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16.星のない空


16.星のない空



今テレビの中では、人気のお笑い芸人たちがコントを繰り広げていた。



お笑いは結構好きだから、夕飯を食べ終わった後は、決まって家族三人でテレビを見る。



つくづく仲の良い家族だと思うよ、ほんと。



食後のコーヒーを片手に、ゆったりとソファーに包まれて。



これを至福の時と言わず、いつをそう言うのだろう。




何組めかのグループが終って、番組が一旦CMに入った時だった。




「尚美、なんか鳴ってない?」



「え?」



お母さんに肩を叩かれて、テレビの音量を少し下げる。



確かに、何か鳴っている。



更に音量を下げて耳を澄ませると、それは私の携帯の着メロで。



「私の携帯だ」



そう言うと私は、まだ少しコーヒーの残っているマグカップをテーブルの上に置いて、駆け足で自分の部屋へと向った。



切れる一歩手前だったと思う。



部屋の電気のスイッチを叩くようにして押した後、机の上で音楽を流しながら震えている携帯を引っつかんだ。



「もしもし!」



『もしもし』



聞こえてきたのは、拓也じゃない男の声。



ディスプレイを見る前に通話ボタンを押したため、それが誰のものなのかがわからない。



「え、あの」



『俺だよ、俺』



「え?」



『だから俺だって』



戸惑う私と、苛ついてくる男。



『俺』でわかるんだったら、声聞いた瞬間に誰かわかるっつーの。



「すみません、間違いじゃ、」



『あー!だーかーらー!俺!聡!河本聡だよ!』



いきなり大きくなった相手の声に、反応し切れなかった頭がグワンと痛んだ。



聡。


河本聡。



「あ、あんたか!」



これは顔と名前が一致した瞬間。



頭の中に、今朝も見たあのムカツク顔が浮かんだ。



『わかるのおせーし。マナイタ』



「はあ?あんたがさっさと名乗らないから悪いんでしょーが!」



『表示されるだろ。まさかお前の携帯にはディスプレイないのかよ。簡単携帯かよ』



「ディスプレイくらいあります!カメラもついてます!」



私の反応を鼻で笑う聡。



うん。やっぱり夜も超むかつく。



「で、何の用よ」



ベッドの上にぼふっと座る。



丁度ベッドの頭の上にある窓のカーテンを少し開けてみたけれど、星はやっぱり一つも見えなかった。



『今週の日曜』



聡の声が、静かに響く。



『ドリームパークいくから』



「・・・はい?」



意味が分らない。



というか、付いていけない。



『だから予定いれんなよ』



さも当たり前のように聡は言った。



「ちょっとちょっと!待ってよ!どういうことよ?!」



じゃあそういうことだから的なことを言って電話を切ろうとした聡を、私は急いで引き止める。



『は?分かんねえのかよ。だから、日曜に』



「いや、だから、なんでそういうことになってるの?!」



明らかにズレた答えをかえしてくる聡に、心のなかで「このスカタン!」って罵っておく。



もっともな説明を再び求める私は、気付けば携帯を両手で包むようにして持っていた。



『・・・うっせえなあ。んなのどーでもいーだろ。とにかく、決まったんだから。絶対来い。来なきゃシバく』



とても女の子にいうような台詞じゃないような気がするんですけど。



ていうか、全然説明になってないんですけど?!



「でも、まあ私は置いておいて、裕子や亜理沙が予定空いてるかどうか分んないじゃん」



『あー、それなら多分大丈夫』



確信のあるような、そんな言い方。



「なんでそんなことが分るのよ」



『だって、一時間くらい前に、祐樹と光太がメール送って確認したから』



あ、なるほど。



確認したんだったら、本当に二人の予定は大丈夫・・・って、



「なんで私にはその確認のメールがこなかったのよ?!」



おかしいよね?



普通におかしいよね?!



『あ?だってお前、どうせ暇だろ?』



間違ったことは言っていません的なその言い方に。



まず根本的に何か間違っているような気がするけど。



予定が空いているのは事実なので、結局何も言い返せない。



『じゃ、それだけだから。また詳しいことはメール送るわ』



そう言うと、ばいばいも言わずに奴はブチリと電話を切りやがった。



今聞こえてくるのは、プープーという無機質な機械音だけ。



電話を耳から離し、さっきの強引な約束にため息を吐きながら、私は携帯の電源ボタンを押した。



ドリームパーク。


それは、結構大きなテーマパークで。


サンダーというジェットコースターと、大きな観覧車が人気らしい。




決まってしまった、日曜日の約束。



今日は木曜だから、あと三日後。



これは多分、ものすごく仲川を不利にする。



亜理紗と祐樹先輩が親しい仲になってしまえば、きっと仲川に勝ち目は無い。



さあ、どうするべきか。



手を顎に添えて、視線を上に巡らせる。



何か、いい案はないか。



仲川にできる、祐樹先輩に負けない素晴らしいこと。



必死で考えていると、ふと机の本棚にささっていた一冊の本に目がとまった。



その背に指を掛け、両隣の本が落ちてこないように押さえながらゆっくりと引っ張り出す。



少し埃のかぶったそれは、でもまだ新品同様に綺麗で。



表紙には、可愛らしい沢山のフェルトマスコットの写真。



―初めてでも簡単!作ろう!簡単マスコット☆―



表紙に書かれた大きな文字。



それを見た瞬間、私は思わず喜びの声をあげた。



「これだー!」



これなら、仲川にだってできる。



祐樹先輩に勝るかどうかは分らないけど。



フェルトでマスコットを作るくらいなら、きっと絶対上手くいく!



私は早速その本を鞄に入れて、明日にでも裕子たちに相談してみようと思った。





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