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世界掴む手のひら  作者: ケー/恵陽
三、この小さな村から始まる反逆
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 陽光を浴びて輝く木々。畑の野菜に漲る力強さ。水路に上がる水飛沫。セトの額に浮んだ一筋の汗。

「全然違うな」

 村の中を見て回ったセトが穏やかに感想を漏らした。今までセトが知っていた一般の人の暮らしというのは、食糧や布を売買する商人や街中で店を構える人のことだった。

「食べ物が作られている所なんて想像してなかった」

 当たり前のことなのに、セトは自分の口に運ばれる食材がどんなところで、どうやって作られていたのかをまったく知らなかった。

「国都や東都では拝めない光景ですからね。知らなかったでしょう?」

「ああ」

 肯定したセトに苦さはない。これまで当然と過ごしていた世界は本当に狭い世界だったのだと思い知った。神殿の外は怖いことがいっぱいだと冗談交じりに脅されたこともあった。それは間違いではなかったけれど、真実でもなかった。外の世界はたくさんの出来事で溢れていた。セトの目尻にうっすらと涙が浮んだ。

「ラクルと一緒に見たかったな」

 呟いたセトの顔を秦は少し眉尻を下げて覗きこんだ。次いで、言葉を返す。

「きっとラクル様と共に見れますよ。そのために、俺は居るんですから」

「……そうだな。頑張ろう」

「はい」

 セトは目尻に浮んだ涙を拭い、秦に笑んでケーリーの家へと向うべく踵を返した。その途中で荷馬車が戻ってくるのが見えた。

「ケーリー?」

「ええ。帰ってきたようです」

 セト同様視線を向けて、秦は大きく頷いた。そして秦はセトの頭に幼子をあやすように手を置いた。

「セト様、俺はケーリーと話があります。セト様は家で休んでいてください。董を寄越すので待っていてください」

「……心配性だな、秦も」

 呆れたように呟き、セトは大人しく彼の言葉に従った。運動と称したものの家の外に出たのは、ほんの二時間程度だ。その半分以上は景色を眺めるのに使ってしまった。移動もひどくゆっくりなもので、セトにしてみれば運動なんてしていないに等しかった。

 家の中に入ると、既に董が野菜と共に待っていた。収穫した野菜をじっくり観察しているのか。野菜を凝視したまま微動だにしない。

「董?」

「あ。セト」

 呼びかけるとパッとセトに笑顔を見せた。

「お腹空いてない?」

 そういえば朝は食欲がなく、結局スープしか食べていない。歩いたおかげか、少々腹が鳴っていた。そのように伝えると、董はつい先程まで睨めっこをしていた野菜を手にとり、台所へと身を隠した。待っているようにと言われ、セトは従った。

 椅子に腰掛けると、思っていたよりも足が疲れていたことに気付く。背もたれに体を預け、セトは虚空を見上げた。ラクルのことが心配だった。神殿は彼女を丁重にもてなすだろう。それを理解していても尚不安は尽きない。傍に居ないだけでセトにとっては寂しいのだ。

それに神殿の出方が気になっていた。オエバとしてラクルを連れ去ったのだ。何をさせるつもりなのだろうか。

「セト、どうぞ」

 ハッとして眼前に視線を向けると董がセトの前に皿を置くところであった。

「体調悪くても食べなくちゃ元気が出ないよ」

「……そうだったな。頂きます」

 手を合わせて、置かれたものを摘まむ。大きめの葉の中に他の野菜をサラダにして詰め、油で揚げたものらしい。サクっという触感の中にサラダが甘く、美味しい。

「時間がない時によく姐さんたちに作ってたんだ。味はどうかな」

「甘くて美味しい。董は料理も出来るのか」

「一人で生活していたら誰でも出来るようになるよ。でも喜んでもらえてよかった。この村の野菜はどれも質がいい。土がいいんだろうなあ」

 セトの褒め言葉に照れながら答える董は、本当に新鮮な野菜はどれも甘いのだと教えてくれた。神殿で出される料理は豪華で美味しい料理ではあったけれど、セトは董の作った料理の方が好きかもしれないと思った。目の前で喜んでくれる人がいるのだ。それは作る側も受ける側もとても嬉しい。そしてやはり、ラクルが共にいればとセトは思わずにいられなかった。

「ラクルにも食べてもらいたかったなあ」

 ぽつりと呟かれた言葉にセトは彼を凝視する。視線に気付くと董ははにかんだ笑いを浮かべた。

「ラクルは元気にしているよ。きっと。セトに会いたいって騒いでいるんじゃないかな」

「……そうだったら、私は嬉しいよ」

 見上げた先で、視線がぶつかる。董とセト、二人はくすっと小さな笑みを零す。

「あの子は私のただ一人の姉妹さ」

 セトはもう一つサラダ揚げを摘まみながら訥々と語りだした。

「いつも一緒。笑って、泣いて、嬉しいことも哀しいことも二人で分かち合ってきた。色々な話もした。神殿から見える街の景色を眺めて想像を膨らませたり、護衛の騎士に悪戯をしかけて怒られたり、いつまでも一緒にいようと話した。私のつまらない話をいつでも楽しそうに聞いてくれた。やさしい子だ」

 セトがラクルに会ったのは、五歳の誕生日だった。神殿の僧侶たちから誕生日おめでとうと祝いの言葉をもらい、お菓子をもらい、そしてセトと一緒に遊んでくれる子だと言ってラクルを紹介されたのだ。恐々とセトを見上げたラクルを、セトは笑顔で迎え入れた。それから二人はずっと共にあった。

「ラクルに、会おうね」

 董がセトを真っ直ぐに見つめる。希望的観測で言っているのではない。それは真面目に、必ず成し遂げてみせるという董の意思が感じられて、セトは込み上げるものがあった。


すみません。一旦ここまでで更新が止まります。

続きはまた書けたら少しずつ出していきたいと思います。

ひとまずは此処まで読んでくださってありがとうございました!

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