた。



「亜理紗あの時、『ドラマみたいなのがいい』って、そう言ってた」



「ドラマ・・・あーそう言ってたかも」



「だから、『告白は、夕方の海で好きだって叫ばれてみたい』って!」



「そうだったそうだった!私その時ちょっと引いたもん!」



「でしょ?!いい?ようするに、亜理紗はものすごーく夢見る乙女なわけ」



今度は私が指を立てる番。



ぴしりと、自信を持って人差し指を立てた。



「・・・うん」



「てことは、他の女の子がウザいって思うくらいのことが、亜理沙には丁度いいと思わない?」



自信に満ち溢れた私の視線を逃れるように、裕子が下を向いて。



「・・・そうかも、しれない、わね」



裕子の返答に、私は思わずガッツポーズ。



形勢逆転。


私の勝ちである。



「よし、じゃあマスコットで決まり、だよな?」



拓也が頃合を見計らって、うまくまとめる。



西田も、ようやく会話に参加する姿勢に戻って。



「マスコットで決まり。・・・でも、」



「でもって、まだ何かあるのかよ」



途端に顔を曇らせる私に、拓也はがくりと項垂れた。



「今週の日曜にドリームパーク行くから、かなりそれで仲川は不利になると思う」



私の言葉に、拓也と西田は顔を見合わせる。



「なに、国本、もうそんな約束したのかよ」



西田が少し驚いたように言った。



「結構強引な約束だったんだけどね。でも大丈夫!私と尚美がちゃんと邪魔してくるから」



「は?」



裕子の言葉に間抜けな声をあげたのは拓也。



怪訝そうに眉を寄せている。



「なんでそこで尚美と中間が出て来るんだよ」



拓也の問い掛けに、裕子はにやりと口の端を上げて。



「だって。私も尚美も誘われてるもん。向こうが三人組だからね」



それを聞いて、今気が付く。



西田や仲川、そして拓也も、私たちがそれぞれ三年三人組とメールアドレスを交換したことは、まだ知らないのだ。



だって言ってないもん。



「尚美、そんなこと聞いてな」



キーンコーンカーンコーン。



くるりと私のほうを向いた拓也を遮るようにチャイムが鳴る。



なんとなく拓也の機嫌が悪そうだったので、私は軽く笑って逃げるように席に着いた。





三時間の補習が終って。



「仲川ー」



裕子と私は、まだ死にかけている仲川の席まで歩いていく。



「・・・おう」



私たちに気が付き、仲川の力のない声が返ってきて。



裕子は思わずバシリ!と仲川の背中を叩いた。



「しっかりしなさい!私と尚美は、あんたのことを助けてあげようと思って、今ここにいるんだから」



裕子の言葉に、私も頷く。



「いい?あんたは今日からフェルトでマスコットを作るの」



いきなり何のことやら、仲川の頭の上に?マークが三つほど浮かぶ。



「あーだからね!」



痺れを切らしたように、裕子は続けた。



「あんたがマスコットを作って、それを告白と同時に、亜理紗にプレゼントしようっていうわけ!わかる?」



わかる?と一応疑問形で終ってはいるが、その言い方は「わかれ」と命令しているのとほとんど変わりはなくて。



仲川は、こくこくと頷いた。



「で、これ」



私は、色とりどりのフェルト生地と裁縫道具を、ドンと机の上に置いた。



因みに裁縫道具は、中学で使っていた四角いキティちゃんのやつ。



「必要なものは一応揃えてきたから。作り方もできるかぎり教えるつもりだし、とにかく頑張ろ!」



「ね!」と仲川の肩を軽く叩くと、仲川は私たちの顔を交互に見比べて。



「お前ら・・・いい奴だな・・・!」



そう言って軽く目を潤ませる仲川に、裕子も私もちょっと引いたけど。



とにかく少しでも早くマスコットを完成させなきゃいけない。



「さ!やるわよ!」



裕子のその一声で。



早速私たちはマスコット作りを開始した。




何を作るかだけど、それは亜理紗の大好きなマリィちゃんに決定して。



適当にマリィちゃんの型をフェルトに描いていく。



私たちならそういうことはすぐにできるんだけど。



ほら、仲川でしょ?



モタモタとした仲川の手つきに裕子はイライラを募らせていたけど、これだけは仲川本人がやらなければ意味がない。



「できたー!」



仲川が喜びの声を上げたのは、もう夕方の五時半をまわった頃。



「遅いわー!」



私たちしかいなくなった教室に、裕子の怒鳴り声が響く。



勘違いしちゃいけない。



できたのはマリィちゃんのマスコットじゃない。



白いフェルトの、マリィちゃんの型描きだけである。



「まあまあ、初心者なんだから仕方ないって」



宥める私も、さすがに少し疲れていた。



「いい?仲川。明日も忘れずに絶対そのフェルト持ってくんのよ」



裕子はそう言いながら机の上を片付け始めて。



今日はこれで終わりということになった。



うーん。



亜理紗と祐樹先輩が付き合う前に、このマリィちゃんは完成するのだろうか?



ちょっと心配。







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